過労系3 10
ルカはこんな形で望んでいなかった。
人の温もりが欲しいと手当たり次第に男を誘う形となってしまったが、ルカは別にビッチではない。ただ他人を選択出来るほど条件を出せなかっただけだ。
『せっかく今まで貢いだんだ。その分は貰っておかねぇとな』
この異臭に耐えられる。そんな人に巡り合えたらきっとその人こそ自分の運命の人なんやと乙女チックに考えたこともある。
しかし何十人、何百人とリスナーに出会ったがそんな奇跡は起きなかった。それでも誠のように諦めずに通い、妥協して触れられたらと条件を出しもした。
結果として上手くはいかなかったがそれでも諦めず求めてくれたのはルカにとって心の支えになっていた。
それだけに今のこの状況は求めていたモノとは全く違うものだった。
「い、いやや、ウチは…、ウチはっ…」
『うるせぇよ。女なら股開いて受け入れてろ』
こんな形で受け入れるなんてあってはならない。
温もりは確かに欲しかった。しかしこれはなんだ? 何処に人としての温もりがある? あるのは獣のような肉欲だけだ。ルカが欲しかった温もりはけしてこんなんじゃない。
圧し掛かる重さに反吐が出る。掴まれた腕の感触がどうしようもなく気持ち悪い。
「な、なんでウチに触れられるんや…。ウチの魔力は人を拒絶するんやないんか……?」
そんな気持ち悪さを感じつつもルカは驚愕を隠せなかった。
何せこれがあるから誠はルカに触れられなかった。死を伝える筈の身体は何故かマシュマロン大佐には通じていないのだ。
『あぁ? こんなもんがなんだってんだよ。殺意がねぇならゴブリンの方が脅威に決まってんだろ。冒険者舐めんなよ』
そうたかが魔力だ。指向性のない魔力に攻撃性なんてものはない。蔵人が使う魔法のように防御や回復に使われるだけに内包している程度なら力なんてものはないのだ。
何より蔵人の治療により人を拒絶する膨大な魔力がかなり排出されているのもあり、未だ一般人には触れるのに辛い量であっても命のやり取りを頻繁に行う冒険者となれば少し不快に思う程度に落ちている。
「なんやの、それ…」
『おいおい抵抗しろよ。襲って下さいって言ってるようにしか見えねぇぞ。婚活なんてして男に飢えてるなら誘うのも当然か! ギャハハッ!!』
下品な笑い声でルカを見下す。
マシュマロン大佐の目は推しを慕っていた者の目とは思えない程に冷たい目をしていた。もうルカの事はただのメス、いやただ自分の欲望をぶつけるだけの道具にしか見えていない。
その冷徹で欲深な目にルカは恐怖した。こんな直接的にぶつけられる悪意をルカは知らない。
ネット上での悪意は所詮手の届かない悪意。今までもルカの配信に否定的な意見が書き込まれたこともある。
・媚売り過ぎwww
・身体がマジでキモイんだけど
・その胸削れよ
こうした意見は度々見受けられたが、しかしそんなのは一時的だ。同じ人間が何度も批判するようなケースは稀。
だからこそルカはスルーすれば良いと放置を選びそれが正しいと認識し、自分が悪意に慣れていると錯覚していた。こうした書き込みも立派な悪意であったが、目の前に叩きつけられる悪意はそれの比ではない。
『ずっと思ってたぜ。このデカい胸を揉んでみてぇってな』
「ひっ……」
ぐにゅっ、と強く握られる胸が形を変える。
気持ち悪い。とにかく気持ち悪い。蔵人との触れ合いは心地よかった。純粋な温もりを交わし合うそんな愛おしさがあった。
なのにこれは何だ? 温もりなんてない。あるのは豚の交尾にも似た醜悪さか。ただ自身の快楽に身を任せた行為がこんなにも気持ち悪いのかとルカは初めて知った。
『柔らけぇな。それにデケェから俺の手に収まらねぇよ』
ルカの身体を堪能するマシュマロン大佐の行為はエスカレートする。
『邪魔な服は取らねぇとな!』
「やめっ…」
引き裂かれた服が床に落ちる。下着姿に剥かれたルカの顔は涙に濡れた。
そんな悪い事をしただろうか? ただ幸せになりたかった。ただ愛が欲しかった。ただそれだけなのにとぐちゃぐちゃになる思考が襲い掛かる不幸を否定する。
