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過労系聖女ちゃん、男に転生す~次こそ自由な生き方を~  作者: 雪野マサロン
第二章 アイドルは冒険す
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過労系2 2

 蔵人(くらうど)はダンジョンの授業、を受ける前に適正を測る事になった。


「じゃーん! これが噂の冒険者適正を測る水晶!」

「ダンジョン組合から借りてきました」

「割とダンジョンの宝箱に入ってるから貴重ではないけど」


 ダンジョンを調査、管理するのがダンジョン組合の役割であるが、その業務の一つに冒険者適正の測定と人材確保と管理があったりする。


 どうやって適切なんてものを測定するか。水晶の無い時代はそれこそオリンピック選手の選考の様に体力測定が行われ、その基準自体も曖昧だった事からダンジョンに入る敷居も高くなっていた。


 しかしそれを解決したのが三人の持って来た水晶、簡易ステータス鑑定だ。


 これはダンジョンの宝箱に眠る一つのハズレ枠ではあるものの、一種の指標となるのでどのラインまでのダンジョンなら入っても問題ないかを測るのに適している。


 身体能力も測れるが、ここでポイントとなるのが魔法適性まで測れるのがこの簡易ステータス鑑定である。


 今まで測るのが難しかった魔法適性を測れた事でダンジョンのアイテムが効率良く使えるようになった。


 例えば魔法が使える杖。魔法適性の無い者が使おうとすればただボンヤリ光るだけの杖。しかし魔法適性の高い者であれば魔物を大量に屠る高火力兵器に姿を変える。


 そのステータス次第で身体能力が劣っている者でもダンジョン攻略が出来、かつダンジョンのランクに応じた自身の適切な攻略ランクも把握出来る。


 だからこの簡易ステータス鑑定は重要視される。これを使うだけで危険性を下げられる上に自分の能力を把握出来るのでゲームの様な育成が行える。


 もっとも『簡易』ステータス鑑定なので意外と見えない部分もあったりするが、重要性の低い項目なので基本的に簡易で十分だった。


 そんな物が目の前にある。その事実に蔵人は面倒臭そうな顔をする。


「どうしたん蔵っち、変な顔しとるで?」

「適性測れるのが楽しみなんだよ」

「どっちかって言うと予防接種前の犬みたいな顔なんやけど」

「ならその犬は注射が大好きなんだろうよ」


 誰がどう見ても喜びの一切無い顔で水晶を睨む蔵人はあれが自分にとって危険な物だと理解していた。


 あの水晶、ダンジョンから沢山出るだけに蔵人も何度か触れた事がある。その結果は酷いものだった。


 まず破裂。これは何度も起きている演出の中で一番マシ。酷い時など燃えながら破裂。謎の虹色の発光をしながら破裂。豪勢な音を流しながら破裂。と訳の分からない自壊をするのだ。


 最初は魔物を寄せ集める装置なのかと思いもした。ネットで調べて簡易ステータス鑑定であったのだと知るが、それでどうしろと言うのか。蔵人が触れば最終的に破裂する水晶など価値は無い。


「どうするか」


 簡易ステータス鑑定を持って来たと言う事はそれこそ予防接種の様に順次クラスメイトたちはあれで鑑定をされると言う事。それは蔵人にとって致命的。注目の的になるのは絶対に避けられない。なにせ最低でも破裂するのだ。最悪の場合、虹色に光って派手な音が鳴り燃え上がってから破裂するのだからそれはもう注目されてしまうだろう。


 そもそも借り物の簡易ステータス鑑定である以上返却出来ない理由は追及されてしまう。その時に使ったら派手に光って破裂しましたなんて答えが出ればそこからクラウディアに繋がる可能性だってある。


 つまりあれで鑑定されるのは絶対に避けなければならない。


「じゃあ一人ずつ鑑定していくよ」

「良い結果でなくてもダンジョンに潜り魔物を倒すと成長しますので気を落とさないで下さいね」

「席順で前の人から来て」


 蔵人の席は左窓際の一番後ろ。最後の方になるので逃げるなら今だった。


「蔵っちはどんな鑑定結果になるやろうな」

「………」


 しかし逃がさないと言わんばかりに目線を切らない孝介は逃げたそうにしている蔵人に話しかけ続けた。


「魔法系はやっぱ憧れるわな。それこそ神秘言うんか? 普通じゃないのに興奮するやろ」

「……そうか?」


 どうやって逃げようか。ここでトイレとか言っても良いがそれで行くにはまだ早い。まだまだ鑑定を初めたばかりで戻って来る時間を考慮すると鑑定をスキップするにはもう少し後が理想だった。


 そんなに嫌ならそのまま授業をバックレれば良いかも知れないがそれは弱みになる。少なくとも今喋りかけて来る孝介からは弱みとして見られるだろう。そして何かに感づかれる可能性は高い。


