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過労系聖女ちゃん、男に転生す~次こそ自由な生き方を~  作者: 雪野マサロン
第一章 聖女?は転生す
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過労系 7あらゆる視点

 日本の大手ギルドたちは焦っていた。


 いち早く聖女を確保したギルドが世界を制すると理解しているから。


 とにかく情報が欲しかった。多少の赤字は覚悟で聖女が行くであろうアンデット系のダンジョンを徘徊させて捜索。冒険者たちの不満は捻出した報酬で誤魔化した。


 それで効果は出ていない。


 まだ数日しか経っていないが、されど数日。既に他のギルドが交渉しているのではないかと気が気でなかった。


 策としては成功していた。事実、SNSによる情報の拡散さえなければ蔵人は呑気にガイコツのダンジョンに顔を出して四方八方に囲まれていたに違いない。


 しかし孝介と言う悪友が世界情勢を教えてしまっただけに行き先を変更すると言う事態が発生しただけだ。


 これも現代ならではか。ダンジョン関連のニュースは割と広がりやすい。それも大手の動きとなれば尚更だ。それが数人単位での動きなら良かったが数百、下手をすれば千を超える人の動きに世間が食いつかない筈がない。


 つまり我先にと動いた結果、その全てがSNSに上げられてしまい、近寄りたくない蔵人にとって逆効果となってしまった。


「な、なんだと!? スライムのダンジョンに!?」


 だからこの情報にはどのギルドも愕然としてしまう。


「なんで、そんな実入りの無いダンジョンに…」


 スライムのダンジョンなんて物好きしか入らない。それこそ子どもが小遣い稼ぎに多少入るくらいだ。


 そんなダンジョンでの目撃情報に人々は頭を悩ませた。


 何せ、今のアンデット系ダンジョンの徘徊でも赤字を出しながら捜索している。


 魔石の小ささ、ドロップしても骨や腐った肉など使い勝手の悪い品、そしてあらゆるギルドの人間が入った事で魔物と出会うよりも冒険者同士が会う方が多いくらい魔物の少なさが利益を途端に少なくしてしまっている。


 中にはこんな報酬では続けられないとまだ数日にも関わらず苦情が出る有様だ。にも関わらず次に聖女が現れたのがよりにもよってスライムのダンジョン。より実入の無いダンジョンに現れてしまい各ギルドではどうすべきか議論していた。


 中小規模のギルドは捜査費の観点と大手のギルドの行う人海戦術に早々に見切りを付けた。大手であってもこの数日の赤字とギルドメンバーの苦情、何より聖女の現れるダンジョンが想定外に実入りの無い場所であり、捜査を断念するギルドと継続するギルドで分かれた。


 一つ出て来た選択肢としてあの聖女に二度も会えたアイドル三人に張り付くのも手であったが、動画を見る限り聖女の三人に対する興味関心は薄かったので無意味と判断していた。





「我らブリステット聖騎士団は聖女様をお迎えするぞ!」

「「「はっ!!」」」


 こうした団結力の強いギルドはどんなダンジョンだろうと潜り捜索を続ける。


 聖騎士団はあらゆる奇跡を独占――保護と称して――しようと魔道具でさえあらゆる手段で確保した。


 それで何処かに恨まれようと神の奇跡は敬虔(けいけん)なる信者にこそ与えられるべきと信じて疑わない。


「聖女様はブリステット教にこそ相応しい」


 そんな彼らは宗教家であるが故に死を覆す蔵人を本物の神の子として崇めていた。死者の蘇生という神の身技は我々にこそ与えられるものであると盲信している。


 それが蔵人にとって最も嫌う行為であるにも関わらず、神の使命だと宣い堂々と叫ぶ姿は滑稽と言えた。

 




「日本の宝だ。何としても交渉するぞ」

「「「はい!」」」


 本腰を入れているのはギルドだけではない。


 死者の蘇生。それを望むのは何も冒険者だけではない。誰もが事故死、毒殺に刺殺に銃殺とあらゆる場面で死が襲う。それを特に身近に感じる者たちは命に対してストックが欲しかった。


 それが権力者。日本の宝だと建前を述べつつ自身の命のストック欲しさに必死になって喉から手を伸ばす政治家が秘書に命令し権力を使えるだけ使って情報を得る。


 それこそ町中の監視カメラをくまなくチェックさせたり出ていた動画を詳しく解析させるなどあらゆる角度から聖女の行方を捜している。


 しかしそれも無駄な事。現代社会においてあらゆる場所にカメラがあると知るだけに移動は基本『テレポート』を駆使する上に姿を隠す『インビジブル』さえ使いこなす蔵人はまるで幽霊のように現れたり消えたりするので驚くほど捕まえる事が出来ない。


 そもそも聖女であるクラウディアの姿からして前世の姿であり、今は蔵人でありしかも男。見つけ出すのは絶望的と言えた。


 そうした意味では全く見つけるつもりの無かったストロベリータウンの三人がとんでもない強運の持ち主だったと断言できる。




 

 ではそんな三人はと言うと。


「はぁ…、こんなのもらい事故だよ」

「ですよね」

「ちょっと辛い」


 SNSではひたすらに叩かれ、配信してもアンチが湧くしまつ。つまり炎上していた。


 

 ・なんで会えたのに連絡先を聞いてないんだ!!

 ・上手く行ってたら私の彼氏が生き返ったかも知れないのに!!

