表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
過労系聖女ちゃん、男に転生す~次こそ自由な生き方を~  作者: 雪野マサロン
第二章 アイドルは冒険す
17/61

過労系2 3

 蔵人(くらうど)は途方に暮れる。


 自分の事がこの水晶界隈で噂になっていた事に驚きつつ、それでいて未だに汚い液体をダラダラと流す水晶にどうすれば良いか困っていた。



 ・うひょーwww

 ・楽しくなってまいりましたw

 ・乙~~ww

 ・天罰だわ

 ・ちゃんと鑑定しろよ?www



 ただこの目の前の水晶が(あお)り散らかしていながら窮地(きゅうち)に陥った事で配信コメントのテンションは爆上がりだった。


「あー、えー、つかぬ事をお聞きしますが…」

「なんだよ」


 僅かな期待を胸に秘めながら水晶は蔵人に確認する。


「鑑定の水晶に触れた事はございますでしょうか?」

「何度か触れたな。その度に壊れるが」

「いやぁああああああああああああ!! 『クリスタルクラッシャー』井出蔵人で確定じゃぁあああああああああああああああああああん!!?」

「待てやコラ」


 生娘のような悲鳴を上げ聞き捨てならない中二感ある二つ名を叫ぶ水晶に蔵人は待ったをかける。


「なんだその『クリスタルクラッシャー』ってのは」

「ひぃいいいいいいいいいいいいいっ!?」


 顔を両手で隠して尻を向け土下座のようなポーズで怯え始めてしまう水晶。


 こいつに聞いても無駄かと蔵人は配信のコメントを確認する。



 ・あのクリスタルクラッシャーとか笑うし

 ・都市伝説みたいな存在が本当にいたんだなー

 ・触られる度に許容量超えて壊されるから一番遭ったらヤバいUSRって言われてるもんな

 ・割られる前に根性出してUSR演出した猛者もいたなw

 ・虹に光ったり音出してて頑張ってたわ

 ・こいつはどう演出して壊されるんだ楽しみだわwww


 

 つまり蔵人は何度も水晶を破壊した結果、知らず知らずのうちにこの鑑定界隈で有名になっていたのである。


 何とも迷惑極まりない話であるが、それだけ水晶を破壊した実績があり知られるべくして知られたとしか言いようが無かった。


「おい」

「ああああっ! この簡易ステータス鑑定人生初のUSRだったのによりにもよって『クリスタルクラッシャー』『破壊の申し子』『デビルヘルシスター』が相手なんてツイてないっ!!」

「もっと待て」


 何だその不快な二つ名のオンパレードは。


「だが俺は諦めない。俺はここで生き残って彼女に告白するんだ」

「勝手に死亡フラグ建てるの止めてくれません?」

「みんな! 俺に力を貸してくれ!!」


 まるで少年マンガのワンシーンの様にテンションを上げる水晶は立ち上がりコメントを見る。



 ・は? とっととくたばれ

 ・ざまぁwww

 ・何秒持つか見てやるよw

 ・お前に力を貸す価値無いが?



 しかしコメントは非情だった。誰一人として助ける気が無く、むしろ早く破壊されるのを願うコメントしかない。


 これはこれで哀れに思うが自業自得な面が強いだけに蔵人は茶番を見せられている気分だった。


「まあ待て」

「な、なんだ?」


 バカバカしいので早く終わらせたい。そんな気持ちから水晶に話し掛ける。


「これからやるのは鑑定で間違いないのか?」

「当たり前だ。俺たちは鑑定に生き鑑定に死ぬ。キリッ」


 うざっ、と思うが口にはしない。しかし蔵人が口にしないだけでリスナーは目の前にいないのを良いことに好き放題言いまくる。



 ・お前と一緒にすんな

 ・キッッッモ、震えて土下座した奴のセリフじゃないわ

 ・同じ扱いはちょっと…

 ・全鑑定士の恥



「そこまで言う事なくない!?」

「これと一緒にされたくない気持ちは分かる」

「っ!?」


 何故そこでお前もか、みたいな顔をするのか。顔が水晶であっても全身から出るリアクションが蔵人が汲み取りたくなくても汲み取れてしまう。


「ただこれからするのは交渉だ。俺としてはまともに鑑定されたくなくてな」

「ほう?」



 ・正しくない鑑定とは?

 ・お?

 ・こいつが生き残るチャンスがあると?

 ・でもそれ鑑定として意味あるか?


 

「訳ありでな。出来るなら低い数値で見積もってもらいたい」


 蔵人としてはこの交渉が優位に進めばそれで良かった。もし条件を飲むならそれでよし。


「俺は鑑定に誇りを持っている!!」

「出来ないなら潰す」

「ぐぅっ!?」


 条件が飲めないのなら死なば諸共。水晶を破壊して蔵人の異常性がバレてしまう前に欠陥品だったのでは? としらを切るつもりだった。



 ・お? つまり物理的にタヒるか鑑定士としてタヒるかの二択か?

 ・おいおい過去一楽しくなってきたじゃんw

 ・どうすんだこいつwww



 鑑定を生業としている以上間違った鑑定をするのは社会的死を意味する。それだけにあっさりと飲む訳にも行かず、かと言って正しく鑑定をすれば物理的死が待っていた。


 どちらにしても詰んでいる。そう理解しただけに水晶の汗は止まらない。


 デットオアデット。そこに生きる道は無く、ただ死あるのみの非情な選択。賭博漫画の方がまだ救いが用意されてるだけに水晶からすれば蔵人は悪魔どころか死神そのものにしか見えなかった。


「正しく鑑定して生きる道は?」

「ない。ってか全部壊れたしな。多分フェイカーで今騙してるから生きてるだけだと思うぞ?」

「な、なんだと!?」


 蔵人はいちいちリアクションの大きい水晶に若干の面倒臭さを感じていた。故に決着をさっさと着けようと重い提案を押し付ける。


「もしお前が物理的に死ぬ道を選べば俺はこれから数多くの簡易ステータス鑑定を割って割って割りまくる」

「……っ!?」



 ・ふぁ!?

