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第一話〜始まりの日①〜

 ここは辺境地の一つ、「エトス(Etos)」の外れの丘にある集落。

 そのうちの小さな一軒家で暮らす「ライア・サイフォンズ」は、今日も日が登る前から庭で剣技の鍛錬を積んでいた。


(まだ足捌きが甘い......。重心の移動をもっと丁寧に行うべきだろうか?)


「......はっ!.......ふっ、やぁっ!」


(今のはいい感じだった、これなら......)


 すると隣の家の玄関から女の子が出てきて、境目の小さな柵の前まで駆け寄ってきた。


「おはよう、ライア!今日も早くから鍛錬?」


「おはよう、ミア。そうだ、剣士ならば鍛錬は毎日欠かさず行う物だからな。」


「でも夜も遅くまでやってるでしょ?」


「勿論だ。」


そう話していると、ミアの父、ウォードがやって来て、


「ライア、もう朝飯は食ったかい?」


「いえ、まだです。」


「それなら、今日はうちのとこで食うといい。ロイスの奴がたくさん作っちまったって言ってるんだわ、そんならライアに食ってもらったらいいんじゃないかって話になったんだ。ライア、お前食べ盛りだろ?」


「そうですね、ではお邪魔させていただきます。」


「おう、鍛錬のきりがついたらギルド行く準備して食べに来い。」


 そういうと、ウォードは妻のロイスに、食べにきてくれるってよ

ぉ、と大声で伝えながら中は戻っていった。


「今日は朝ごはん一緒に食べれるんだ、ミア嬉しいよ!」


「そうだな。今日は少し時間がある。いつもならギルドの食堂でささっと食べているんだけど。」


「今朝は、うちで飼ってる牛から搾ったミルク入りのシチューだから楽しみにしててね!」


「ああ、わかった。俺はもうひと振りしてから向かうよ。」


「はーい。」


 またライアは剣を振る。


(さっきの感触、すごく良かった。同じように......。)


 大きく息を吸い込んで、ぐっと踏み込む。


「ふぅ......はぁっ!.......ふっ、やぁっ!......よし。」


(さっきよりも鋭くできた。もう何日か繰り返していけば、実戦でも使えそうだ。)


