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 王都にあるデスティモナ家が営む銀行は白亜の重厚な建物で、前に立つだけで圧倒される。

 ……父親が借金を踏み倒そうとしている身には敷居が高いわ。

 気おくれしていると、ハロルド様はわたしの腰に手を回して歩き始めた。


「あっあの、ハロルド様?」

「やぁ。父に会いにきたよ」


 わたしの気おくれに気づいているのかいないのか、入り口のドアマンに軽快な挨拶を交わし、どんどん進んでいく。


 カウンターを通り過ぎて奥に進む。いくつかの部屋の前を通り過ぎ階段を登り、また部屋を通り過ぎ、とうとう一番奥の立派な扉の前に立つ。


「父上。ハロルドです」


 ハロルド様が開けたドアの向こうには、異国情緒あふれる調度品が所狭しと並び、まるで博物館のような部屋が広がる。


 すごい!


 わたしは息をのんで周りを見渡す。


 部屋の奥に置かれた文机にはハロルド様によく似た紳士が笑顔で座っていた。




「父上。こちらのご令嬢はミザリー・ファサン子爵令嬢です。俺はこちらのご令嬢と結婚します」

「えっ! ハロルド様⁈」


 説明が始まると思ったら、ソファに座るや否やハロルド様はそう宣言する。デスティモナ伯爵は驚いた様子で目を見開くと、整った顎髭を撫でた。わたしも隣で驚いて目を見開き声を上げてしまった。


「ハロルド。ミザリー嬢も驚いているようだけど、急に結婚だなんてどういうことなんだい?」

「ええ。この後ファサン子爵に結婚のご挨拶をしたいので、父上からこの結婚を認めている旨一筆いただきたいんです。子爵の許しを得たらすぐにでも貴族院に結婚の申請をしたいと思っています」


 デスティモナ伯爵の質問に答えになっていない答えを返したハロルド様は、ずっとわたしの腰を抱き寄せたままだ。


「ファサン子爵家でも娘の結婚ともなれば準備も必要だろう。随分と急ではないかい?」

「そうです。急がねばなりません。こんな好機を逃すのは、惜しいなと思いまして」


 わたしやデスティモナ伯爵の戸惑いなんて気にもせず、部屋の隅に控えていた銀行の秘書に声をかけて手紙を書く準備を整えていく。


「あの! かりそめの結婚なんです!」


 説明もなく話を強引に進めようとするハロルド様に、さっきの美少女と同じ匂いを感じて、わたしは慌てて横から口を出す。


「わっ、我が家の父が、その、借入金の返済を滞納していまして、ご返済をお待ちいただく代わりに、ハロルド様と契約結婚をさせていただくことにしたんです! ハロルド様のご結婚相手が見つからないことに乗じてデスティモナ家の資産を掠め取ろうとする者たちに悩んでいるということで、追い返すためにわたしが一年間ハロルド様の妻として振る舞うことになったのです」


 そこまで言って、気がついてしまった。


 一年後慰謝料として我が家の借金を帳消しにしてもらうってことは、わたしもデスティモナ家の資産を掠め取ろうとしているのと一緒だ。


「なので、本物の花嫁ではありませんので、準備なんていりません」


 社交界の初舞台(デビュタント)だけじゃなく、結婚も夢とは遠いものになっていく。


 わたしは唇をかみしめて顔を上げる。


「なるほどね。これは好機だ。すぐにでも一筆書こう」


 デスティモナ伯爵は笑顔で頷いた。

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