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過労系聖女ちゃん、男に転生す~次こそ自由な生き方を~  作者: 雪野マサロン
第四章 狂信者は暗躍す
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過労系4 8

 蔵人は何が起きたのか理解出来なかった。

 

 生徒も教師も倒れ伏す中でいち早く起き、いや()()したのは蔵人だった。


「一体何が……っ」


 待機状態の蘇生魔法が発動したことで冷静に危機に対処しようとするも目の前に広がるクラスメイトたちの屍、その中にいる孝介に目の前が真っ暗になった。


 蘇生させれば良い。ただそれだけの筈だった。数千、数万の死体をクラウディアの時に蘇生させた。だから今回も蘇生させればと自然と身体が動く。


 タクトの様に腕を動かしいつものように蘇生魔法を唱えるだけ。


「リザレ…」

「井出! お前は無事だったか!!」

「っ……先生か」


 慌てて魔法を中断する蔵人の腕を掴む中年教師はニヤリと笑う。




「その動き、お前がクラウディアだな☆」




 その顔はどうしようもないくらい悪意に満ちていた。


「は? 痛っ!?」


 掴まれた腕に何かが打ち込まれる。その瞬間、蔵人は全身が痺れていくのを感じた。


 倒れる蔵人はどうしてこの中年教師が? と口にしたかったが既に身体に力は入らず、声を出すのも儘ならなかった。


「あー、ようやく解放されるぜ☆この窮屈な生活ともおさらばだ☆」


 中年教師は蔵人の腕を離し、(おもむろ)に顔に手を掛けると中年教師の顔が剥がれ、中からは短い金髪の左横に三本の剃り込みを入れた白人の男性が姿を現した。


 まさか蔵人を狙っていたのが李やエリスだけでなかった上に中年教師が別人になっていたのは二重の意味で驚きである。


「お、意外か? ってかこっちはクラウディアが男なのに驚かされたぜ☆」


 何故この白人は蔵人をクラウディアと確信するのか。


「まあ言いたい事は色々あるだろうがまずは自己紹介だ☆俺はブリステット教所属のやさぐれ潜入工作員、テトロ。ただの汚れ役だ☆」


 自己主張の激しい潜入工作員は学校の教師役から解放された喜びから踊るように動き回る。


「いやー、マジでなんて言うの? これが宝くじに当たった気分ってやつ? 普通あり得んと思うわな☆︎」


 痺れて喋られない蔵人に好き勝手話し掛けるテトロはネタバラシをするマジシャンのように丁寧に解説を始める。


「まああれだ☆︎うっすい可能性だったがこの学校にクラウディアが潜伏しているんじゃないかと推察して一番情報を集めやすい教師に化けた☆︎本物はダンジョンで永眠中だぜ? 小さい棺桶(アタッシュケース)の中でな」


 中年教師が狙われた理由は二つ。


「こいつはスタンピードの起きた実習をしていた生徒たちの担任だ☆︎なら一番可能性があるのはその生徒たち☆︎クラウディア本人でなくとも関わりは何らかあると思ったぜ?

 そんで独り身でしかも碌な身内がいないのも良い☆︎短期間の潜伏でも余計な詮索をされない奴が良いからな☆」


 中年教師は既に死んでいた。入れ替わっていたのはスタンピード後の一月の休みの間。


 もちろん中年教師は楽に死ねなかった。


 変装の為に交友関係や教師の業務内容、生徒たちとの関係性や能力までありとあらゆる情報を吐かされるための拷問が繰り返し行われた。


 その過程で必要以上に痛めつけ最後には中年教師の心が壊れてしまったのはテトロの趣味でしかない。


 聖騎士の看板とは裏腹にテトロの残虐性から表での活躍は難しいと判断され工作員としての役割を担っているが本人は今の自身の仕事が性に合っていた。


「ただこいつの仕事が最悪だった☆湧いて出るモンペどもに効率を一切無視した業務を押し付ける教頭☆どんだけぶち殺してやりたいと思ったか☆まあ腹いせに俺特性の劇毒を使ってやったがな☆」


 もっと違う方法も取れたが合理性と同時に溜めさせられたストレスに生来の残虐性が合わさった結果、テトロの毒によって多くの生徒と教師が死んだ。

 

 翌朝にはニュースで大々的に報道されるだろうがテトロからしたら知ったことではなかった。


 潜入した目的がクラウディアのあぶり出しであり、更に自身がブリステット教に所属したテトロではなく中年教師であり続けただけにブリステット教まで捜査の手が伸びる可能性は低い。