「いやっ、いややっ!! ウチには好きな人がおるんや!!」
必死に腕を振り払おうと抵抗するルカであったが大人と子供ほどの力の違いに抗おうと藻掻いた所でびくともしない。
『はっ、知るかよそんな事。俺を裏切ったんだ罰は必要だよな』
マシュマロン大佐はある意味で幸運に恵まれた。
こうして襲う予定だっただけに人目に付かないように整備された道を使わず森の中から入った事で蔵人たちに補足されなかった事。
誠が先に山に入った事で蔵人の【サーチ】に引っ掛かり魔法が切られて対象に入らなかった事。
森を走ったが冒険者なだけあって不安定な足場であっても走力を維持出来、蔵人たちが誠と対峙する前に家に来れた事。
そうした幸運から番犬たちに遭遇せずに本丸へと侵入出来た。
僅かでも早ければ、もし森ではなく道を使っていれば、冒険者でなく一般人なら違う未来もあっただろうが、奇跡的偶然によってマシュマロン大佐の暴挙は成立してしまった。
「離しっ『黙れよ』づっ!」
必死に暴れるルカであったがマシュマロン大佐にその頬を強く打たれる。
『お前が招いた事だろ? 期待させて勝手にハシゴ外しやがってよ』
ハシゴなんて外していない。ただルカにとって求めるものが来たから終わっただけだ。
いわば先着一名様限定の商品が買われただけ。それにいちゃもんを付ける方がおかしい。
しかしマシュマロン大佐にそんな道理は通用しない。無くなるなら取っておけと自分勝手な物言いで殺人に及んでいるのだ。おかしい人間がおかしいのは逆に道理なのかも知れない。
「知るかっ、そないに欲しかったんなら努力せい!」
しかしルカは店員でもなければ店長でもない。ましては取り置き出来る商品でもないだけにそんなクレームを素直に受け入れられるはずもなかった。
「少なくともウチは知っとるで! 一回だけ来て諦めたようなヘタレと違うて何十回と諦めずに通ったもんをな!!」
『なっ、てめぇ!!』
「ん~~~~~~っ!!」
図星をつかれたマシュマロン大佐はイラつきから騒がしいルカの口を手で塞ぐ。
『あー、うるせぇ。てめぇはただのオ◯ホだ。精々感じてろ』
適当に使って廃棄処分だとキレ散らかすが、そんなのは到底受け入れられない。
(こんなんなら蔵人はんに抱かれとけば良かったわぁ)
自身の初めてがこんな形で散らされる。おそらく助かったとしても生涯記憶として残るだろう。
そんな苦痛を与えられるなんてと思いながらも他人事のように気持ちが諦める方へと傾いていく。
『寝取ってやるぜ〜』
まだ誰とも寝てないのにNTRもクソもないが、好きでもない他人の棒を受け入れずっとルカの心に居座り続けるのならNTRと言って過言ではないかも知れない。
最悪の形での初めてに絶望感を拭えないルカは必死に拒絶した。が、手足をジタバタさせて抵抗しても冒険者の力に一般人が敵うはずもなく。
『何か待ってんだろうが無駄だ。助けなんて来る前に開通してやるよ』
ルカの服と下着に手を掛けて破り捨てると自分のズボンのチャックを開ける。
『やっと俺のモノになるんだ。たっっぷり楽しませてもらうぜ』
マシュマロン大佐は既に準備万端と自身のモノを露わにする。それの何と醜いことか。
汚くて気持ち悪いと見ただけでルカは吐き気を催す。
無理矢理されるのがこんなにも嫌なのかと実感する。それこそ人恋しさに無理にでも襲って来ないかと妄想した事もあったが、ここまで醜悪なものとは思ってもみなかった。
『NTRNTRNTRNTRNTRNTRNTRNTRNTRNTRNTRNTRNTRNTRNTRNTRNTRNTRNTRNTRNTR』
もうダメだ。この運命を受け入れるしかないとルカは歯を食いしばる。
ああなんて理不尽な。どれだけ幸せを享受していようと他人の思惑一つで瓦解する。ルカはただ悪意に飲まれるのみ。
「死ねよ。女の敵」
だがもう一つの理不尽がドロップキックでやって来た。
もっと伏線とか入れれるようになりたい




