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過労系聖女ちゃん、男に転生す~次こそ自由な生き方を~  作者: 雪野マサロン
第三章 配信者は愛を欲す
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過労系3 9

評価頂きありがとうございます。

 蔵人は自身の()()()()()()()に少し後悔した。


 前世では只管(ひたすら)に蘇生魔法を使っての蘇生作業とポーションの作成ばかりをやり続けただけに戦闘経験は皆無に等しい。


 精々現世でダンジョン巡りによるザコ狩りばかり。


 魔法による一方的な蹂躙や、シスターの真似をした身体能力向上によるタコ殴りぐらいしかやった事がない。


 それだけに対人戦はこれが初。それも魔道具をわざわざ用意しているなんて予想だにしていなかった。


「ほんと今回は勉強になったな」

「蔵っち大丈夫なんか!?」

「平気だよ。ポーションも飲んだし」


 空のアンプルを見せながら起き上がる蔵人に孝介は駆け寄る。

 

 ここで蘇生魔法を使ったと正直に話す必要はない。多少不自然さはあるがポーションを使ったと誤魔化した。


 服に穴は空いているが、外傷は綺麗に無くなっている。その姿に孝介はホッとした。


「な、なんで…生きてるんだ?」

「刺さりどころが良かったんだよ」


 良過ぎて心臓にしっかり刺さっていたが。


「有り得ない! 僕が使ったのは魔道具だぞ!!」

「いや、これ一回こっきりの使い捨てみたいなんだが?」

「何!?」


 しかも中身は魔法無効。もし革鎧でも着ていれば人間を刺し貫くなんて絶対に有り得ない。革が皮膚に刺さるナイフをしっかりと食い止めていただろう。


 さっきまで魔法無効が使える状態であった証拠に宝石が色を無くしたように褪せてしまっている。


 蔵人は手に持つナイフの感覚から魔力を補充すれば使えなくはないだろうと読んだが、わざわざ言う気はない。


「ってか蔵っち、なんで生きとるん? どう見てもヤバいくらい刺さっとったで?」

「……緊急時に備えて魔法を保持してんだよ」

「そんな事も出来るんかい」


 そらゃ頑張ったからな。


 蔵人は前世で気付かない内にポックリ逝った。人生予期せぬ間に死ぬのはザラで万が一は往々にして起こる。それだけに蔵人は寝ている時であっても常時蘇生魔法が発動するように保持していたりする。


 そして万が一が起きてしまった。


 今回幸運だったのはあの魔法無効が一回だけの消耗品であった事。もしも魔法無効が何度も出来ていたのなら保持していた蘇生魔法も無効化されてしまいそのまま死んでいた。


 正に九死に一生。これが自身の魔法に過信したからこそ起きただけに笑えない。


「まあ今回の事は勉強料だな」

「たっっかい勉強料やんけ」


 しなやすと割り切る蔵人に孝介は呆れるしかなかった。


「ふ、ふざけるな!! 何なんだよお前は!? 殺しても死なないとかおかしいだろうが!!」


 震える誠は目の前の化け物の理不尽さに悲鳴じみた叫び声で罵る。


「勝手に殺すな」

「ぶげっ!」


 とりあえず一発と蔵人は誠の腹に蹴りを入れる。その上で頭を虫でも踏みつけるかのように地面に押さえ付ける。


「うげぇええっ……くそっ、くそっ、なんでこんな奴にルカさんを取られないといけないんだ……」


 腹と頭の痛みに意識を飛ばしかける誠だが、絶妙に加減されているだけに気絶に至れない。


 誠からすれば蔵人は理不尽の権化。自身が成せなかったことをあっさりやってのけた。ただガスマスクを外すだけとしても人間に耐えられる臭いじゃない。


「あんなに頑張ったのに……。ルカさんみたいなロリ巨乳美少女で訛り口調なんて他にいないのに……」

「姉ちんの身体目的かいな」

「男なんてそんなもんだろ?」


 ルカに触れるのなんてもっと有り得ない。ワニの口に手を入れる方がよっぽど簡単だ。触れた瞬間に死ぬ。そう断言する程に与えられる恐怖は別格だった。


 それでもなお誠がルカに逢いに行くのは無茶苦茶タイプだから。求めて止まないロリ巨乳訛り口調美少女。それが誠の性癖にドストライクだったのだ。


 だから頑張れたのだが横から掻っ攫われて衝動的に襲った。それが事の顛末である。


「ならなんで姉ちんを襲ったんや。この人殺しが」


 その筈だった。


「は? 何を言ってるんだ? 僕が襲ったのは今回が初めてだよ」

「「え?」」


 ルカを襲ったのがこいつじゃない?


 蔵人と孝介は誠が何を言っているのか上手く飲み込めなかった。


「大体そんな事したら僕がルカさんと結婚出来ないじゃないか。邪魔者は消したいと思ってもルカさんに危害を加えるなんて有り得ないね」

「なんやと!?」


 なら矢を射ったのは誰だ?


