プロローグ:俺のいつもの日常
はじめての作品です。
投稿頻度はがんばります、とだけ。
俺がバイトしている居酒屋の《翼酔》はそこそこの人が入っていた。
時刻は20:00をまわっていた。いつも来てくれている常連さんからあまり見ない人まで色々な世代の人たちがいた。店の広さは座敷とカウンターそれぞれあり、20人近く人が入れば店の中はいっぱいになるぐらいの広さである。
俺はその中を世話しなく動いていた。こっち注文いいですかー、と注文が入れば俺が受け、それを親父さんに伝え料理を運びを繰り返している。
こんな風に働き始めたのは少し前の話しであるが、俺も慣れてきたものでてきぱきと動くことがで来ていた。
そしてまた、こっちに来なさい!とオーダーが入ったので座敷の席に座っている3人の女性の場所に向かった。
「なににしましょう!」
俺がオーダの用紙を出しながら言う。
「私が来なさいと言ったら、1秒で来るのが下僕の勤めでしょうが。まずは、謝罪をしなさい」
「ポテト」
「これを頼むわ!」
「ポテト、唐揚げですね!」
「無視しているのかしら、下僕」
「ご注文は以上でしょうか!」
「まだよ。あんたってホント人の言うこと最後まで聞かないよね。これだから、庶民は」
「あと、私ビール追加」
「注文、復唱しますね!ポテト、唐揚げ、ビールですね!ありがとうございます!」
「待ちなさい」
もうめんどくさいので、俺が注文をとり終えて立ち去ろうとしたときのことだった。
さーっと、冷たい何かが俺の回りを流れるかのように首がぞわっとした。
「私が言っていることが聞けないのかしら」
「聞いているが」
「だったら、まずは下僕と呼んだらワンと鳴きなさい」
「鳴くわけないだろ」
「なさけないわね、なんでそれで私の下僕やってんのよ」
「やってねぇよ!」
はぁ、と俺は大きなため息をついていた。この女は俺が前にいた世界である異世界のお姫様ことフランである。王女継承権のあるお姫さまの中では一番の長女であり、一番偉そうなやつだ。性格は難ありだが、見た目の長い髪の毛はブレルことのない真っ直ぐで艶があり、それでいて目元はキリッとした形の威厳がありそうな容姿である。それは、まるで見た目が性格を裏付けているかのような、印象さえある。
とはいえ残念なことに服装は赤色のジャージ姿である。
「で、注文は?」
「ビール」
「はいよ」
一通り満足すると素直になるのは、こいつの数少ないいところだと言ってもいいだろう。
「ちょっと待ちなさいよ!」
今度はなんだと、俺は声がしたほうをみる。
「まだ何かあるのか!」
「庶民が大きな声ださないで!耳が犯されるでしょ!!」
バンバン机を叩きながら、わんさか吠える。
「だったら居酒屋くるな。アホか」
「ここはいいの。あんたの声がうるさいの」
「理不尽だろ!」
「はいはい、わかったから。静かにして!」
と俺は聞き返す。この女はフランの妹であり王女継承権の持つアメリアである。その性格は言葉通りアホ丸出しであり、どこでも突っかかろうとする。大抵のやつには言葉がキツかったりするのだが、それは異世界でも同じことだった。一方で、見た目だけはこいつも悪くなく、長い金髪をストレートに伸ばし、厳しい表情でいつもムスッとしている印象を持ちながらも、どことなく愛嬌のある印象を持ち合わせる。まぁ、服装は黄色のジャージであり、そこは残念なところ。
注文表をバンバンと叩きながら、アメリアは言う。
「ビールを注文よ!」
「はいよ」
と、俺はオーダ表に追加で書いていく。
俺はこれで、一通り注文を取り終えたと思いながらも、何も発言しないでいる彼女を見て言った。
「やっぱり1番お前が普通かもな。エレナ」
ん?と彼女は俺の方を見る。
「なんのこと」
「俺を見下さないし吠えないから。それに、普通に話せる」
「ふーん」
とそう言って、
「じゃあ、私とせ◯くすしよ」
「は?」
「私のこと好きなんでしょ」
「なんでそうなるんだよ」
「だって、せ◯くすすれば既成事実。女王は私」
「前言撤回。お前が一番常識なかったわ」
こいつは時折俺の頭が痛くなりそうな発言をする時があるが三人の中ではまともな部類だと思っていた。彼女は、フラン、アメリアの妹であるエレナだ。突拍子もないことを急に言い出したりするのは毎度のことがあるが、今のは酷い部類である。見た目は、他の二人と同じように容姿だけは上品に整っており、長い銀髪の髪の毛がどことなく人を近づけさせないオーラがある。彼女もジャージ姿であり、白い色をしていた。
こいつらと話すとこっちが疲れるので、俺はその場を離れオーダの注文を親父さんに伝えた。その間、ビールサーバからビールをいれて、三つのグラスを彼女たちがいる場所に運んでいく。
