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 わたしの説明を聞き、ファサン子爵家の復興まで程遠いことに親方は肩を落とした。


「……えっと、ほら、あの、昔から変わらず、素敵な細工のアクセサリーばかりね! いつも親方は作ったアクセサリーをここで売っているの?」


 気まずくなったわたしは話題を変える。真鍮とガラス玉のアクセサリーは子供の頃から見ていた繊細な細工が施されていて目を引く。高級な宝飾店のアクセサリーになんて負けない。


「そうです。ただ、たいして売れやしませんよ。糊口をしのぐくらいの日銭稼ぎです」

「ごめんなさい」


 確かに残念ながら、手が込んだアクセサリーは街中の露店で衝動買いするには高すぎる。


「あっー いえいえっ! 違うんです! ミザリーお嬢様、顔をあげてください! そりゃ売れるに越したことはないんですが、またファサン子爵家が彫金工房を始められるようになった時に腕が落ちていないようにと、一緒に働いていた職人達と少しずつ金を出し合って街はずれの職人街の工房を借りて、アクセサリーを作ってるんです」


 ファサン子爵家の復興を信じてくれる親方達が、王都の端っこで彫金工房を開いていつでも戻れるように準備してくれているなんて……


 あと一年。


 あと一年待ってもらえれば、ハロルド様のかりそめの妻の役割を終えて、慰謝料で借金を帳消しにしてもらえる。

 それまで親方達は待っていてくれるかしら。


「もう少しだけ、あと一年もあれば、きっと借金はどうにかできるから……」

「お嬢様、大丈夫です。俺たちはいくらでも待ちますから」


 そう言ってくれた親方の頭には白いものが光る。

 うちの彫金工房を出てから親方も苦労したことがしのばれた。


「確かに繊細な細工で惚れ惚れするね」


 しんみりとしているわたしたちを尻目に、ハロルド様は露店に並ぶアクセサリーを吟味していた。


「ミザリー嬢。こちらの親方が売るアクセサリーなら、君のお眼鏡にかなうかな?」


 そう言って片目をつぶる。


「ハロルド様……! ありがとうございます!」


 売れなくてもと言ってくれていても、やっぱり少しでも売れるに越したことはない。


 わたしはハロルド様の手を取る。


「じゃあ全部いただこう」

「全部⁈」

「まぁ、さすがに今日はもう荷物がいっぱいで持ち帰れない。ひとまずこちらの指輪を買わせていただきたい」


 そう言ってハロルド様は親方にお金を支払う。青いガラス石がついた真鍮の指輪をわたしの左手の薬指にはめた。


「似合うね」


 いつものみすぼらしいボロボロの指先も、今日は幾分ましだ。ミア達が香油を塗りこんでくれていてよかった。


「明日工房まで伺うので、残りの取引についてはそこで話をしよう」


 ハロルド様はわたしの手を取り親方に挨拶をして露店を後にする。


 手を繋いだまま貴族院に向かい結婚の書類を提出した。




 三日後、わたしは正式にハロルド様の妻になった。


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