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過労系聖女ちゃん、男に転生す~次こそ自由な生き方を~  作者: 雪野マサロン
第一章 聖女?は転生す
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過労系 8

ここまで読んで頂けている。それだけで幸いです。(; ・`д・´)

 蔵人は自分の助けたアイドルが炎上し悩んでいた。


 ただ偶然出会っただけの関係と見捨ててしまえばそれまで。世間の関心が薄なってからダンジョンに潜れば自分にはノーダメージ。問題は全くない。しかしそれは面白くなかった。


 何せあの三人はこの世界で初めて蘇生させた三人。言ってしまえば蔵人の庇護下に置いたようなもの。


 そんな三人が自分の行いによって炎上している。あまり関わる気がなかったから蔵人は早々に立ち去ったというのに、それが逆に火をつけるなんて想像だにしていない結果を生んだ。


 アイドルと言う立場なだけにファンから擁護されているが世論では彼女たちは悪。今後このまま放置すれば確実にアイドル生命は絶たれるだろう。


「どうするべきか」


 こんな事ならSNSをやり始めるべきではなかったと後悔するも、結局ニュースに取り上げられており、どのみち蔵人の耳には入っていた。


 蘇生魔法を使ってしまった以上遅かれ早かれだったのかも知れない。本当に隠し通したいならそれこそ使うべきではなかった。


 バレる危険性と死んでるのが勿体ない美少女たちで秤に載せて美少女たちに傾いただけ。


「生き返らせただけでこれだもんな」


 ベットに寝転がりながらSNSの書き込みを見ているが内容は酷くなる一方。



 ・聖女を独り占めするゾンビタウン最悪

 ・ゾンビたちだけ生き返れるとか裏で何かしてるだろ

 ・私の赤ちゃんが生き返らなかったらゾンビタウンのせい

 ・ゾンビども◯せば聖女出てくんじゃね?w

 ・ゾンビタウンはもう一度◯ぬべき



 殺人教唆を仄めかす内容まで出る始末だ。このまま行けば正義の名を冠したバカによって本当に三人は殺されてしまう可能性だってある。


 それは蔵人の望む状況ではなかった。生き返らせたのに殺されていては本末転倒。世間には蘇生魔法の存在が認知された以上殺されるのは損した気分になる。


 しかしそれはそれとして蔵人は胸の内に燻るものがあった。果たしてこれが何なのか。非常に言語化出来ずモヤモヤする。


「このSNS見てからなんだよな。この不快感」


 見れば見るほどイライラさせられる書き込み。トレンドに入る聖女とゾンビタウンの羅列。


「ん〜〜〜、あ……。ああ、だからか」


 ずっと見続けた事でイライラの正体が腑に落ちる。それだけにこのまま黙って流れを放置するのは蔵人としても不愉快も甚だしい。それこそ書き込みをした全員に鉄槌を下したくなるくらい我慢のならないものだった。


 ベットから起きる蔵人は持っていたスマホを横に置いた。


「なら動くか。マップ・サーチ」


 両手をタクトの様に動かすと二つの魔法を同時発動する。


 『マップ』は単純な地図情報でしかなく、『サーチ』の魔法もどれくらいの距離の位置にいるくらいしか分からないが、同時に使う事で捜したい相手の場所を正確に割り出せる魔法に代わる。


 今捜しているのはストロベリータウンの三人の居場所。ダンジョンにでも潜っていたり海外にでも行けば別だが、蔵人が蘇生してまだ数日しか経ってない以上三人を蘇生に使った蔵人自身の魔力の残滓があるので見つけるのも容易かった。


「んー、ここは事務所だな」


 現在の住所を特定し、中をそのまま『マップ』によって把握する。

 

 十階建てのビルの七階が事務所でそこに十六人の人がいるのが確認出来た。


「んじゃ着替えて行くか」


 修道服に身を包み『ファントム』の魔法で誰が見てもクラウディアの姿に変わる。


「あーー、んんっ、よし。テレポート」


 発声からクラウディアであるのを確認し、座標を設定して転移すると自室の風景から硬い空気の事務所へと移動する。


「はい、ですからウチのタレントに聖女様は」

「いないんです。我が社とは一切関係がありませんので」

「ですのでこちらとしても対応しかねます」

「それは不可能です。聖女様の連絡先を存じ上げませんので」


 想像よりも地獄だった。


 SNSが荒れているのだから、その事務所にクレームが入らない筈がなく。あらゆる方面から引っ切りなしに電話が掛かっており事務員はその対応に追われていた。


 正規の手続きを踏んで入っていないので誰も蔵人には気付かない。この事務所がアイドル事務所であるのもありセキュリティは高く、下のエントランスから来客の連絡が来るようになってるだけに鳴り続ける電話を取るだけのマシーンと化していた。