 ・まてまてまてまて!!

 ・こいつに俺たちの未来が掛かってんの!?



 対岸の火事だと笑っていた者たちが騒然とする。


 それはそうだ。自分たちに被害が無いから笑えるのだ。なのに同じステージに立たされれば否が応でも慌てるだろう。


 何より同じステージに立っていても生殺与奪の権利は先程まで慌てふためいていた蔵人の目の前にいる水晶にしかない。他の水晶たちは決められた運命の元に処されると決定しているのだ。



 ・俺たちは関係ないだろ!?

 ・この鬼! デビルヘルシスター! 男のくせに!

 ・ってか男なのになんでシスターなん?w

 ・ヤルならそいつだけでお願いします!



「はい、未だに笑っていられる人は割りに行くので覚悟して下さい」



 ・鬼畜かよ!?

 ・この悪魔!!

 ・このシスター!!

 ・シスターって悪口なん?



 これは目の前の水晶に対して蔵人が用意した()()()だった。

 

 鑑定をすれば死んでしまう。偽った鑑定をすれば社会的に死んでしまう。しかしそれはこの水晶一人だった場合だ。


 蔵人は正しく鑑定すれば全ての簡易ステータス鑑定を破壊すると宣言。それにより一人だけの命が掛かっている状況を一変させた。


 ただ逃げれば臆病者と揶揄されるが、蔵人が全ての水晶を壊すと宣言した事で逃げる事が全ての水晶を守る英雄の所業へと姿を変える。


「俺が鑑定を偽れば皆は助けてくれるのか?」

「割る必要が無くなるからな」



 ・なんか急に巻き込まれた感

 ・いつのまにか人質扱いされてんだけど…

 ・ちょっとエモい雰囲気出すの止めてくれます?



 まるで悪魔の契約。蔵人は魔王が勇者に世界を半分やろうと持ち掛ける気分で水晶を諭す。これで全て丸く収まる。


 かと思った矢先、水晶は蔵人を見下しながら香ばしいポーズを決める。


「たが断る! 俺はNOと言え「じゃあ壊すか」ごめんなさい嘘です言ってみたかっただけです」



 ・おいてめぇふざけんな!!

 ・てめぇのノリで俺たちまで壊されたら最悪だ!

 ・一人で潰れてくれます?

 ・タヒねよ



 悪ふざけによる大ブーイング。結局彼は英雄にはなれなかった。


 だが蔵人にとってはどうでも良い。鑑定さえ偽れればそれで良かった。


「で? 偽った数値で出してくれるんだな?」

「はい、そうします…」


 実に悔しそうな顔(?)で鑑定を偽ると決めた水晶。そこにはやはり鑑定に対するプライドが見え隠れしていた。



 ・結局堕ちたかwww

 ・ねえねえ今どんな気持ち?

 ・俺は何も言えねぇ。同じ立場ならこれは屈するわ

 ・あれだけ煽った天罰ってわけよ

 ・流石に挽回するような事は起こらんか

 ・むしろなんでこいつクリスタルクラッシャーの前であんなに悪ふざ出来んだよ、スゲーわ



 煽るコメントもあるが、擁護するコメントもチラホラ出ていた。実際あれだけ追い込まれてギャグに走れたこの水晶に賞賛の声もあり、結果として話題になってバズった形になる。


「うるせーっ! そんなに言うならこいつの前に来てみろよ! むっっっちゃ怖いんだからな!!」

「そんな相手にふざけた態度でいたのかよ」


 ある種潔い開き直りに逆に感心するレベルだと笑ってしまう。


「それじゃあ数値は誤魔化せよ」

「今の()()()()()()()のままで良いか?」

「それで頼む」


 蔵人はようやくこの茶番も終わったとホッと息を撫で下ろした。


「もう二度と触れるなよ」

「誰が好き好んで触れるか」

「それが聞けて安心だ」


 視界が霞み徐々に水晶が薄くなる中、蔵人は何故か水晶が薄暗い笑みを浮かべている様に見えた。


「あ」


 戻って来た。時間を確認すると僅か一瞬でしかなく、長々と行われた茶番が自身の妄想だった様に思わされた。


 が、あんなふざけた存在が自身の生み出したモノだと思いたくないので本当にいた事にする。その証拠ではないが蔵人の目の前にはヒビ一つ無い水晶が鎮座していた。


「さーて、どんな結果かな?」

「ちょっと長かった気がする」

「そんなまさか…え?」


 割れていないから大丈夫。それは甘い考えだった。何故水晶が偽った数値で良いのか確認した意味までを理解しなかったのか。それを確認しなかったお前のミスだと水晶はほくそ笑む。



 井出蔵人

 体力:230

 魔力:10241

 スタミナ:142

 攻撃力:127

 防御力:140



「……やられた」


 試合に負けて勝負に勝つ。死の間際にありながら意地でも鑑定した水晶。


 これがお前だと言わんばかりに表された数値は一般的とは言い難い吐出した結果を見せつけるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