「ひとまず上がるか。」


 山と雲に隠れていた朝日がようやく顔を出す。陽光が滑らかに町中を覆っていく。春先の少しひんやりとした風が、熱を帯びたライアの体を優しく撫でる。


「いい朝だ。」


 そう言ってライアは深呼吸をした。それから、首に巻き付けているタオルで黒髪を滴る汗を拭う。

 玄関先に置いた荷物を取ってから自宅の門を出る。

 そしてすぐ隣のルータス家へ入って行き、


「すみませーん......!朝ごはん食べに来ました。」


「はーい!」


そう言ってミアが駆け寄って来た。


「上がっていいよ?」


「そうしたいけど、汗を随分とかいているから玄関で食べていいかい?」


すると、ロイスがやってきて、


「別に大丈夫ですよ。夫も農作業した後、よく汗だくで座ってますから。」


「いや、悪いですよ、ロイスおばさん。」


「......まぁ、そんなに言うならここまで持ってきますね。」


「じゃあ、ミアも今はここで食べる!」


「ミアは自分でご飯運びなさいね。」


「わかった!」


 いくら入ってもいいとは言われても、汗まみれのまま食卓に座るわけにはいかないよ、そう思っているライアの元に、ウォードがお茶を啜りながら歩いて来た。


「すまんな、こっちが呼んだのに気を遣わせて。別に構わないんだがなぁ。」


「お掃除の手間も増やしてしまいますから。」


「そうか、まぁミアが相手してくれるってよ。いや......ミアがライアに相手をしてもらってるんだよな。いつもありがとうな。」


「いえ、いつも元気をもらっているのでこちらこそありがたいです。」


「ははっ、そうかそうか!」


 そこにロイスとミアが戻って来て、


「一緒に食べよー!」


「お待たせしました、たくさん食べて下さいな。」


「ありがとうございます!」


 シチューから湯気が立ち昇る。見たところ具材もたっぷりだ。これはとっても美味しそうだ。


「いただきます。」


 ライアは、ニンジンをスプーンですくって口に入れた。


「......!」


「美味しい?」


「ああ、......ああ!よく煮込んであるな。口の中ですぐにとろけてしまったよ。」


「ライアの分に、たくさんお肉入れたってさっきお母さん言ってたけど、どう?」


 少し探ってみると、ゴロゴロお肉が入っていた。


「本当だ、これは嬉しいよ。」


「よかった。」


 お肉の方もしっかりと味が染み込んでいた。ライアはコクのあるシチューを存分に食べた。


「ごちそうさまでした。」


「あ、器そこに置いてっていいよ。もう行くんでしょ?」


「わかった。ありがとう。」


「うん。」


「ロイスおばさん!ウォードおじさん!ごちそうさまでした!」


 奥から二人が出てきて、


「食べてくれてありがとうなぁ、ライア。」


「これからギルドですか?」


「はい。いってきます。」


「気をつけてなぁ。/いってらっしゃい。」


 ミアは門を出るところまで着いて来た。


「今日も頑張ってね!」


「ああ。」


 そうして、ライアはギルドへ向かった。


 ギルドに到着したライア。いつも通り壁に貼られた依頼を確認する。急ぎの依頼がないかを最優先で探す。


(今日も護衛の依頼ばかりか。)


すると、受付嬢が話しかけて来て、


「急ぎの依頼は今はありませんよ、ライアさん。」


「そうか、わかった。なら、これを受けようと思う。」


 そう言って手にしたのは、山菜採集の護衛依頼だった。


「はい、承りました。報酬は銀貨5枚です。」


 受付嬢は、書類を取り出し、ライアに記名させた。 


「ライアさんの実力に見合う依頼って、なかなか無いんですよねぇ。魔物討伐はほとんど中央ギルドへ依頼が行ってしまっているので......すみません......。」


「いや、無い方がいい。その状況が続いているなら、その分平和が続くということだ。しかし裏を返せば、見えないところで魔物が誰かを襲う準備をしているかもしれんと言う可能性が高いと言える。護衛依頼を受けることは見回りにも繋がるからな、これで問題は全く無いよ。」


「確かに、ライアさんの言うとおりですねぇ。最近は護衛中に魔物に出くわすケースが増えていますし。あなたならきっと大丈夫だと思いますが、気を付けてくださいね。」


 受付嬢はそう言うと、待機していた依頼人を呼んだ。以前にも何回か護衛したことがある老夫婦だった。


「ああ、あなたでしたか。今日もよろしくお願いしますね。」


「また、しっかりとお守りさせていただきます。」


「この前は採集中に魔物に襲われてなぁ、なんとかその時の護衛さんが守って下さったおかげで、なんとか逃げることができたんじゃが、彼、左腕を骨折しながらだったんだわ。よく彼も逃げることができたわい、と今も思っとるんじゃ。」


「そんなことがあったんですか。」


「でも今回はあなたが護衛してくれるなら安心ですよ。この前も魔物の群れを一人で倒してしまったんですって?受付嬢から聞きましたよ。」


「まぁ、はい。」


「じゃあ、そばにいれば安心じゃのう。」


 そうしてギルドを出て森へ向かう三人。昼前までの三時間ほど採集をするらしい。昼間でも鬱蒼として妖しい空気が漂う森の中。今のところ、魔物の気配は感じ取っていない。


 日はかなり上まで登った。また、老夫婦は順調に目当てのものを採集できているらしい。

 しかし、もう少ししたら引き上げようという話が出た直後だった。


(......北から何か来る。人じゃない、それに、ただの獣でもないな、動きがあまりにも慎重すぎている。この森にはそこまで知能の高い獣は生息していない。おそらく......魔物だな。)


 ライアは、少し声を抑えて、


「二人とも、おそらく魔物が近寄って来ています。すぐそこの茂みに隠れていて下さい。」


 老夫婦は慌てて茂みに飛び込んだ。


 木の幹の後ろから様子を伺うライア。すると、木のような化け物がゆっくり近付いて来ているのが見えた。


(あれは、偽樹木人フェイクツリーマンか......。)


 偽樹木人はライアの気配を感じたのか、動きを止めた。


(偽樹木人は、こうして動きを止めると、本当に木と見分けがつかないな。それよりも、森の中だと火は危険だ、使うべきじゃない。一気に距離を詰めて切るか。)


 ライアは少し間を置いた後、一気に飛び出していった。

 偽樹木人は葉っぱのような部分を飛ばしてくる。


「はぁっ!」


 ライアは魔力で風を操り葉っぱもどきを吹き飛ばし、そのまま自らの間合いまで距離を詰めた。

 だが間髪入れずに、偽樹木人は枝のような部分をライアの上から鋭く伸ばして応戦する。

 ライアは滑り込んで回避した。

 しかし、目の前の地面から突然根のような部分が突き抜けて進路を塞がれた。


「な、ん、のぉっ......!」


(ズバァーン......!)