 ・所詮アイドルなんて顔だけだ。

 ・これは戦犯

 ・生き返ったらもう関係ありませんってか? ストロベリータウンからゾンビタウンに改名しろよw



 こんな形で四方八方から燃やされていた。中には生き返らせて欲しい者もいない上に冒険者てもない者が愉快犯となって便乗して燃やしているのもいた。


 お陰で三人を知らない者の方が少ない。ニュースにも何度か取り上げられ燃料が投下されたりもして話題の中心になってしまっている。


 炎上商法と考えれば間違いなく成功しているが、こんなヘイトを買いまくる状況を誰が望むのか。


 三人のファンである者や良識ある者は彼女たちの擁護に周っているが、いかんせん総体数が違い過ぎる。世間は三人を叩く流れは変わらなかった。


「クラウディア様は悪くないんだけど、この流れは歓迎出来ないよね」


 未来は事務所の机に自慢の胸を押し潰す形で身体を預けながら自身のSNSに届く苦情をうっとうしそうに眺めていた。


 三人が所属する事務所としてもふざけたクレームばかり来るのでその対応ばかり追われて辟易していたが、三人を切る選択をしなかった。


 これが未来の言う通りもらい事故であり三人に否はない。あの動画を見ていれば完全な偶然だったと証明出来る。


 しかし世間とはそんな正論でどうにかなるものではない。どちらかと言えば声が大きく感情の流れやすい方に物事は進む。


「【実は動画はヤラセで聖女様と繋がっている!?】なんてありますけど、それなら最初からクラウディア様に釈明動画撮らさせて貰ってますよ」


 有栖が暴露系の動画のタイトルをげんなりと呟く。


 こうした誹謗中傷を加速させる動画も増えている。何せ今話題の聖女様。そんな聖女を主体とした動画ならバズれると三人は見事に標的にされた。


 その内容は杜撰な一言。大手のギルドや有名冒険者の勧誘を躱しているだけで既に聖女様は確保されているから勧誘に乗らない、なんて無茶苦茶な暴論まで披露されている。


 もちろんそんな動画を鵜呑みにした者たちから聖女様を返せ、聖女様を解放しろなんて苦情も来ていた。


「大体あの人謎。私はダンジョンの精霊説を推したい」


 少ないながら存在するダンジョンの精霊説。三人と流暢に会話していただけに精霊と呼ぶにはもう意思疎通が取れ過ぎていた。


 そもそもダンジョンに現れる魔物で意思疎通可能な生物は目撃されていない。大概の生物が殺意高めで襲って来るだけに魔物は見たら駆除するのが常識だった。


 なのにダンジョンの精霊扱いである。蔵人が聞けばどうしてそうなると尋ねるレベルだ。


 しかしそれだけ世間にインパクトを与えたのも事実。ダンジョンの精霊と荒唐無稽な話であっても思わず耳を傾けてしまうもの。


「でもせっかく勇気を出してダンジョン潜ったのに結局活動休止になるなんてね」


 常人なら数ヶ月は潜るのを止めるだろう大怪我、死んでしまった以上それよりも上の精神ダメージを負っていながら僅か数日で潜る決意をしたのは凄まじい。


 しかしその結果、蔵人と出会ってしまい炎上。ツイているのかそうじゃないのか分からない三人だった。


「これからどうしましょうか?」

「どうとは?」

「ですから私たちまともな活動が出来ませんし、どうやってこの状況を変えるか、ですね」


 現状ではほとぼりが冷めるのを待つしかない。そもそもがもらい事故。蔵人からしても驚くべき偶然によって邂逅したのであって示し合わせたわけではない。


 しかし世間はこの結果を偶然と呼ばず、必然だったと不満を漏らすのが問題になる。


 なら蔵人がどこかのギルドに所属すればヘイトはそちらに向く。しかし本人にその気はない。だからこの状況はしばらく続く。


「クラウディア様は聖女を辞めたような口ぶりでしたし、何処かに所属するとは思えないんですよね」


 誰もが自分の利益を優先し、見るべき所から目を背けていた者たちと違い、蔵人の気持ちを御手洗は的確に答える。


 そしてその答えから訪れるだろう未来にため息が出てしまう。


「絶対身を隠しますよクラウディア様。私たちが配信してたのもあってガイコツのダンジョンを避けてあんなスライムのダンジョンにいた訳ですし」

「だよねー…」

「困った」


 蔵人の連絡先を知らない。それどころかクラウディアの姿を変装であると知らない以上蔵人に辿り着くのは不可能。


 それこそ蔵人自身が三人に近付かなければ有り得ないだけに絶望的に手詰まりだった。


 恨みはなく、むしろ生き返らせてくれてありがとうございます、とした気持ちが強い反面、こうして世間からの非難を一身に受ける羽目になっていると憂鬱な気持ちが湧いてしまう。


「何も出来ないし今日は帰ろっか」

「そうですね」

「うん」


 街を出歩けば声を掛けられるだけに自宅で過ごすしかない三人。


 一体いつまで続くのかと不安になりながら席を立つとスタッフの皆にあいさつをして事務所を出て行こうとする。


「お先に失礼しまーー………す?」


 未来は事務所を出ようとした矢先、それを見てしまう。


「おや、今日はお帰りですか? なら日を改めますが」


 何故か事務所の来客用ソファで優雅に居座るクラウディアがそこにはいた。

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