 恐ろしい事態に二人の冷や汗は止まらない。


 何せ蔵人も孝介も犯人は誠だと決め付けていた。もし違うとなれば他にルカを襲った犯人がいてしまう。


「嘘言うなや! お前やろ姉ちんの背中にぶっとい矢刺したんわ!!」


 だからこそ孝介は誠が犯人であって欲しかった。そうでなければルカは家で一人無防備に佇んでいることになってしまう。


「はぁ!? なんだそれは!! 僕はそんな事してないしルカさんの珠のような肌を傷付けるなんて以ての外だ!!」


 叫ぶ誠をよくよく観察して見ればその身体は全く鍛えていない脆弱な肉体だと分かる。これであんな太い矢で射るなんてそもそも肝心の弓が引けないだろう。


 なら確実にいる。ルカを襲った襲撃者が。


「サーチ……っ!?」


 増えていた。誠に気を取られている間に山に入っている人間が一人いる。


 それは山の中を態々進んで入り、既に家の中にまで侵入していた。


「ちっ、眠ってろ」

「ぐぇっ!」


 魔法により誠をスタンガンの要領で気絶させると急いで蔵人は【テレポート】を使おうとする。しかし――


「――魔力だまりのせいでテレポート出来ないっ」

「なんやそれ? ってか何があったんや?」


 ルカは変質した魔力を家の前で大量に吐き出した。


 蔵人は浄化したものの、魔力そのものが消えるわけではない。その魔力が土地に留まってしまい魔力だまりを形成していた。


 それにより魔力だまりがジャミングとなって蔵人の【テレポート】による移動を阻害する。


 【サーチ】と違い【テレポート】はかなり繊細な魔法だ。


 マーカーした箇所を目指すように飛ぶ関係上、次元の異なるダンジョンから自宅に転移は当然無理。そしてマーカーが乱れる場所にも行けなくなる。


 それが魔力だまりのある場所だった。普段なら自然と拡散してしまうが作り上げたのが最近であったが故に魔力だまりとして滞留してしまっていた。


「ルカが襲われてる」

「なんやて!?」

「そいつは任せた。引きずって来いよ」


 蔵人は孝介の返事も待たずに【アクセル】による強化で全速力で駆け出した。




 ・・・ルカside




 時間は少し遡る。


 ルカは何も出来ない自分に辟易していた。


「待ってるしか出来へんのも辛いわぁ」


 膨大な魔力を持っているのを知れたのはつい最近。それだけに魔力の扱い方を知らずにいた。


 だから【ファイアボール】の一つも撃てない。それにルカは基本インドアで森の中を探索など身体を使うような行為をして来なかったので体力面でも成人女性の平均以下の能力しかなかった。


 故に自衛手段を持っていない。魔法も撃てなければ逃げるための体力さえないのだから家で引きこもっている以上に安全を確保出来る手段がなかった。


 それだけにルカは着いて行っても何も出来ない。どちらかと言えば完全な足手纏いだ。


「大丈夫なんかなぁ、あの子ら」


 心配するルカは一人パソコンの前で次の配信用のサムネの画像編集をしているが二人の事が気が気でなく作業に集中出来ていなかった。


「あかんわぁ。全然進まへん。なんか飲も――パリンッ――っ!?」


 ガラスが割れるような音にルカは身体を怯ませる。


「な、なんや?!」


 ルカは護身用にバットを持って警戒する。


 何かが迫っている。そんな足音が聞こえる。重く、踏みしめるような鈍い音を響かせながら何かが迫っている。


 得体の知ればない不気味さにバットを抱きしめるようにしたルカだったが部屋の前に来ている何かに意を決してバットを振り上げる。


 ぎぃっ、と開いた扉に入って来る何かを判別せずにバットを振り下ろす。


「あああああっ!!」

『がっ!? ってなんだビビるじゃねぇか』

「っ!」


 しかしルカの貧弱な筋力と小さな背丈では全く威力が出せず、襲撃者の胸に少し当てるも少し怯ませるに終わる。


 その襲撃者にルカは見覚えがあった。


「お前さんは……マシュマロン大佐?」


 ガスマスクを着けているが首にある金のネックレスが配信のアイコンで何度も見たのと同じデザインだっただけにすぐに襲撃者の正体に気が付いた。


 何せマシュマロン大佐は誠と同じくらいのガチ恋勢だ。それこそスパチャの総額で軽く良い車くらいは買えるだけ貢いでいる。


 流石にそれだけスパチャをする者を忘れない。


『ああそうだ。俺がマシュマロン大佐だよ。あんたには裏切られたもんだ』


 ルカとは対照的に長身で細身であるが確かな筋肉を持ったスキンヘッドの男。手には武器らしいものは持っていないが、その肉体こそが武器といわんばかりの威圧感を放っていた。


「別に裏切っとらへんよ。そもそもウチは婚活してるんわリスナー周知の事実やろ? マシュマロン大佐も一度挑戦してたわなぁ」

『うるせぇ! こっちが臭いを克服してる間にさっさと男作りやがって許せると思ってんのか!!』


 あまりに理不尽で一方的な物言いにルカは内心呆れるが、過剰なまでに刺激するのは得策ではないと分かっているだけに言葉を慎重に選んで口にする。


「それでウチを矢で撃ったんか?」

『ああそうだよ。人を裏切ったやつには報復しねぇとな』

「一応死ぬほど怪我したんやけど。それで手打ちにはしてくれへん?」

『ああっ? 知るかよ。死ぬまでぶっ殺してやるって決めてんだよ』


 矢で死なねぇなら直接な。


 ここまでタカが外れていると何を言っても無駄だろう。そもそも会話が出来ているかも謎だった。


 ゆっくり近付くマシュマロン大佐に無意識に後ろに下がるも所詮は部屋の中。足はベットに当たり自ら誘うように背中からベットに倒れてしまう。


 そんなルカにマシュマロン大佐は舌なめずりをする。


『最後にブチ犯すのも悪くねぇな』


 助けは来ない。

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