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「家宝? このドレスが?」


 デスティモナ伯爵は、驚いたようにわたしに尋ねる。


「はい。ネリーネちゃんから代々、デスティモナ伯爵夫人が婚礼の時に着ていた大切なドレスだって伺っていたのにすみません……」

「そうか、ネリーネが……」


 眉間を揉みほぐしていたデスティモナ伯爵は、ふぅとため息をついたあと、わたしに視線を合わせる。

 怒っているわけじゃなさそうだけど、悲しくも寂しくも、優しくも見える複雑な表情だった。


「そうだね。確かに、ネリーネには、このドレスを宝物だと伝えて渡していたんだ」

「本当に申し訳ございません」


 勢いよく頭を下げる。


「顔を上げて。誤解しないで欲しい。家宝なんて大したものじゃないんだ。どちらかと言うといわく付きのドレスなんだ。少しだけ私の昔話をしてもいいかい?」


 遠い目をしたデスティモナ伯爵はポツポツと話し始める。


「……私が若い頃の我が家は、社交界では、今なんかよりももっと風当たりが強かったんだ。妻に一目惚れした私が、何度結婚の申し出をしても、妻の両親はなかなか許してくれなくてね。結婚するなら親娘の縁を切るとまで言われて……。私たちの結婚は半ば駆け落ちのようなものだったんだ」


 飾られている肖像画は、そんなことがあったなんて思えないくらい二人とも幸せそうに笑っているのに。


「それでも結婚したいと妻は私を選んでくれたんだが、もちろん妻の実家は嫁入りのための準備も協力はなくて、婚礼の日には母が着たドレスを着たんだ。でも、そのドレス自体も、実は母が父の後妻に入るのを実家から反対されて、前妻が婚礼の時にきたドレスを着たなんていういわく付きのものなんだ」


 それで、わたしがこのドレスを着て現れた時に戸惑っていらしたのね。


「私は後妻を取るつもりがないから、このドレスの役割は終わりにしようとしたんだ。妻との思い出の品として大切に保管しておこうと、ネリーネに渡したんだよ。だから家宝だなんて大そうなものじゃないんだ。きっと肖像画をみていたネリーネが、歴代のデスティモナ夫人が着るドレスだと解釈したんだろうね」

「そうなんですね……。でも、家宝じゃないにしろ、ご家族の大切なドレスであることに間違いないのに、わたしのせいで……」

「いいんだ。いいんだ。早かれ遅かれ、形あるものはいつか壊れる。確かにこのドレスはもう着られないかもしれないが、妻との思い出がなくなったわけではない。それにこのドレスを君が着てくれたから、迷惑な親娘を追い返せた。礼を言わせてくれ。ありがとう」

「そんな、お礼だなんて、こちらこそ申し訳ないです」


 頭を下げるデスティモナ伯爵に、わたしも恐縮しきりで頭を下げる。


「ミザリー嬢。本当に俺も父も感謝しているんだ」


 ハロルド様はわたしの手をそっと握る。ハロルド様の暖かな手はドキドキするけど安心する。

 わたしはやっと微笑んだ。


「そうだ。俺と父が用意したドレスがあるはずだろう。それに着替えておいで」

「えっ? ハロルド様たちが用意してくださったドレス?」


 そんなドレス知らない。わたしの顔を見てハロルド様はため息をつく。


「その顔だと、ドレスを用意したのを知らないのかな。またミアの仕業か」


 ミアの仕業? そんな、ネリーネちゃんを大切にしていていつも真面目なミアが? どう言うこと? 


 ハロルド様のミアを呼ぶ声を聞きながら、わたしの顔は再び強張っていた。

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