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過労系聖女ちゃん、男に転生す~次こそ自由な生き方を~  作者: 雪野マサロン
第一章 聖女?は転生す
8/61

過労系 6

個人的にですが掲示板だけだと味気ない気がしまして

 蔵人(くらうど、)は旋律した。なんでこんなに話題になってるんだと。


 あれからちゃんと情報を収集して色んな掲示板にSNSで話題になっているニュースをチェックすればするほど聖女を求める声が尽きなかった。


 まさかあの一回の蘇生が見られた事。そしてその僅か一回がここまで酷くなるのは読めなかった。


 蔵人の感覚では蘇生は特別でもなんでもない。ある程度の危機管理から人目に付く状況を避けていたとはいえ、気まぐれで使う分には問題ないと思っていた。


 しかしながら現実はこうだ。孝介に教えてもらわなければガイコツのダンジョンは過疎っているから大丈夫と大勢の前で『テレポート』をかまして囲まれていたに違いない。


「はぁ、私のストレス解消には良かったんですけどね。あのガイコツのダンジョンは」


 結局、蔵人はクラウディアの姿を捨てられなかった。


 他人の姿を借りるには『ファントム』が維持出来ない可能性があり、かといってダンジョンに潜らないのもつまらない。好きに生きると決めた手前、他人どうこうで我慢を強いられるのは気分が悪く世間に騒がれているからと落ち着くまで姿を隠すのもストレスだ。当然蔵人自身をさらすのは論外。


 そうした理由からクラウディアの姿を使い続けてダンジョンに潜っていた。その分潜るダンジョンを配慮している。


「このスライムのダンジョンでなら問題ないでしょう。セイントアロー」

「プギュゥ…」


 光の矢がスライムの核に的確に突き刺さり消滅したスライムが極小の魔石を落とす。

 

 蔵人がこのダンジョンを選んだ理由としてアンデット系のダンジョンが軒並み入るのが難しくなったからだ。


 聖女の話が出た後にガイコツのダンジョン以外の不人気だったアンデット系のダンジョンを聖女は浄化して周っているんじゃないかと奇妙な噂が流れる。当然そんな噂はデタラメだったのだが、僅かな情報でも真偽を確かめる為に人海戦術で色んな人が入り始めた。


 蔵人にとって不幸なのは聖女を捜しているのが大規模であり、大型ギルドは海外勢も含めて入って来てしまい本来なら過疎状態のダンジョンが満員御礼と傍迷惑な入り具合となってしまった。