「ふむ、これは待たせて貰いますか」


 流石に可哀想に感じた蔵人がソファに座り様子を伺う。


 電話を切っても直ぐに鳴る電話。押し付けたくても全員が出ているだけに再度出るしかなく、それがエンドレスに繰り返される。


 そんな涙を誘う光景は蔵人自身身に覚えがあるだけに早くこの状況を改善されるのを願う。たとえそれが自分が引き起こしたものであっても。


「お先に失礼しまーー………す?」


 スタッフたちの健康を憂いているとストロベリータウンの三人が逃げる様に、されど失礼がない様に小声で声を掛けて立ち去ろうとする。


「おや、今日はお帰りですか? なら日を改めますが」

「く、クラウディア様ぁあ!?」


 え? と電話対応していた者たちも未来の大声に振り向くとようやく蔵人がいるのに気付く。


 しかし気付いたのは事務所の者たちだけではなかった。


「!? いえ、聖女様いるじゃないかと言われましても私たちも何がなんだが…」

「聖女様に代われ!? いや、ですが」

「嘘ではありません! こちらとしてもどうして来られているか」

 

 叫んだ未来が自分の失態に気付き口を押さえるが後の祭り。電話の喧騒は蔵人の耳にまで届きそうな勢いとなった。


「はぁ…、仕方ありませんね。皆さんスピーカーに切り替えて下さい」


 蔵人は立ち上がりスタッフたちに声を掛ける。


 彼らからしたら天の声にも等しく、この地獄から解放される喜びで満ちている。


 誰もが躊躇なく電話をスピーカーに切り替えると不快な喧騒が事務所内に響き渡る。


『聖女いるじゃないか!! 早く出せ!!』

『さっさと代われ! お前じゃ話にならん!!』

『お願い! 聖女様に繋いで!!』


 耳を塞ぎたくなる一方的な言動に蔵人はよく耐えたものだと感心する。


 蔵人は息を吸うとその場にいるかのように受話器を睨む。



「五月蝿い。少し黙りなさい」

『『『っ!?』』』


 

 まるで女王の命令。有無言わせない蔵人に電話越しでありながら険悪な空気か流れる。


「私は今ここに来たばかりです。言いたい事は色々あるでしょうが全て彼女たちの配信の方で話させて頂きます。では皆さん、それを切って線を抜いて下さい」


 電話の向こうでは切るな、話をさせろ、と一層酷くなるが蔵人は切れと指を差す。


 スタッフたちは電話を切ると電話線を抜いた。ようやく訪れた平穏にホッと息を撫で下ろすも蔵人に向かいどうして来てくれたのかと不思議そうに目線を送る。


「ようやく話が出来ますね」

「あ、あの!」


 彼らを代表して未来が前に出る。


「改めてありがとうございます! あの時助けて頂かなければ私たち亡くなってたと思うと」

「お陰様で助かりました! こうしていられるのもクラウディア様のお陰です」

「ありがとう」


 未来を筆頭に三人が思い思いの感謝の言葉を述べた。


 蘇生させてこうも何度もお礼を述べられた事のない蔵人は何とも言えない気分になる。大体がさっさとやれだの、お前の蘇生は調子が悪くなるだの難癖しか付けられてなかったなと今更ながらに思う。


