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 デスティモナ伯爵に手紙を書いていただくと、ハロルド様はすぐに立ち上がる。


「子爵への説明は俺に任せてほしい」


 次は我が家に向かうことになった。


 再びデスティモナ伯爵家の豪華な馬車に向かい合わせで乗る。

 さっきまで一緒に乗っていたはずの従者は馭者台に移っていて、車内には二人きり。


 緊張する……


 でも、目の前に座るハロルド様は何も変わった様子はなく、話の続きとばかりに趣味の話や好みの話が始まる。ただ、さっきと違うのはわたしにも話が振られる事だった。


 ハロルド様と話が弾んでいると……


 ガタガタンッ!


 馬車が大きく弾んで体勢が崩れたのをハロルド様が抱き止めてくれた。


「軽い……まるで羽みたいだ……」


 痩せぎすなだけの私を羽みたいだなんて……

 耳元で囁かれた呟きにドキッとする。


「あっ、あの」

「しっ……失礼」


 ハロルド様は慌ててわたしから体を離し咳払いをした。


 我が家がある、領地の村はもうすぐだ。


 街道からそれて村に向かう道は、土埃が舞い、深く轍が残ったままのガタガタの道。領地内の道の整備は領主の仕事なのに、我が家にはそんなお金はない。


 領民たちは荷馬車を引くのにも苦労している。


 スプリングが効いた馬車なのに、ゆっくりと運転しても轍に車輪が取られて跳ねるたび、恥ずかしさで顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。


 弾んでいた話題もいつの間にか言葉が少なくなっていき、家に到着する頃には静まりかえってしまった。



 ***



 出ていったばかりのわたしが、ドレスを着て豪華な馬車で戻ってきたことに、お母様と弟達が目を丸くしている。

 馬車についていたデスティモナ家の紋章に怯えてお母様の後ろに隠れていたお父様もわたしの顔を見て飛び出してきた。


「ごめんよミザリー。あの時は気が動転してミザリーを差し出すようなことをしてしまって! やっぱり追い返されたのかい? そうだよなぁ。父様はあの後、なんてことをしてしまったんだと後悔していたんだ。やはり土地と屋敷は売って、爵位を返上しよう。慎ましやかに暮らそうじゃないか」


 そう言ってお父様がわたしの手を取っておいおいと泣き出した。


 お父様は根っからの悪人ではない。短絡的で騙されやすいだけ。領主としては致命的なんだけど。


 自分の元にわたしのことを引き寄せようとするお父様を、ハロルド様がわたしの腰を抱き寄せて阻害する。


「子爵。私が見た限り畑は痩せて麦畑はまだ花も咲く気配がない。街道から領地へ伸びる道は荒れ果てている。買い手が現れても買い叩かれて、残念ながら土地と屋敷は返済をまかなえる金額では売れないだろう」

「でっ、ではミザリーは……」

「お返し出来ない」

「なっ! 借金のかたに人質を取ることは認められないはずだ!」

「お父様……」


 自分のことを棚上げしてハロルド様を責めるお父様に呆れる。


「子爵。ミザリー嬢を我が家の花嫁として迎え入れたい」


 再び説明なく、私と結婚することをハロルド様は宣言した。

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