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 ハロルド様に連れられ、大広間の入り口に立つ。その広々とした空間には幾重にも連なるクリスタルのシャンデリアが吊るされ、キラキラと光が踊っていた。


 シャンデリアの下では、楽団が楽しげな音楽を奏でる中、ダンスを踊る人たちに、給仕が配るワインを片手に歓談をする人たち、来賓達はみんなそれぞれ自信ありげに過ごしている。


 主役の一人であるはずのわたしがこの場で一番自信がない。


「奥様、心の準備は出来ましたか」


 そう言って微笑み差し出されたハロルド様の腕を取り、わたしは頷いた。


 私たちが広間の中央に移動するために歩き出すと、気を利かせた楽団の指揮者は金管楽器に指示を出し、ファンファーレを鳴らす。

 歓談の声が止み、品定めするような無遠慮な視線が一気に集まった。


 一歩一歩踏み出す足は震えている。ハロルド様の腕につかまりゆっくり歩く。


 華やかな音楽が響く中でも、人々の馬鹿にしたような顔とヒソヒソと話す声は隠しきれない。


 広間の中央に着きハロルド様が結婚の挨拶をしている最中も、わたしを見る目は変わらない。

 わたしのことを「初対面で見初めた」と馴れ初めを語るハロルド様の話は、誰も信じていない様子だった。


 ハロルド様の隣に立ちながら、わたしは周りから聞こえるヒソヒソと小声で話す内容に耳を傾ける。「なぜあんな没落貴族の娘と……」「没落貴族の娘くらいしか嫁のなり手がないんだろう」みんな好き勝手言っている。

 我が家の困窮状態は社交界に知れ渡っていて、なぜそんな没落貴族の娘であるわたしがハロルド様の妻になるのか、誰しもが訝しんでいた。


 あちこちから「どうせ結婚したって長続きするわけがない」そんな声が聞こえる。


 そうよね。一年後、住む世界が違いすぎるからと別れても違和感がないから、わたしに契約結婚相手として白羽の矢が立った。

 ネリーネちゃんの勘違いを、ハロルド様達が好機に思うのも納得だわ。


 いつのまにかハロルド様の結婚に向けての演説は終わり、わたしは腰を抱き寄せられた。


 ちっ近い……


 ハロルド様の距離の近さには、数日一緒に暮らしてもちっとも慣れない。ドキドキしてばっかり。

 少し離れたいけれど、結婚したての二人に距離があるのはおかしいものね。


 わたしは、えいやっと気合を入れてハロルド様にしなだれかかる。


「……ミザリー。あそこにいるのが例の親娘だ」


 そう小声で言われた先では、恰幅のいい男性とわたしと歳の近そうな綺麗に着飾った女性が、わたしのことを睨むように見ていた。


 そうか、あの親娘が、デスティモナ家の資産を狙い、婚約したらハロルド様の不義理をでっち上げて婚約破棄して慰謝料をふんだくろうと企んでいるのね。


 あの親娘にハロルド様を諦めさせるのがわたしの役目。契約をしっかり果たさなくちゃ。


 わたしは深呼吸した。

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