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屈辱的な敗北【プロローグ】(★)

「くっくっくっくっ……」

「ベルファレス様に楯突くなど忌々しいやつめ」

「やはり平原の民の力は大したことなかったな」


 目の前の男たちは、わたしを見下ろし嘲笑った。


 わたしは何度も打撃を喰らわされ、地に這いつくばっていた。体のあちこちが痺れ、立ち上がることすらできない。


『レラ、頼んだぞ。お前の働きに期待している』


 騎士団の仲間であるランティスの声が頭に響く。


(そうだ。わたしは……竜人族の討伐に……)


 意識が遠のいていくなか、自分の使命を思い出した。


 なんとか立ち上がり、わたしを取り囲む雑魚戦士たちに反撃を見舞ってやらねば。

 そうしなければ玉座でふんぞり返っている大男のもとへはたどり着けない。戦いはこの土地民族の首長、つまり主権者を相手にしなければ意味がない。


 こちらの交渉に応じなければ、武力でねじ伏せる。それがわたしの任務であった。

 交渉決裂により剣を取ったが、首長を相手にする前に護衛の戦士によってねじ伏せられてしまった。


 信じられない。最強の騎士と称されたこのわたしが、たった数名の男相手に……。


 地面に手を付き、上体を起こす。太ももを胸に引き寄せ、なんとか膝をつく。あとは立ち上がるだけ……。

 のはずが、ふるふる震えるだけで立ち上がることができない。

 上体を保つことができず、わたしはドサッと再び地面に伏してしまう。


「ふっ。……もうよせ。これ以上は無意味だ」


 威厳のある深い声が聞こえた。玉座に座る大男が鋭い視線を向け、わたしを見下ろしている。

 憐れむような瞳に腹が立つ。


 この男は首長に座しているだけあり、他の戦士に比べひと回り大柄だった。ナイフの切っ先のような鋭い目尻が印象的で、他の竜人族同様に、白い髪、尖った耳、青白い肌に鱗のような斑点があり、明らかに祖国の人間と容姿が異なっている。

 主権者だとわかるのは、衣服の刺繍や武具の装飾が豪勢であるからだ。加えて髪型も特徴的で、他の戦士たちは髪を短く刈り込んでいるのに対し、前髪を垂らし、長く伸ばした襟足に紐や宝玉を編んでいる。


 男は玉座から腰を上げ、わたしの足元へ進み出た。


「かわいそうに。……地面を這うことしかできないお前に何ができると言うのだ? お前には勝ち目はない。充分わかったであろう。降伏を申し入れれば、これ以上の攻撃は止めてやろう」


 逆に降伏を促してきた。わたしに情けをかけようとしているが、むしろ嘲笑っているようだ。


 散々痛めつけられ、抵抗することもできず、地を這う屈辱を味わう……。


 この状況には身に覚えがあった。


 不敵に笑う男から語られる言葉に別の誰かの顔が重なった。忌々しい過去の記憶が甦り、わたしの中で憎悪が増幅されていく。


『女のお前に何ができる!?』


 怒りという電撃がわたしの体を駆け巡る。


 さっきまで視界がぼんやりして、喋ることもままならなかったのに、キッと歯を食いしばり激昂していた。


「うるさい……!! お前なんて王国騎士団の総力を持てば、ひとたまりもない! 我が国王の命に従い、ヘスティア王国に服従せよ……。竜王!!」


 わたしが竜王と名指ししたこの国の主権者は、顔色ひとつ変えない。わたしの覇気も脅しもまったく通用しない。


「その申し出は先程も聞いた。もうすでに返事は済ませたであろう」


 竜王はキッと鋭い目付きでわたしを睨み、さらに言葉を付け足した。


「我が一族の土地を守るため、平原の民の言いなりにはならない……と。服従するのはお前の方だ。さもなくば……」


 竜王は刺すような鋭い目付きでわたしをジッと見下ろしている。


 その瞳の奥に殺意を感じた。死の予感が漂ってくる。


(無念だ……)


 きっとわたしは殺される……!


 使者は真っ先に切り捨てられることがあり、危険な役回りだ。

 これまで幾度となく命を狙われ、危ない目に遭ったことはあるが、わたしの技量で相手を制圧、もしくは退避することができた。


 そのどちらでもない状況になるのは今回が初めてだ。


 竜王が何か喋っている。

 その口の動きは先程に比べてゆっくりだ。


(何を……話している?)



 もう何も聞こえない。


 意識を保とうとあがくが、目蓋が重い。体が自分のものではないように言うことをきかない。

 せめて視界を保とうと、目蓋を持ち上げようとした。


 そこで、ガツン、と首筋に打撃を受け、わたしの意識は途切れてしまった。



 これが、竜人族の首長。竜王との運命的な出会いだった――


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