「臭いが最悪なゾンビのダンジョンでさえ人がいるとか根性感じますね」


 蔵人でさえ入りたいと思わないゾンビのダンジョンだがクジやジャンケンで負けた可哀想な人たちが入っているのはここだけの話。


 で、最終的に蔵人が目を付けたのがここ、スライムのダンジョンだった。


 実入りがとても悪く魔石の大きさも有ってないようなもの。少し狭目の洞窟型で罠らしき罠もない冒険者を初めて数日入るかな程度のお試しダンジョンだったりする。


 蔵人にとって魔物を倒すのはあくまでストレス解消で倒してるだけで収入面は割と十分アイテムボックスに入っているので問題なかった。


「他に丁度いいダンジョンはありませんか、ねっ!?」

「いつっ、え?」


 ばったりと曲がり角でぶつかるのは通学路だけにしてもらいたい。


「あ!」

「聖女様!?」


 何故こうして出会うのか。しかもよりにもよって出会ったのは蔵人が蘇生したアイドル三人娘だった。


「……貴方たちとは不思議な縁があるようですね」


 今すぐ『テレポート』を使いたかったが座標を設定する必要があり、かつダンジョンの中から外には空間そのものが違うせいで使う事が出来ない。


 それに彼女たちの傍に浮いているドローンが配信中だと物語っており下手な魔法が使えないジレンマがあった。


「あ、あの!」

「はい?」


 木島未来(右ほくろDカップ)が話しかけて来る。


「聖女様ありがとうございます! あの時聖女様が居られなかったら私たちはあのまま死んでたと思いますし」

「まあ実際死んでましたから」

「あ、やっぱり私たちって……」


 暗い顔でうつむく御手洗有栖(垂れ気味Eカップ)が青ざめている。


「運が良かったと思いますよ。綺麗な死体でしたから」

「綺麗じゃなかったらどうなってたんでしょうか?」


 恐る恐るといった形で近衛(Aカップ)詩音(修正パッチ付)が確認する。



「そのまま放置してましたよ。無駄ですし」



 ばっさり切り捨てるように告げる蔵人に配慮はない。


「えっと聖女様は…」

「その聖女様って言うの止めてもらっていいですか? もう私は聖女じゃないので」


 聖女聖女と言われると前世の悪夢を思い出す。それに聖女と(すが)られるのは気分が良いと言えなかった。


「では何と呼んでも?」

「……クラウディアと」


 一瞬思案してやはりこの姿はクラウディアだろうと思い切る。そもそも他の名前なんて考え付かなかったのもある。


「クラウディア様、その今配信してますけど良いんでしょうか?」

「はい? 何か問題でも?」

「え? 良いんですか!?」

「今更でしょう」


 せっかくこの過疎ダンジョンに来たわけだが、こうしてバレた以上はここもすぐ人が来てしまうだろう。残念だが次を探すだけだ。


「それよりもコメントは荒れてませんか?」

「「「あ!」」」



 ・聖女様ーーーーー!!!

 ・聖女様どうか私の夫を救って下さい!!

 ・どっから湧いたよこの信者ども

 ・そもそも聖女ちゃんが聖女呼びされるの嫌がってる件

 ・それなwww

 ・三人と聖女ちゃん運命の糸で結ばれてない?

 ・これはストロベリータウン加入待ったなし



 随分と荒れていた。いきなり湧いて出た虫が配信に群がるようにコメントを打ちまくっている。


「面倒なのはゴメンなので今日は失礼しますね」

「クラウディア様! 私たちまだお礼が!!」

「そうですよ! 貴方がいなかったらこうして配信出来なかったのに!」

「………」


 既に迷惑なのに気付いて欲しかった。詩音だけが配慮してか何も言わなかったが、それならこの二人を抑えて欲しい。


「では失礼します」

「ま、待って」


 しつこい。蔵人は今すぐ帰らないと出口がとんでもない事になるので時間を取られたくなかった。なので早々に切り札を切る事にする。


「いい加減にしないとバラしますよDカップの右ホクロが可愛いって」

「っ!?」


 ボソッと耳元で言ったが効果てきめんだった。顔を真っ赤にして離れる未来は何で?! と驚きを隠せていなかった。


「Eカップだと垂れやすいのですか?」

「ひぃっ!?」


 有栖はホラー映画でも見たかのような悲鳴を上げる。


「あ、ひょっとして…」


 今の蔵人は無敵だ。そもそも姿としてはクラウディアなだけに気になる点をズバっと聞いてしまう。


「今日はその胸の材料でも取りに来ましたか?」

「にぁっ!?」


 飛び火した詩音の耳元で囁くと本人はまるで猫のように飛び上がった。


「ああ、違いましたか。ではこれで失礼しますね」


 呆然とする三人を他所にさっさと切り上げる蔵人はどうにかダンジョンに人が集まる前に帰る事が出来たのだった。




 ・・・




 <未来side>



 時は少し遡り、木島たちは今日リハビリもかねてスライムのダンジョンに来ていた。


 何せ死んでからまだ数日しか経っていない。正直言ってしまえばダンジョンに入るにはまだ恐怖心が抜けていないので入りたくなかったが、蔵人のお陰で伸びた現状で休むのは実に勿体ない。このまま休んでしまうとせっかく興味を持ってくれた人が離れてしまう。だから三人で話し合い初心者しか入らないダンジョンであるスライムのダンジョンでリハビリをすることにした。


 リスナーたちにはしっかり説明している。中には画がつまらないと早々に消えてしまった人もいたが、この恐怖心を理解出来るのは一度死んだ三人以外いないだろう。


 そして入ったダンジョン。一歩踏み込むにも数十分要した、いや僅か数十分で入れたのだから彼女たちは立派だ。


「ご、ごめんねみんなー。ようやく入れたよー」


 未来は震える声を誤魔化すように声を張る。死の恐怖を支えたのはお互いの絆とリスナーたちの応援があってこそ。



 ・おおおっ!!すげぇよ!!

