俺は借金がある
病院にて色々話されたことを語らなければならない。
まず、俺は今から十年前にトラックに跳ねられてしまったらしい。そのあと病院に運ばれ一度も目が覚めず眠っていたとのこと。当時俺は15歳であり現在25歳となっており、季節にして5月を迎えていた。
起きたあとしばらくして、病院側が親父に連絡してくれた。俺は電話越しにて久しぶりに親父と話すことになった。親父は俺が目を覚ましたことに最初喜んでくれたが、どうやら、現在海外にいるということらしく、俺を家に連れ帰えることは無理だと申し訳ないと言った。
いわく、
『俺の息子ならなんとかするさ!』
父親がヘラヘラとそう言っていた。頭のネジが外れている俺の親父なら言いそうな言葉だった。そこについては昔からそうだったので、そうだったこういう人だったという気分になった。そして、とんでもないことを平然と、まるで日常会話として言ってくるのも俺の親父らしさだった。
『あ、そうそう。入院代金だがな、俺も払えなかったから知人に借りていたんだ。代わりに払ってくれ!家も売り払っちまった』
俺が何のことだよ、と聞き出す前に、
『お金よろしくな!』
と言い残し電話を切りやがった。病院にも聞いたが、そのお金事情については本当らしかった。病院側からは回答として書類をだされた。その書類とは金を借りているという証明の書類である。親父から俺が目を覚ました時に渡してほしい、ということを言われていたらしい。
言葉がでなかった俺は震える手で書類にサインをした。昔から、親父は金がなかったのだが今もないらしい。
金額にして、およそ。四千万円。
俺は涙で紙がくしゃくしゃになりそうだった。
その後、諸々の検査をしてもらい異常がないことを確認してもらい俺は退院していた。こうして、借金生活から俺の異世界帰りが始まったのだが、身内が引き受けてくれなかったので帰る場所がなかった。実家の家もないということなので、この先のことを考える必要があり、俺は病院の近くの公園に座っていた。
「あー、どうするかなー」
俺はため息をつきながら、どうしようか悩んでいた。
借金はすぐに払える額ではないことだけはわかる。とはいえ、返す当てのない俺にとってとれる手段などないに等しかった。親父に文句の1つでも言いたいが、入院していたのは俺なので、なんとも言えない気持ちになった。
「これだったら異世界にいた方がよかったか……」
と、思ったが俺は首を横に降っていた。拒絶反応に近いスピードであった。
召喚された俺はそれはもう戦いに明け暮れた日々だった。
魔物にぼこされる日々、戦い続ける日々、罵倒という言葉の暴力。
思い出しただけで涙がでてくる。
「ああぁぁもう、どこの世界もくそったれだよ、まったく!」
俺は文句をいっていた。
とはいえ、異世界での理不尽さを経験していた俺はメンタルだけは鍛えられていた。異世界では、宿のないまま野宿したり、とんでもなダンジョンを攻略したり、様々なことを経験してきた俺はこんなことでへこたれるものではなかった。
しかし、帰ってきて早々に俺はストレスが溜まっていた。胃の中に気持ち悪い感覚があるあれだ。異世界でのストレス発散方法は色々あるのだが、今回はこれにしようと思い、よし、と回りに人がいないことを確認し、俺はその場所にて垂直方向に全力でジャンプした。
飛距離にして20メートル。その勢いは下に落ちることなくプカプカと空中で浮かんでいた。
「やっぱ、空は気持ちいい!!」
俺は近所迷惑なぐらいの声で叫んでいた。
俺の異世界での能力はどうやらこの世界でも生きていた。病院で軽く確かめてみた範囲だが、俺は異世界と同じ要領で自身の力が使えていたのを確認していた。
「町を空から眺めるとか……俺かっこよくね?」
少し感動だった。小さい頃この世界で空飛んでみたいなー、と思っていたのが叶っていたからだ。異世界とは違うこの空が懐かしくも感じていた。
それからしばらくテンションがあがった俺はビュンビュンと空を駆け回り、空に向かってかめはめ○を打つことでストレスを発散していた。
なんやかんや、空で楽しんでいたときしばらくして俺は軽い目眩がした。
「あれ?」
そう思ったすぐ、ふらふらとその場所から地上に向けて俺は落ちていた。その衝撃なのか、俺は程なくして意識をなくしていた。