 そうした意味では三人は好印象を持てる。こんな騒動を引き起こした元凶相手に未だ感謝出来るのだ。罵倒の一つもあると思っただけに肩透かしでもあった。


「本当にありがとうございます。こんな事務所に来て頂いて…」

「この地獄が終わらないんじゃないかと不安だったんです」

「助かりました…」


 スタッフたちから違う意味でヤバい波動が出ていた。あんな地獄(電話対応)をやらされてたのにこちらも罵倒の一つも来ない。


「まったく、ヒール」


 蔵人は全員に向かい『ヒール』の魔法を使う。それだけで目の隈が酷かった者たちの顔色がみるみる回復して行く。


「まだ解決していません。さっさとこのバカな騒動を終わらせますよ」

「「「女神様…」」」


 たった一つの『ヒール』で聖女から女神に格上げされた蔵人。罵倒の一つでも来れば、このまま打ち合わせをして配信を始めていただけに胸中は実に複雑だった。


「貴方たちは何故私を恨まないので?」


 ある意味で異常な様子に蔵人は問い掛ける。状況だけ見ればただのマッチポンプ。恨まれど感謝される(いわ)れはなかった。


「そんな所属するタレントを生き返らせて頂いただけで幸運なのに、それ以上を求めるなんてとてもとても」

「こうしたやっかみは大なり小なりありますので。それが今回偶々大きかっただけですよ」


 なんとも言えないお人好し具合に愕然としてしまう。


「……貴方たちが死んだら蘇生してあげますね」

「「「ありがとうございます!!」」」


 思わず言ってしまったが蔵人に後悔は無かった。何ともあれだが自分と同じ匂いのする仕事人だ。いずれ過労でポックリ逝きそうなのがこの人たちなだけに他人とは思えなかった。


 事務所で配信をする事が決定した――もはや蔵人の言いなりではあるが――ので諸々の準備が行われる。


 心なしかスタッフたちの顔は生き生きしており、先ほどまでの死人のような顔で働いていたのと比べたら雲泥の差だった。終わりの見えない苦情対応よりも自分たちの心配をした上で『ヒール』による支援もしてくれた蔵人の為に働くのでは気の持ちようが違って当たり前ではあったが。


「クラウディア様はダンジョンの精霊じゃない?」


 詩音が機材のカメラを確認をしながら蔵人に尋ねる。


 世間の噂話の中にダンジョンの精霊説が出ていただけにそれを信じる者は一定数いた。詩音は蔵人がここダンジョン外にいると分かっていても半信半疑になっていた。


「目の前にいるでしょう? ちゃんと戸籍もありますよ」

「え、戸籍がある?!」

「………貴方私をどう思ってるの?」


 詩音としては突然現れた蘇生魔法の使い手であり、どんなギルドも探し出せない亡霊のような存在だっただけにそもそも人かどうかも疑わしいと思っていたりする。


「クラウディア様よく世間の目から隠し通せてますよね。良いのでしょうか? こうして配信に出て頂いても…」


 SNSに配信の告知を行おうとして手を止める有栖は問題ないか不安だった。


 命の恩人であり今もこうして騒動を収めるために尽力してくれているが、それが今後蔵人の活動に支障が出ないか心配だった。

 

「むしろ私としては貴方たちの今後が問題だと思いますけどね。私はこの配信で決意表明させて頂くので飛び火する可能性もあると思うのですが」


 打ち合わせの段階で蔵人は自身の立ち位置や今後の自身の活動を伝えた。その上でスタッフ一同は構わないと許可を出した。社長にも伝えたようで了承は得られていると。


 随分と剛毅な社長である。少なくとも蔵人のやろうとしている行為は火に油を注ぐなんて優しいものではない。火の中にダイナマイトを投げ入れるような行為だ。


 爆風消化なんて爆風で火を消す、あるいは周囲の物体を吹き飛ばして消火帯を作ることによって延焼を防ぐ消化方法もあるにはあるが、それは自然界での行いであってSNSなどの炎上に果たして有効なのかどうか。


「これ投稿しても…」

「既に決まった事でしょう? やるに決まっています」

「あ!?」


 有無言わせずに投稿のボタンを蔵人は押した。これで配信を止めたら、それこそ灰も残らないほどの大炎上が彼女たちには待っている。


「や、やっちゃった…」

「これで逃げられませんね」


 逃げる気が毛頭ない蔵人にとってこれは決定事項でしかない。


 しかし有栖からすれば背水の陣に追い込まれたに等しく、もう逃げられないと顔を少し青くさせる。


「後は、少し強めに張って置きますか。【聖域に悪鬼は寄らず・・・サンクチュアリ】」


 蔵人は指をタクトのように振って珍しく呪文を唱える。


 見た目からは何も起きていないように見えるが実際はミサイルが発射されようと核が落ちようとこのビルだけは無傷で健在するだけの強固な結界を張っていた。


「えっと、それは何を?」

「告知したのですから邪魔が入る可能性があるでしょう? 鬱陶(うっとう)しい虫に群がられては配信も満足に出来ませんので」

「は、はぁ…」


 あまりよく分かっていない未来は曖昧な返答しか出来ない。

 

 魔法に詳しくない者にとって何をしているのか理解出来ないのは仕方ない事。それ以前に魔道具を使ってこそ魔法が使えるのが前提であるだけに何をしたのか理解出来る者はいないだろう。


 これで全ての準備は整った。後は導火線に火をつけるだけ。配信が始まるのは一時間後なだけに未来達は気が気でなかったが、蔵人はのんびりと構えているのであった。

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