 ここが田舎で監視カメラが無いのも丁度良かった。まああったところで壊していたが。


「何かしら起きればクラウディアに繋がるだろうと考えてだったが大当たりを引いちまったぜ☆」


 テトロはかなり幸運だった。


 今回の毒殺がもし前世で行われていれば蔵人であろうとそのまま死んでいた。


 しかし蔵人はクラウディアの頃の経験から人はポックリ急死すると学び、リザレクションのストックをする事で急死に対抗する手段を身に着けた。


 そうでなければテトロはただ大量殺人をしただけどころか蘇生魔法をこの世から消滅させた戦犯となっていた。


 しかしそんな重大なやらかしを仕掛けていたのにテトロは気付いていない。


「じゃあ、後はお前を教祖様の元へと送るだけだ☆何か知らねぇが()()()()()()()みたいな事言ってたぜ?」

「っ!?」


 俺を知ってる? その教祖は一体何を知っているのか。


 言い知れぬ不安感と恐怖に苛まれる蔵人は何か魔法が使えないかと模索するも詠唱を無くせても身振りによって補完していたのもあって解毒も(まま)ならない。


 せめて指先でも動けばと必死に動かそうとするも見事なまでに毒が効いており何も出来ない。


 このまま連れ去られてしまえば他はどうでも良いが孝介が死んだままだ。


「………」


 どうにか出来ないか、身体は動かなくとも思考は動く。


 魔法を発動させるのに詠唱は要らない。しかし魔法名は唱える必要があり、ストックするにしても一度唱えてから魔法を体内で循環して維持する必要がある。


 それが死んでからも蘇生するカラクリであるが、回復に必要な魔法が浄化か蘇生の二択だが両方とも魔法名を唱えなければならない。


 身体強化系の魔法と違って回復系は一度魔力の形を変える必要があり、その肝となるのが魔法名の詠唱になる。


 つまり今の蔵人は口どころか指の先も動かない以上魔法の行使が出来なかった。


「じゃあお前には小さなアタッシュケースなんてエコノミークラスじゃねぇリッチなビジネスクラスで運んでやるよ☆」


 絶体絶命。必死に何か出来ないか考えるも自身が魔法が使えなければただの人だと認識させられるだけだった。


 このまま連れ去られるしかないのか? そうなれば待っているのは前世のような酷使。


 ただ只管(ひたすら)に死人の入った棺桶にリザレクションを掛ける毎日。


 あんな毎日が戻って来る? ――――ふざけるな!


「~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」


 蔵人はあんな地獄がこの先に待っていると知って何もしないでいられるかと唸るもびくともしない身体。しかしだからと抗うのを止められる筈がない。


 ほんの少しで良いのに。指先さえ動けば簡易的な魔法は使える。それこそファイアボール程度なら魔法名も言わないで扱える。


 対抗出来るのだ。このへらへらと笑う不快な金髪野郎の顔面を燃やして灰燼に帰せる。それだけの力があるのに。


 なのに動けない。ただそれだけで蔵人は何も出来なかった。


 ファイアボールで燃やせず、身体強化で殴れず、そして回復も出来ないどころか逃げられもしない。こんな苦痛を味わう羽目になるなんて夢にも思わなかった。


「おいおい、俺の毒がそんな簡単に切れるかよ☆大人しく運ばれてろ☆」


 テトロは不快な笑みを浮かべつつ蔵人の少しでも抵抗しようとする様子をせせら笑う。


「言っとくが抵抗は無駄だと思えよ? 教祖様はお前対策にと俺を派遣してんだからよ☆クラウディアに特別の魔法封じで作った毒だ☆」


 教祖は碌でもない奴だと憤る反面、ここまで完全に封じられているのを鑑みると前世(クラウディア)で関わりのあった人物なんだと冷静に分析する。


 その上で蘇生魔法を手に入れるために未来ある若者をどれだけ殺そうと痛む心を持たない人物。


 金で上まで上り詰めた教皇然り、雑用を押し付け続けた公爵の娘である聖女然り、こいつらは蘇生魔法が使えなかった。


 何せ権力ばかりに固執した者たち。研鑽なんて言葉は奴らの中になかった。その中でも一番教祖であって欲しくないのは――。


「さーて、長話はフライトでしようや☆どうせ長い付き合いになるんだぜ?」


 動かない身体の変わりに動く頭が教祖に対して思考する蔵人をテトロが拾い上げようと手を伸ばす。


 毒はまだ抜けない。このまま捕まれば終わる。蔵人だけではない。それこそ死んだ孝介も蘇生出来ていない。他生徒たちもまあいるが。


 だからどうにか、どうにかして今の状況を……。


「クラウディア、ゲットだぜ☆」








「死ネ」

「っ!?」


 全てが終わったかに見えた状況だがまだ希望は残っていた。


「クラウディアは私が貰ウ」


 その希望もまたクラウディアを狙っていたが。

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