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過労系聖女ちゃん、男に転生す~次こそ自由な生き方を~  作者: 雪野マサロン
第四章 狂信者は暗躍す
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過労系4 1

 蔵人は朝から席で孝介がソワソワしているのに気付く。


「お前何でそんなに落ち着きないんだ?」


 朝日が眩しいと感じる今日この頃。少しばかり夜更かしし過ぎたと反省しつつ、教室を見渡せばどの生徒も同じ様に落ち着きがなかった。


「そら蔵っち急な留学生やで? どんなんが来るか気になるやん」

「そんなもんか?」


 そう言えばストロベリータウンの三人がやって来た時も似た様なリアクションだった気がする。


 あまり人に興味の湧かない蔵人に他人と同レベルのリアクションを取れと言うのは酷な話。そもそも肉体の疲労感からテンションはいつもより低かった。


「なんや蔵っち。いつにも増してテンション低いやん」

「お前の姉に言ってくれ。あのニート時間も気にせず盛って来たからな」

「あー……、そらスマン。けど付き合う蔵っちも蔵っちやん? 満更でもなかったんやないの?」

「ノーコメントで」


 だって男だもん。誘われたら、ねぇ?


 あの一件以降蔵人も我慢を止めた。もっとも避妊はちゃんとしているので問題はない。


 ルカも蔵人以外となるとリスナーに襲われた恐怖からか他の人ではその気にもならないが、抱かれたいなと思うと蔵人を誘うようになった。


 そんなルカの相手で気が付けば朝になっていたので蔵人は寝不足だったりする。当の本人は現在熟睡中であるが。


「蔵っちなら何とかならへんの?」

「それすると昔を思い出すからしたくない」

「さよか」


 蔵人のそれとは回復魔法による疲労回復である。まだクラウディアが酷使される初期の頃は回復魔法による誤魔化しも行っていただけに肉体的疲労を回復魔法で治すのは微妙に忌避感があった。


 それに治すのも自業自得の結果で疲労感もあり甘んじて受け入れていた。


 周囲を気にして孝介は『魔法』の単語を抜いていたが蔵人には正しく意味は伝わっている。クラウディアが秘匿すべき情報なのを理解しているだけに孝介の言葉選びは慎重だった。


 そうした気遣いが出来るだけに蔵人は力を貸した。


 それによる影響は今のところ出ていないが今後どうなるかは分からない。


 逃した敵、マシュマロン大佐と誠から情報が漏れるのも気にしたがSNSにそれらしい情報は出ていないので問題はないと踏んでいるが注意はすべきか。


 少し気が緩んでるなと改めて自分の行為に反省しているとチャイムが鳴り響く。


「席に着けー、ホームルーム始めるぞー」


 時間ぴったりにうだつの上がらない中年教師が教室に入って来ると生徒たちに注意を促す。


「じゃあ知ってると思うが留学生を紹介するぞ」

「「「おおっ」」」


 入ってくれ、と教師が促すと入って来たのは二人の少女だった。


「初めましてー。私はエリス・ロードグランと申しますー」


 妙に間延びした口調の金髪ゆるふわ系貧乳美少女。


 色白の肌に海にも似た青い瞳。ビスクドールに生命を与えたらこうなりそうな芸術的な美を持った少女だった。


 ニコニコとした笑みを絶やさない人当たりの良さと可愛いらしさ、後は単純に日本語が達者なので人気になるのは時間の問題か。


李深緑(リ・シェンリュ)、日本語下手、よろしくヨ」


 そして対照的なもう一人の中国人女性。


 SNSの踊ってみたなどに出ていそうな可愛いよりも綺麗。むしろ綺麗過ぎて気後れしそうな彼女は高身長で黒髪ショートヘアにモデル体型と誰もが羨む美女をその身で体現していた。


