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 笑顔にときめいて「ハロルド様にアクセサリーを贈っていただいたりしたら、離縁したあとの思い出になるかしら」なんて思ってしまったことを、とても後悔した。


 高級店が立ち並んでいる王都の目抜き通りは、道ゆく人はみんな綺麗な服を着ていて、おしゃれで、わたしが普段着ているような服装の人なんて誰も歩いていないもの。

 そもそも馬車で直接店の前に乗り付けるから普通に歩いている人なんていないわ。


 そんな、名だたる貴族の紋章が輝く立派な馬車が往来する中でも、デスティモナ伯爵家の馬車は一際豪華で目立っている。

 身分不相応なわたしは広い車内にいるのに肩身が狭い。


「あの……」

「この店でいいかな? 王都で一番有名な店だ。それともどこか他におすすめの店はあるかい?」


 馬車が止まりハロルド様がわたしに尋ねる。


 そんなこと聞かれても宝飾店なんて一度も行ったことがない。


「こんな立派な宝飾店、わたしの身に余ります! 市場の露店で十分です!」

「ファサン子爵領は彫金細工の工房が有名だからね。目が肥えているミザリー嬢をお連れするなら露天というわけにはいかない。有名店でないと」

「彫金工房が有名だったのは何年も前です」

「でも幼い頃から職人の元で良質なものを見て育っただろう?」


 そうだけれど……


 一瞬わたしが黙ってしまったのを肯定と受け取ったのか、ハロルド様は馬車から降りる。


「さぁお嬢様。お手をどうぞ」


 有無を言わせない笑顔で差し伸べられた手を、わたしは取らざるをえなかった。




 ハロルド様が王都一の有名店と評していた宝飾店は、陳列窓にアクセサリーが並んでる。


 大ぶりの宝石に贅沢に使った金。


 確かに素材は一級品で高価なものだけど、細工はお世辞にも美しいとはいえなかった。

 ガラスの向こうに置かれた宝石も金も主張し合う高級なアクセサリーは、持っていること自体がステータスになる。

 それはそれでアクセサリーの役割として正しい。この宝飾店は貴族や富豪たちが自分の力を誇示するためのアクセサリーを売る店だ。


 幼い頃に見ていた工房の職人達の作るアクセサリーとは違う。


 果実や花芯に見立てた小さな宝石達にそれを引き立てるように繊細に細工した金や銀の草の蔓や花。職人達がアクセサリーにすることで小さな宝石にも価値を生み出す。見るだけで物語が広がるような夢のように繊細なアクセサリーだった。


「やっぱり、いただけません」


 わたしはハロルド様を見上げる。


「遠慮はいらないよ」

「ファサン子爵家の娘としての、ちっぽけな矜持です」

「どういうことだい?」

「子供の頃身につけるのを夢見ていた、うちが抱えていた職人が作るようなアクセサリーはここでは手に入りませんもの」


 わたしは誇りを持って答える。

 ハロルド様はわたしの答えに少し思案した様子だった。


「では、デートをしないか? 一緒に城下町を歩いて貴族院に婚姻の書類を提出に行こう」


 貴族院はここから城下町を通り過ぎて、王宮に隣接した建物内にあると説明を受ける。

 貴族の結婚は貴族院の承諾をもって認められる。返事まで数日かかるのでこのまま提出に行こうという話だった。


「それともミザリー嬢はデートはしたことがある?」

「いいえ! そんな! デートなんて! はっ初めてです!」

「よかった。じゃあ、君にアクセサリーを贈れなかった哀れな男を憐れんで、初めてのデート相手にしてもらえるかな?」


 コクリと頷いたわたしの腰を抱き、ハロルド様は歩き始めた。

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