「お待たせしました」
「私を待たせるなんて、良い度胸だわ」
フランがそう言った。俺はそれを無視しながら、ビールを机に置こうとした時、ふとこのビールはどこの懐事情から出るのだろうか、と。俺はこいつらの懐事情を知っており、それは涙が出るようなものなので、この店の一杯の値段は四百三十円と頑張っている値段でもキツイことを知っていた。
「おい」
「なによ。早くビールを渡しなさいよ!」
「独り占めはよくない」
アメリアとエレナがムスッとした顔で俺を見る。
「独り占めしねぇよ」
それそう言ってから、
「お前らこれは誰の金で飲み食いするつもりだ」
ビクッと肩を震わせるアメリアとエレナ。
その反応を見てどうなんだとアメリアを最初に見た。
「……あー、そうだ!私のバイト先で臨時収入が出たの!それで、私が奢るの!」
「アホか。そうだ、とか言って今思いついたように言うやつがいるか」
「……うー、庶民のくせにアホとか言うな」
と反論してくるが、ボソボソと声は小さかった。
で、と視線をエレナに向けた。
「私はフラン姉さんが払うって聞いた」
「奢りということか」
「そう、私は知らない。悪くない」
「あー、エレナずるい!一人言い逃れしてずるい!」
「ずるくない。アメリア姉さんがアホなだけ」
「また、私をアホ呼んで!」
ぐぬぬ、と歯をギシギシさせるアメリア。
「おい、誰が喧嘩しろって言った」
そう言うとアメリアとエレナは全然違う方を向きながら、吹くことができない口笛を吹く。
エレナが言うにはフランの奢りということらしいので、俺はどうなんだと、言うばかりにフランを見る。
彼女だけは態度に表れず言った。
「飼い犬に手を噛まれるとはこのことね」
「誰が飼い犬か!」
「まぁいいわ。私の奢りなのは本当よ」
「なんだよ、お前仕事もらえたのかよ」
それが本当なら俺も嬉しいところだ。
淡い期待を抱いたところだが、瞬時にそれを否定した。
「ふん。まだまだこれからよ」
とだけ言って、懐からあるものを出して掲げていた。
それは何度も見たことがあるものだった。
「俺のクレジットカードじゃねぇか!」
「そう。魔法のカードよ!」
「ふざけるな!いつ、どこでとったんだよ!犯罪だろ!」
「あなたが寝ているすき。あっちではこんなに簡単じゃないだろうけどね。この世界だと簡単だわ」
「さすが、フランねぇさま!」
「これぐらいやってもらわないと」
自慢げに言うフランに、アメリヤとエレナが拍手をしながら言う。
「早く返せ!警察に連行するぞ!」
「いやよ!せっかく手に入れたというのに、どうして私が貧乏な思いをしなきゃならないの!」
「お前らが使えば使うほど、俺が貧乏に……ってまて。お前らこれを既に使ったというわけじゃないだろうな」
フランでさえぎこちなく横目になっていく。
俺がじっと見つめていると、
「そんな風に見つめると妊娠するわ!見ないで!」
「するか!さては、使ったんだろ!そうなんだろ!」
「ちょっとだけよ、ちょっと!欲しいアクセサリーがあったから買っただけだわ!」
「そうよ!私も欲しいバッグがあったから、買っただけよ!仕事で使うんだからいいでしょ!」
「私は、芸術を買った。だから問題ない」
「ドサクサに紛れて悪くないアピールしてんはねぇよ!」
それそれがプースカプースカ言う中、俺はドン!とビールをテーブルに置いて、こいつらを黙らせる。
「いいか、俺はお前らに言ったよな。『俺の借金を帳消しにしてくれたやつを次期女王に推薦してやる』と。これだと俺の借金が増えるばかりだろうが!」
「そんなこと言われたって、これらは未来の投資よ」
「フランねぇさまの言う通りよ!!」
「うん、うん」
三人は自分勝手にそう言いつつ、俺が置いたビールを無理やり取っていく。ビールを勢いに任せるかのようにぐいっと、口の中にいれていく。ゴクゴクという音が店の中に響き渡るかのように、鳴った。そして十数秒ぐらいで三人はビールを飲み干していた。
「かぁー!」
三人がそれぞれ飲んだ後の声をだしていた。大した量を飲んでないのにも関わらず、既に顔が三人赤くなっていた。こいつら酒に逃げやがって!と、思いながらも声に出して怒る気力をなくしていた。それよりも心が涙になっていた。
「……お前ら嫌い」
怒るよりもその言葉が出ていた。俺を放っておいて楽しく会話し始めた三人は本当に自由気ままなやつらだった。性格は横暴だし、金使いは荒いし、言うことは聞かないし、わがままが板についたように育ったお姫さまたちだった。
そんな俺たちの日常は続いていく……