 少し睨む目つきは人を遠ざけそうではある。それに本当に同級生なのか疑問に思う程、彼女は大人びていた。


「短期留学になるがみんな仲良くしてやってくれ。じゃあ二人は席は後ろの空いてる所に座って」

「「はい(ー)」」


 二人は教壇から降り、李は普通に空いてる席に座る。


「よいしょー」


 そしてエリスは蔵人の膝の上に座った。


「は?」

「んー?」


 そこでようやく人がいるのに気付いたとエリスは不思議そうな顔をする。


「何故貴方様は私の膝の下にいるのですかー?」

「それは貴女様が俺の膝に乗ったからですよー?」

「蔵っち口調が移っとるで」


 まるで自分は悪くないとするエリスに蔵人は目が点になる。どうやったらここまですっとぼけた顔が出来るのか蔵人の方が不思議であった。


 しかし指摘されながらも何故かエリスは退かない。まるでここが私の定位置だと言わんばかりに蔵人の膝の上を占領する。


「まあ問題ありませんねー」

「むしろ問題しかない」

「大丈夫なんかこの子…」

「致命的だろ」


 頭が、とは言わない孝介の優しさ。ただそのニュアンスはしっかり蔵人にも伝わっていた。


 そんな困惑する蔵人と孝介だが、周囲はもっと違う意味で騒いでいた。


「井出の奴、あんな美少女に座られるなんてズルいぞ」

「俺も美少女の座椅子になりたいっ」

「くっそ羨ましいんだけど」

「エリスちゃんお人形みたいだからあれはあれでしっくりくるね」

「ああ、良い匂いするんだろうな」


 エリスの機会な行動は何故か受け入れられていた。何故なら彼女は美少女。美少女は全てが許されるのは本当らしい。


「エリスさん、井出の膝から退いて他の空いてる席に座りなさい」


 しかし美少女が許されるのは思春期まで。社会の歯車たる中年教師は円滑な労働の為にエリスに注意を促す。


「んー? ここはとてもフィットするので丁度良いのですがー?」

「丁度良いじゃねぇわ。普通に重いわ」

「あらー、レディに失礼ですよー」

「お前は人間的に失礼だわ」

「きゃー」


 業を煮やした蔵人がエリスを抱えて立ち上がる。エリスは感じる浮遊感から落ちないように蔵人の首に腕を回す。


 顔近いなと思いつつも蔵人は適当に横の空いてる椅子に座らせた。が、エリスは回した腕を離さない。


「いや、離せよ」

「うーん。私はこのままが良いですねー」

「ホント何この不思議ちゃん」


 今まで出会ったことのない人種に戸惑いを隠せない。


「貴方様の側はとても居心地が良いのですよー」

「俺はマイナスイオンか何かでも出てるのかよ」

「似たようなものですねー」

「似たようなってなんだ」


 何かしら出ているらしい。何かは分からないが。


「相性が良いのですよー」

「むしろ悪いと感じたわ」


 だって会話が成立しないから。


 わがままとは違う。エリスの何か説明の出来ない一貫性の無さに蔵人は更に困惑させられた。


「きっとこれから分かると思いますよー」

「分かりたくねぇ…」


 そこでエリスはようやく回した腕を離すと蔵人に何を考えているか分からない笑みを向ける。


 出来れば今後近寄りたくないと感じながら蔵人は席に戻る。


「蔵っち変なのに目を付けられたな」


 孝介は羨ましいよりも気の毒が勝ったのか苦笑いを浮かべた。


「全くだ。どうしてこうなるのか」


 まるで光に吸い寄せられる昆虫のように自然と座って来たエリスが何を感じ取ったのか。


 感じ取れるものがあるとすれば蔵人の持つ膨大な魔力。今は隠ぺいしているものの、完全に隠しきれている保障は何処にもない。


 隠している魔力をエリスが感じ取っての行動なのか。とにかく油断の出来ない相手が現れてしまっただけに蔵人もなるべく距離を取るかと考える。


「ジー」


 しかし不思議と見られている。これで距離を取るの無理があるんじゃなかろうか。


 短期留学一日で終わらないだろうかと嘆く蔵人の心労は増すばかりである。





 ・・・




「よー堪えとったやん」

「なら助けろよ」

「無理やて。あれはワイが何言っても厄介な方向にしか進まんわ」


 二人は直感的にあの留学生たちには関わるべきではないと気配を消すように昼休み誰もいない屋上に避難していた。


 短期留学生たちは好奇心旺盛なクラスメイトたちに囲まれ質問攻めになっていた。その中で群を抜いて多かった質問内容が蔵人との関係性だ。


 どうして急に蔵人の膝に乗ったのか、なんで蔵人に急接近したのか、蔵人に気があるのかなど蔵人との関係性を追求するものが多かった。


 そんな質問の数々をさー、だの、何となくー、だの要領の得ない答えばかりでまともに答えたものはなかった。


 ただ唯一留学目的として知らない魔法を知りに来たと供述した。


「あれ完全にクラウディア目的やろ?」

「だろうな」


 魔法に精通したければ冒険者専門の学校、それも魔法職に強みのある学校に行けば良い。


 なのにこんな特色もない冒険者としては一般教養レベルでしか勉強しない学校に来る理由。


「あれバレとるんと違うか?」

「……やめてくれ。考えたくない」


 何をどうすればピンポイントで蔵人の膝に乗れるのか。


 蔵人がクラウディアであると確信でもしなければ出来ない行動であるだけに蔵人はエリスに違う意味での恐怖を覚える。


「ならもう一人はどやろか?」

「李さんね」


 あまりにエリスの存在感が強過ぎて薄れてしまったが李もエリスと同時に留学生としてやってきている。これを偶然と片付けて良いのか。


 順当に考えればエリスの不穏な動きを考えれば李も同様と考えるべきだ。


「まだ一言も話をしてないから何も言えないが、同時期ってのが気になるか」

「人種や国柄が(ちご)うても時期一緒って有り得んわな」

「ってか李は年誤魔化してないか?」

「ああ、あのスタイルと顔の良さやしな。ホンマ同年代か疑うで」


 女子人気はエリスよりも高い。その見た目の良さから憧れる女子が周囲を囲ってしまうので男子は自ずと弾かれてしまう。


 何で来たのとか、そのスタイルはどうやって作ったのとか、かなりの質問をされていたが日本語がたどたどしい李はその質問の多くを上手く返せてはいなかったが、初日からかなり女子と馴染めていただろう。


 そうした意味では初手から奇行に走ったエリスは悪い意味で目立っていた。もっとも可愛らしい美少女であるだけに不思議ちゃんとして受け入れられていたので問題はあまりないだろう。


「まあ短期留学やし二人に近寄らんければええんとちゃう? ワイもボロでんよう近付かへんし」

「せっかくの美少女たちだぞ?」

「は、それでハニトラに引っ掛かっとったら殺してくるやん。蔵っちが」

「分かってんな」


 問題があるとすれば蔵人と孝介。二人が抱える秘密(クラウディア)はバレるだけで世間を騒がせる。


 孝介自身特段影響はないが治療不可の姉を治した恩人を売るような性格ではない。地獄に落ちようと口にはしないだろう。


 しかし人間完全に秘密にするのは難しい。それだけに何かしらのきっかけでバレないとは限らない。


 何気ない会話、行動、目ざとい人間なら気付くきっかけを与えかねないだけに孝介も美少女だからと留学生に気を許せる状態ではなかった。


 一蓮托生。もっとも万が一には切り捨てられない関係性であったとしても孝介に不義理を働く道理はない。


「互いに近寄らんようにしようや」

「そうだな」














「よろしくお願いいたしますー」

「よろしくヨ」


 どうしてこうなった!!

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