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過労系聖女ちゃん、男に転生す~次こそ自由な生き方を~  作者: 雪野マサロン
第五章 死者は野望を果たす 
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過労系5 7

 リーデットは蔵人(くらうど)が復讐の機会を伺っている中、優雅にワインを楽しんでいた。


「随分とご機嫌じゃないか教皇様☆」

「あら、お早いお帰りですねテトロ」


 グラスを机に置いたリーデットは自室に入って来たものを見る。


 軽薄そうな面に短い金髪の左横に三本の剃り込みを入れた白人の男性。かつて毒によって学校中の生徒を皆殺しにした狂人テトロが扉の前に立っていた。


「教皇様にとって邪魔になるのを消すだけだからな☆クラウディアのカードが強すぎて玄関から入っても楽に通してくれるもんだ☆」


 お前の娘息子を優先的に蘇生させられるぞ? と囁くだけで事情がある者たちは率先して協力してくれる。


 かつてリーデットの邪魔になるからと半死半生になりながら要人を殺したのが一体なんだったのかとテトロは思わされるほどだ。


「で、クラウディアは放置で良いのかい?」


 テトロは自身の上司とは思えないほど軽薄な態度を取りながら乱暴に椅子に座ると空のグラスにワインを注ぐ。


 そんなテトロに怒るどころか笑うリーデットはそんな些細な事が気にならないくらい上機嫌だった。


「問題ありませんよ。私の支配が切れる事はありませんし。ふふ、しかし笑いが止まりませんね。私に逆らえる組織が無くなるのも時間の問題なのですから」

「あん? それはまだまだ先の話だろ☆」


 テトロにとってリーデットの完全支配は好ましいものではない。何せそうなるとテトロの仕事がなくなる。


 得意の毒を使う機会を奪われるのは良しとしない。それだけにリーデットの野望、世界征服は過程は楽しめそうだが完了してしまえばテトロの出番は極端に少なくなるだろう。


 それだけに程々の支配と対抗する戦力がある方が好ましいのだ。


「まあ今後貴方に頼む事は殆どありません。何せ私に逆らう組織は従順な者たちが率先して潰してくれていますから」

「あー、今日生き返らせた息子の社長とかか☆」

「その通りです」


 もちろんその社長だけじゃない。すでに蔵人によって救われた権力者は多く、働きアリのように蔵人を奪おうとする者たちを次々と潰しまわっている。


 当然彼らの役割はそれだけではなく、資金面での支援は当然のことで向こう数十年何もしなくともブリステット教は安泰と言える。しかしそれはリーデットの野望には程遠い。


「私の()()()()は時間の問題。前のような過ちは冒しませんよ」

「前だぁ?」

「ふふ、なんでもありませんよ」

「相変わらずの秘密主義だな☆」

「それが私ですので」


 リーデットは前世であまりにも気ままにやり過ぎた。


 権力に固執し全てを捨て駒に何も配慮せず、ただただ侵略する事だけを考え王を傀儡としてあらゆる国に喧嘩を売り世界の全てを手にしようと画策した。


 実際最初は上手くいっていた。兵を多大に消耗させようとすぐ回復して戦場へと戻るのだからある意味無限の兵力で他国を責め潰せた。


 だからこそ有頂天になっていた訳だが、クラウディアによってその状況が全て支えられているとは流石のリーデッドも思いもよらなかった。


 精々複数人のシスターたちによって交代で兵士たちが蘇生され、作られるポーションが兵士たちの死を食い止めている。そう勝手に思い込んでいた。しかし実際はクラウディアが一人で蘇生し、一人でポーションを作っているなんて誰が想像するか。



 現場を知らなかったリーデットが気付けたのは戦況が瞬く間に悪くなり、兵士たちの数が激減してから。



 まさか現場がクラウディア一人にまかせっきりで蘇生魔法を使える者が減っており、かつそれでいて膨大な死体を蘇生させられるシスターが存在しないなんて思いもよらなかった。

 

 それにポーションもそうだ。全てがクラウディア作であり、それ以外のポーションは効果も半分以下。劣化ポーションに蘇生なしで戦線の維持など土台無理な話であった。


 押し込まれ潰された祖国はリーデットが死後は奴隷国家となり老若男女問わず酷使されたがそれはまた別の話。


 とにかく問題だったのはリーデットが有頂天となり現場を知らず、ゲーム感覚で手段を問わず支配を広げ過ぎてしまった事。


 今回はそうした失敗を鑑みて一番重要なキーでありクラウディアを手元に常に置き、蘇生を安売りせず武力による支配を止めて利益の享受による合法的な支配へと切り替えた。


 その結果がこれだ。誰もが蘇生の恩恵を受けようと(こうべ)を垂らして従順となる。特に一度蘇生の恩恵を得た者は感謝の念からまるで働きアリのように自ら成果を持ってくる。


「私の理想の世界はもうすぐです。誰もが私にかしずき支配を喜んで受け入れる世界が」


 ふふふふ、と笑みを絶やさないリーデットはリーチの掛かったこの状況を大いに喜んでいた。


 クラウディアが蔵人となり同じ世界に転生していた事。クラウディアが蘇生魔法をこの世界でも使えた事。クラウディア以外の人間に蘇生魔法が使えなかった事。そしてクラウディアが()()()()()()()()事。


 その全てが見事にリーデットの思惑と噛み合いクラウディアを、蔵人を手中に収められた。


 これがもし蔵人が蘇生魔法を利用して他の人物の後ろ盾を得ていたのなら、リーデットもこんな強行策は取れず世界の支配は難航しただろう。


 しかし蔵人は権力者を、いや人そのものの悪性を知り過ぎた。


 だからその悪性から逃れるため力を隠す選択をしたわけだが世間に蘇生魔法が露見してからも隠し続けたのは悪手。リーデットのような悪は必ず寄って来る。なら自分にとって都合の良い後ろ盾を選別すべきだった。


「………まあ教祖様が良ければいいがな☆」

「何か思うところでも?」

「いや何も☆ 意外なところから足を掬われるなよ?」

「そうならないよう手は打ちますよ。もちろん貴方にも働いてもらいますよ?」

「はいはい☆」


 リーデットが世界を支配する日は近い。

前世では蘇生魔法はそこまで貴重ではなく、どの国でも使い手はいた。

しかしクラウディアほど大規模蘇生が出来るものはいなかったので兵力の損耗は避けられなかった。

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