 あくまでも自然に。そう自然にこの場から脱出する。


「で? なんでそんなにアレが嫌なん?」

「………」


 もう気付かれた。綴命(ていめい)の錬金術師が勘のいいガキを嫌いになる理由が良く分かる。


「なーんかさっきから変やで? 目線が扉の方にいっとるし、まるで借金取りから逃げようとしとる奴の目や」

「別に逃げるとかじゃないが?」

「なら何かがバレるのを嫌がっとるが正解か?」


 ……さて、こいつと行くのは海か山か。一番無難なのはダンジョンの奥地に縛って捨てるのが妥当かも知れない。


 クラスメイトたちは鑑定の結果に一喜一憂しており、他人の話し声なんて聞こえていない。つまり孝介だけを処理すれば。


「蔵っち顔が怖いで。別に脅す気はないし何を隠そうとしてるかは知らんが、ワイは確信には辿り着いとらんのやから仲良くしようや」

「は? 別に隠す事なんて何もないが?」

「ならええやん。ちゃんとアレに触ればワイの見当違いで済む話やし」


 ほな調べて来るわ、と順番の周って来た孝介が席を立って簡易ステータス鑑定に触れようとする。


 注意の散漫になっている今なら逃げれる。しかしそれは孝介の言う『何か』があると宣言するのと同義だった。


 なら簡易ステータス鑑定に触れる必要がある。しかしそれで破裂してしまえば本末転倒。だが蔵人にはまだ手は残されていた。


「【真実は闇に溶け疑身にこそ光が灯る……フェイカー】」


 念の為詠唱し強固にステータスを偽造する。この魔法はファントムの様に姿を変えるのとは違い、内面の見えない部分を変える。極端な話、過剰なまでにある魔力量を一般人レベルしか無い様に見せる。


 正直な所、このフェイカーは使って来なかったので精度が悪い。しかも異常すぎる魔力量を一般人レベルに見せるなど空気をパンパンに入れた風船を深海に持って行き圧で見た目を小さいですと誤認させるような荒業だ。圧が強すぎてフェイカーの魔法が溶ける可能性もある。


 だから長時間は行えない。しかしこの短時間であれば問題ない。僅かな時間を誤魔化せれば良い。


「蔵っち、ワイは剣士よりやったわ。魔法の適正は低めやと」

「そりゃ残念だな」

「魔法バンバン使って見たかったんやけどな」

「数回も撃てたら十分だろ」

「囲まれたら終わるやん」

「囲まれないように立ち回れよ。じゃあ行くわ」

「楽しみやの」


 全然楽しみじゃない。あの水晶を破壊しないように全力で抑えないといけないから地味に辛かった。

 

 蔵人は水晶の前に立つ。変な汗が額に滲むのを感じずには居られなかった。


「さあ今度は君の番だよ!」

「大丈夫ですよ。最初は低くてもダンジョンに潜れば成長しますので」

「早く触る」


 三人娘に(せか)かされる蔵人は恐る恐る水晶に触れる。傍から見れば自分のステータスに自信が無くて恐れているように見えるだろう。


 しかし真実は全く逆。これで水晶破裂しないよなと戦々恐々で触れようとしていた。何せこの水晶をフェイカーを使って触れた試しが無い。だから不安。


「………」


 触れた。その瞬間、世界は白く染まった。





「あーあ、またノーマルかよ。つまんねー。レアも偶にしか来ないしスーパーレアなんていつ見たよ? マジでクソ。青天井とか誰得だよなー」


 蔵人は気が付けば白い世界に立っていた。

 

 その世界には何もない。いるのは頭が水晶で出来た全身白タイツ姿の変態が涅槃のポーズでスマホを見ていた。


「あん?」


 なんだこいつと眺めているとそいつが顔を上げて目(?)が会った。


「………」

「………」


 お互い何も言えずに固まる。


「う」

「う?」


 水晶が震えた。



USR(ウルトラスーパーレア)きちゃぁあああああああああああああああああああああっ!!!」 



 とてつもなく喧しい声で水晶が絶叫した。


 あまりの騒音に耳を塞ぐもその絶叫は塞いだ筈の耳を貫き鼓膜にダメージを与える。


 そんなバカデカい声量を出しながら小刻みにダンスを踊り、しまいには逆立ちするとヘッドスピンによる高速回転で喜びを顕にした。


「ひゃっっふぅううううううううううーーーっ!!」


 突如行われたブレイクダンスに蔵人は唖然としていると水晶は調子に乗り始める。


「あ、写メ写メ。はいチーズ。えーと、USR鑑定した事ない奴おりゅ?」


 気が付けば肩を組まれて撮影までされ、しかも無断でSNSに上げられる始末。



 ・は?

 ・タヒねよ

 ・ふざけんなカス

 ・こいつどっかで見た事あるような

 ・煽るとか害悪かよ



「嫉妬の嵐がキモティイイイーーーーッ!!」


 変態だ。紛う事なき変態だ。頭部が水晶で全身タイツなだけにより変態度が増して気持ち悪い。


 この気持ち悪い変態に蔵人がドン引きしていると変態は更に加速する。


「もっと嫉妬されてぇええええっ!! あ、配信しよ」


 いつの間にか飛んでるカメラの付いたドローン。こいつの中に肖像権と言う言葉は無いらしい。既に赤ランプが付いており撮影が始まっていた。


「うぇーーい、今からUSRを鑑定して行きたいと思いまーーす。まだUSR鑑定した事無い人たちごめんねーw」



 ・56す

 ・タヒれよ

 ・地獄に堕ちろ

 ・月があっても夜道は歩けないと思え



 かつてここまでブーイングの嵐から来る配信を見た事があっただろうか。少なくとも蔵人はこんな荒れた配信を見た記憶は何処にも無かった。


「さてさてこのUSRの名前から!」

「まぶしっ」


 配信するのであればド迷惑な光を頭の水晶から発生させる。


「えー名前は井出蔵人(いでくらうど)。………蔵人?」

「蔵人だったらなんだよ」


 何かに気付いた水晶が光のを止めると今度は何処から出しているのか水晶の表面からダラダラと液体を垂れ流して床を濡らし始める。


「井出蔵人ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!?」

「うるさっ」


 蔵人は水晶のあまりの煩さに咄嗟に耳を塞ぐ。


 一体この水晶は何をそこまで驚愕(きょうがく)しているのか。それこそ顔があれば顎が外れる勢いで絶叫し目を見開いていたに違いない。

 

 そこで配信を見ているだろう視聴者からコメントが届く。



 ・あ、こいつクラッシャーじゃんw

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