 ライアは根っこもどきを一閃した。そしてその勢いのまま偽樹木人は幹ごと真っ二つとなった。


(グギャァァァー!)


 偽樹木人は倒れた。


「ふう......。」


 ライアは老夫婦の元へ戻った。


「もう大丈夫ですよ、魔物は倒しました。」


「そうかい!流石じゃなぁ、助かったわい。」


「そろそろ採集を切り上げましょうか、おじいさんや。」


「そうじゃのう、ばあさん。」


「では、速やかに森を出ましょう。さっきの魔物の悲鳴を聞いて、他の魔物たちが集まって来るでしょうから。」


 こうして三人はギルドへ戻っていった。


「あら、お帰りなさい!何もありませんでしたか?」


「偽樹木人が出たけど、倒した。それ以外は何もなかったよ。」


「そうでしたか!ご無事で何よりです。」


 そう言いながら、受付嬢は老夫婦から依頼完了のサインをもらっている。


「今日は本当にありがとうなぁ。また機会があったらよろしくのぅ。」


 そう言って老夫婦はギルドを後にした。


「ライアさん、依頼完了の報酬です。」


「ありがとうございます。」


 ライアは銀貨を5枚と金貨を1枚受け取った。


「この金貨は?報酬はなんか5枚のはずだったが。」


「そちらは先ほどのお二人から、ライアさんへの魔物討伐のお礼だそうですよ。」


「ああ、そうですか。わかりました。」


「あっ、そう言えばライアさんにお客さんが来てました。」


「客?」


 ライアは、ギルドの応接室に案内された。

 そこには、貴族の正装をした50歳ほどの見た目で男性が待っていた。白髪で髪の毛は短く整えてある。身長はライアより随分と高い。180cmはありそうだ。


「初めまして。私はアンティ・ノクロスと申します。中央ギルドから、あなたをスカウトするために参りました。」

第一話を読んでいただき、ありがとうございます。

最初の数話はあまり起伏がない展開だと感じる人が多いと思いますが、細かく描いていきたいので、気長に読んでもらいたいです。


また、下に登場人物などの公開できる補足説明を整理のついでに書いておきました。第二話以降もお伝えできる情報は書くつもりです。

本作品は不定期連載ですので第二話が掲載されるのをゆっくりお待ちしていただけると幸いです。


補足説明↓↓↓


主人公

ライア・サイフォンズ(Raia Thyphons)18歳、剣士


隣人のルータス(Rootas)家、農業を営んでいる

・夫のウォード(Ward)35歳

・妻のロイス(Royce)34歳

・娘のミア(Mia)13歳


辺境ギルドの受付嬢:リリー(Lilly)20歳


老夫婦


自称中央ギルドのスカウト

アンティ・ノクロス(Antti Nokros)52歳


魔物

偽樹木人(フェイクツリーマン)

特徴↓↓↓

木に擬態しているが、根を張っているわけでは無い。獲物にこっそり近寄って、触手で捕らえて捕食する。触手を、枝、葉、根のように変化させて動かすことができる。触手だけなら切ってもすぐ再生するので、自分で切り離して飛び道具にするこどある。倒すには、幹のような胴体は再生できないため、そこに致命的なダメージを与えるか、火で燃やすのが効果的。


辺境地:辺境地というのは、この話の場合では王都がある平野以外の地を指す。決して到達困難な場所や辺鄙な場所ばかりを指しているわけではない。(そのような場所が多いのも確かだが。)


「エトス(Etos)」

ライアの生まれ育った地。辺境地の中では人口も観光客も比較的多い方である。王都から見て北東の山あいに位置する。

そのため周囲を山に囲まれており、冬は大雪が降る。地下を通る温水脈から湧き出てくる温泉が観光利用されている。

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