プロローグ
目を閉じる。
外界からほとんどの光をシャットアウトして、嫌な常識から宙が浮くような感覚でただ息をする。
嬉しいことも、楽しいことも、嫌なことも、面倒なことも、眠るという行為の前には何も無い。
深海のように深く深く、眠りに落ちていく。
デジタルのような、海の音のような、自然で落ち着く音色の中でただぼんやりと月の夢を見る。
暗い暗い
食らい食らい
冥い冥い
服が水を含み身体が重くなって沈んでいく。
いつか見た夢。夢の痕。
「…死んじゃったんだね。」
少年は海の底で息を引き取った死体を抱える。
愛おしく、呆れるほどに人を大切にしている君を海でずっと見ていた。
海のようにおおらかで、波のように豪快で、水のように変わりやすい君は、海を愛していた。
人間たちの固定概念に疲れ、愛そうと、死にたい気持ちを必死に騙して、理解できないながらも理解しているフリをずっと続けていた。
…彼らを理解しなくても、僕らはいつでも君が帰ってくるのを待っていたのにね。
その死を悲しむように、死へ追い込んだものを恨むように、天は荒れ、海は死を運ぶ。
海は大いなる母。何もかもを許す人を人は存在そのものを許さなかった。
地を許していた訳では無い。地を許す人を守っていただけに過ぎなかった。
最後の最後まで、彼女が絶望する間際まで、彼女に付き従うという、彼女も覚えていない彼女との約束を守っていただけに過ぎなかった。
その日、地球という惑星は10割が海に沈んだ。
悲劇で終わった彼女の物語は終幕を迎えた。
これからは、また別の世界の物語。
主人公は海で暮らしていた時のことを覚えておりません