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「──ですから、花嫁というのは妹さんの勘違いで、わたしは父の借金のかたとしてこちらのお屋敷に来たのです」


 通された応接室のソファに座り、使用人がお茶の用意をしてくれる音を聞きながら事情を説明した。

 

 先程の青年──ハロルド・デスティモナは神妙な面持ちのまま私を見つめている。


「なんでもしますので、借金の返済を猶予してくださいませんか……」

「なんでもと言われても……借金のかたに人質をとるなんてことは禁止されている。罪の片棒を担ぐことはできないな」


 必死になって頭を下げた私の上に冷静な声が降り注ぐ。顔を上げると不愉快そうに眉を顰めたハロルド様と目が合った。


 そうよね……

 さっきミアにも叱られたけれど、うちの借金のためなんかに犯罪を犯すわけがないわ。

 それにそんな申し出するなんて、デスティモナ家は犯罪をは厭わないでしょうと言っているようなものだもの。


 ああ。私の馬鹿。

 今更なことに気がついて、自分の浅慮さに呆れた。

 沈黙が苦しい。


「確かに、ネリーネが言うように好機かもしれないな」


 そう言ってハロルド様は沈黙を破った。わたしを見つめたままの顔は笑顔に変わっていた。


「なぁ、ミザリー嬢。君さえよければ、俺と契約をしないか」

「契約?」

「ああ。結婚してほしい」

「あぁ、結婚……って、結婚⁈」


 やだ! 驚いて、はしたなく叫んでしまったわ。わたしは慌てて手で口元を覆う。


「我が家は金貸しだ。世間体が良くないと貴族のご令嬢たちはなかなか嫁ぎにきたがらないもんだから、結婚どころか見合いにすら辿り着けなくてね。まぁまだ若いし、これから王宮勤めが始まれば、出会いもあるだろうしどうにかなるとは思ってたんだけど……」


 彫りの深い顔から、深いため息がもれる。


「そうこうしてたら、足元をみた奴らがこちらの資産狙いで娘をねじ込もうとしてきていてね。それがまた杜撰な計画なのさ。婚約したらすぐこちらの不義理をでっち上げて婚約破棄して慰謝料をふんだくろうなんて魂胆が丸出しで困ってたんだ」


 心底困り果てた顔をしたハロルド様はわたしを見つめる。


「つまり、わたしがハロルド様の花嫁になればデスティモナ家の資産を狙う者たちを追い返せて都合がいいってことかしら?」


 わたしは思いついた内容を伝える。ハロルド様は頷いた。


「まぁ、そういうことかな。まずは一年間どうかな? そのあいだはファサン子爵家の返済は猶予しよう。一年後、君の判断で契約は無効にしても構わないよ。その時は君がファサン子爵家で肩身の狭い思いをしないように、借金を返せる金額を慰謝料として支払おう。悪くない提案だと思うけど?」


 わたしの判断でとは言っているけど、一年間の契約結婚ってことよね。

 一年間利息を待ってもらって、一年後には慰謝料の名目で借金を帳消しにしてくれる。確かに悪くない提案だわ。

 お父様はさておき、お母様や弟達、それに領民達も救うことができる。


 考えているわたしに向かってハロルド様は手を差し伸べる。わたしは意を決してその手を握った。


「よし。契約成立だ。じゃあすぐにでもうちの父とファサン子爵に挨拶に行こう! さぁ、みんな準備して!」


 握った手をひき、わたしを立ち上がらせたハロルド様はそのまま腰を抱き寄せ、使用人に号令をかけながら歩き出す。


 きゃあぁぁぁ! 顔が近い!


 男性とダンスを踊ったこともないわたしにはこの距離感は刺激が強すぎる……


 私の動揺なんて気にもとめず、ハロルド様は私を軽々と抱き上げると馬車に飛び乗った。

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