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「旦那様も若様も顔立ちがくどいので、派手な服に負けずに、なぜか似合ってしまうんです、だからセンスが本当に狂っていて、本当に、本当に、嫌がらせではないんです」


 鏡の前でドレスを当ててあまりの似合わなさに肩を落とすわたしを、ミアはそう言ってフォローする。


「大丈夫よ。嫌がらせじゃないのはわかっているわ」


 契約結婚の相手だからと、嫌がらせをするなんて、ひどい人たちじゃないのはわかってる。

 ちょっと強引なのも、悪気はない。だから、いまから一年後お別れしなくちゃいけないのが辛い。


「若奥様の清楚さを生かせるように装飾品は減らしましょう。とりあえず造花とリボンは要らないわ! 外せるものは外しちゃって!」


 ミアの号令にメイド達はハサミで器用に作業を始める。


 既製品のドレスに足せるだけ装飾品を足したらしく、外すのは意外と簡単だった。

 胸元のリボンや造花を減らすだけでもかなり落ち着いた雰囲気に変わる。


「パニエにワインはかかってませんけど、履き替えますか?」


 ハロルド様達が贈って下さったドレス用に用意されていたパニエは、ドレスを広げるためにワイヤーと幾重にも重ねたレースで膨らませている。


 パニエだけで十分豪華だ。


「いま履いているシンプルなパニエで十分よ。ドレスは広がらない分、裾を寄せてタックを作って!」


 ミア達の手によってドレスが変わっていく。

 

「せっかく作っていただいたドレスをこんなにアレンジしてしまっていいのかしら」

「大丈夫です。そもそも、若様は若奥様が喜んでいらしたら、なんでもいいんですよ」


 そんなことない。


 使用人のみんなは、わたしとハロルド様の結婚が契約結婚だって知らない。ネリーネちゃんがわたしを花嫁だと勘違いしてお姫様みたいにおめかしさせたら、ハロルド様が一目惚れしたという物語を信じてくれている。

 自分達がわたしのことをお姫様のようにした事で結婚までたどり着いた事をみんな両手を上げて喜んでいて、今も幸せな花嫁になれるように力を尽くしてくれている。


 一年後、みんなわたしたちに騙されたことを知ったらどんな顔をするんだろう……


「若奥様。出来上がりましたよ」


 わたしが顔を上げるとそこには悪趣味なドレス姿の貧相なわたしではなく、花嫁らしい華やかで清楚なドレスを身にまとった幸せそうなわたしがいた。


「さあ、若様が広間でお待ちです。急ぎましょう」


 わたしは、待ち構えていた使用人のエスコートで広間に戻った。




 ハロルド様と二人でくぐった扉を、今度は一人でくぐる。


 広間の大きなシャンデリアは、光が乱反射していて……


 まるで大きな万華鏡(カレイドスコープ)みたい。


 中心で来賓に囲まれた一際背の高い人物が、振り返る。

 万華鏡に負けないくらい派手な顔立ちのハロルド様は、目を見開いて驚いている。


 ……やっぱりドレス、アレンジしすぎたかしら。


 わたしが身構えていると、こちらに満面の笑顔を向けて両手を広げ、優雅に歩み寄る。


「なんて美しいんだ!」


 身構えていると、近づいたハロルド様はわたしの腰を抱く。


「こんなに美しい女性を妻に迎え入れることができるなんて俺はこの世で一番幸せだ」


 わたしのボロボロな手を取ると、指を絡めたり、指輪を確認してなぞる。極め付けは手の甲に唇を落とした。


 甘い雰囲気に耐えられなくなったわたしは、ハロルドの身体をそっと押し退けた。


「……あっあの、ハロルド様。わたしたちはこれから契約結婚をするんじゃ……」

「契約結婚? そもそも結婚というものはどんなものであっても契約だろ?」

「え?」

「さて。一年後の契約はどうなってるかな」


 耳打ちしたわたしに、ハロルドは片目をつぶってそう答えた。

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