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 私たちを睨んでいる親娘は、デスティモナ家の遠縁にあたる家柄だと教わる。二人は周りの挨拶が終わった頃を見計らって近づいてきた。


「随分と急にお決めになったもんですなぁ」


 簡単な挨拶を済ますと、父親の方は、突き出したお腹を撫でながら嫌味ったらしくそう言った。

 娘の方はわたしを睨んだまんまだ。


「ええ。理想の女性に会えましたのでね。初めての出会いはまるで雷に撃たれたようでしたよ」

「はは。娘と見合いの申し出をしてもなかなか話が前に進まないと思ってたが、いやいや、なるほど君の好みはこういう女性だったんだねぇ。娘とは大違いだ」


 父親の方はわたしを上から下までジロリと見て鼻で笑う。


「いやぁ。随分と慎ましやかで控えめな女性じゃないか。さぞご実家の方針は高潔だったのだろうなぁ」


 ファサン子爵家の惨状を知ってるからこその嫌味ね。

 わたしはハロルド様の隣で笑顔を維持することにつとめる。


「君はファサン子爵家のお嬢さんだってね。君のお父様のことはよく知っているよ。以前我が家にもいらしてね。領地と家業のためになんて言って金を借りれないかと頭を下げてらしたよ。返すあてもない金を借りるためにはなりふりなんて構わない。領民と職人思いの良い領主じゃないか」

「お褒めいただき光栄です」


 心にもない返事を返す。

 お父様が良い領主なわけがない。自分でまいた種だもの。

 頭を下げるくらいしてもらわないと困る。


「その節はお貸付いただけなかったようですけど、心意気を買っていただいていたと聞けば、父も喜びますわ」


 帳簿を管理していたわたしはどこからいくら借りていたか把握している。この家から我が家は借入していない。お世話になっていない家に好き勝手言われたままにするいわれはない。

 笑って言い返してお辞儀をする。


 わたしの態度が気に障ったのか、ワイングラスを持つ手に力が入った。ワインがグラスの中で波打っている。


「はっ! なりふり構わないファサン子爵はとうとう娘まで金策に使うようになったのだな。楚々とした振りしてしたたかな娘だ。見えすいた芝居に君が付き合っているのにも何か裏があるんだろう」


 父親が激昂した。


「伯爵。すでに酔われてるのでは? あちらでお休みになったらどうです」

「わしは酔ってなどいない!」


 ハロルド様が使用人に休憩室へ連れて行くように声をかける。


 バシャン!


 一瞬、目を離した隙に、娘が持っていたワインをわたしに浴びせる。


「……薄汚いドレスしか与えられていないくせに、わたくしの邪魔しないで」


 薄汚い?


 乳白色のドレスに赤いシミが広がる。


 サイズの合わないドレスを懸命に着せてくれたミア達や、ドレスを身に纏ったわたしをみて興奮してはしゃいでいたネリーネちゃん、それに応接室に飾ってあったデスティモナ家の花嫁達。


 いろんな人の想いがこもったドレスを馬鹿にされて汚されたことに怒りが湧き上がる。


 デスティモナ家の資産を狙っているだけのくせに。


「このドレスの価値がわからない貴女が、デスティモナ伯爵家に相応しいとは思えないわ」

「こんな薄汚い古びたドレスにどんな価値があるっていうのよ」

「家族の応接室に入ったことのある者なら誰でもその価値に気がつくわ。入ったことのない貴女には分かりようがないでしょうけど」

「生意気よ!」


 わたしは思い切り頬をはたかれた。

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