 ・【¥10,000】よくやった!!

 ・【¥5,000】感動した!

 ・よく耐えてるわ。俺じゃ無理だ

 ・【¥12,000】サイコーーーー!!!



 こんなスライムのダンジョンに一歩入るだけでお金を使ってコメントをするスパーチャットが飛び交う配信はここくらいだろう。


 しかし事情を理解するリスナーたちはこの一歩がどれ程大変だったのかも分かるだけに興奮もしてしまう。


 何せイレギュラーである四本腕のガイコツに殺された。それを配信と言う形で見守ったのだ。救助よ、早く来てくれ。ああ…、そんな。と手に汗握って彼女たちが死ぬ瞬間まで見続け恐怖を共有しただけにその気持ちは正に一心同体と言っても良い。


 だからファンであればあるほど彼女たちの偉業に感動してスパチャを投げる。


 事実大怪我からトラウマになりダンジョンに入らなくなった冒険者は多い。そうした点では彼女たちの心は強く、それが人を惹きつける魅力となっていた。


「わ、私たちまだお礼も何も言えてないもんね」

「そうですよ。聖女様に会わず引退なんて出来ません」


 蔵人からしたら命が助かって良かったね、で終わりな話ではあったのだが、当の本人達は動画を見返して聖女様に助けられたと知り、何としてもお礼を言わないとと躍起になっていた。


 もし蔵人に助けられたと知らなかったら未だにガイコツの悪魔を見ながら塞ぎ込んでいた可能性だってある。


 既に終わった過去でしかないが、こうした義理堅い人間がクラウディアの時に現れていたらどれだけ違っていたか。


「……っね!?」

「いつっ、え?」

「あ!」

「聖女様!?」


 そして再び邂逅を果たす。当然配信は興奮の嵐だ。これ以上のドラマはなく、こんなにも凄い取れ高は無いと言えるくらいに運命的だった。


「……貴方たちとは不思議な縁があるようですね」


 初めて聞いた聖女様の声は福音に似つつも、平坦で何処か他人事のような呟きだった。


 しかし彼女たちにとって千載一遇のチャンス。助けてくれてありがとうございますとお礼を述べる。


 ただそれは聖女様――クラウディアには届かなかった。


 それどころか生かすか殺すかは自分の意思でしかないとする死神にも似た冷酷さが言葉の端から滲み出ていた。


「そのまま放置してましたよ。無駄ですし」


 この無駄が何を意味するか三人に理解するのは難しかった。


「その聖女様って言うの止めてもらっていいですか? もう私は聖女じゃないので」


 聖女じゃないとは何なのか。聖職者の装いでありながらまるで神を否定しているように見えるクラウディアに近衛は恐れを感じる。


「いい加減にしないとバラしますよDカップの右ホクロが可愛いって」

「っ!?」

「Eカップだと垂れやすいのですか?」

「ひぃっ!?」

「あ、ひょっとして…、今日はその胸の材料でも取りに来ましたか?」

「にぁっ!?」


 なのに、どうしてか。最後には親しみ易さを持ったイタズラ心を発揮して去って行く。



 ・追いかけろ!!

 ・早く聖女様の連絡先聞いて!!

 ・このままだと何もなく終わるぞ!!



 あまりのギャップに呆然としてしまった三人は来ている大量のコメントを読んでハッとする。


「ま、待って!!」


 駆ける三人だったが、ダンジョンの外を出た時にはもうクラウディアはいなかった。


 彼女たちはせっかく出会えたクラウディアを逃してしまった事で炎上してしまう。


 まさか過ぎる展開に頭を抱える誰かさんは違う意味で困ってしまうのだった。

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