神速のお父さん
しばらく談笑した後、張り詰めていた緊張が解けたのか、リリーはいつの間にか眠りについていた。
パチパチと音を立てて燃える焚き火を眺めながら、カロンは自分の摩訶不思議な身体について考える。
「頭は…無い。けど、見えるし聞こえる、嗅覚も…ある。」
一番驚いたのは、穴のない鍋を被っているのに周りの景色が普通に見えている事だ、意味が分からない。
転生前の世界での首無し騎士は、死を告げる悪い妖精として物語などに登場していた。ファンタジー系のゲームでは死霊系モンスターとして描写されており、水に姿が映るのを嫌う伝説の引用からか、ゲーム上では弱点が水である場合が多かった。
だが、俺は容姿こそ首無し騎士だが、誰かの死期が分かったりしないし、水も別に怖くない…むしろ飲みたい、腹も減ってる。
「しかし、この頭でどうやって?…試してみるか。」
少女がぐっすり寝ているのを確認し、持ってきた荷物袋から水袋を取り出す。
頭の鍋を脱ごうとした瞬間、暗闇の中から何かが飛来し、頭上を掠める。
すぐ後方の木に刺さったそれは一本の槍だった。慌てて槍の飛んできた方向に目を凝らす。
夜の暗闇から現れたのは松明を持った中年の男だった。農夫のような恰好をしているが、その体つきは歴戦の戦士を彷彿とさせ、殺意のこもった目でこちらを睨んでいる。
まずいな野盗か?そばにリリーがいるってのに。
俺は中年の男に話しかけながら、巻き込まれないように少女から距離をとる。
「いきなり槍を投げつけるなんて随分な挨拶だな?」
中年男は俺を睨んだまま、ゆっくりと腰に下げていた剣を抜き、それを低く構える。
「下衆が…よくも娘を…」
「えっ?むす―」
俺が喋り終わるより早く、目の前の男が視界から消えた。
次の瞬間、腹部に強烈な衝撃を感じ、同時に体が大きく後退する。視線を上げると、先程まで自分がいたはずの場所にあの男が立っている。
なんだ!?何が起こった?俺は…斬られたのか?鈍痛はするが怪我はしてない、…それに娘って。
「おい!あんたその子の父親か?」
「黙れ、次は首を狙う。」
「ちょっと待ってく―」
言い終わるより先に眼前に刃が迫り、慌てて腰の剣で防ごうとするが、間に合うはずもなかった。
カーンッという甲高い音と共に、大きくへこんだ鍋が空中に舞い上がる。
振り抜かれた剣が青白い光を反射する中、男は少し驚いた様子で口を開いた。
「首無し族…。お前亜人だったのか。」
「え?ヘッド…何?」
困惑する俺をよそに、男はとどめを刺すべく再び剣を構える。
「お父さん!もうやめて!!」
少女の大声が夜の森に響き渡りる。どうやら父親で間違いないらしい。
目の前の父親は、俺から視線を逸らさず、背後にいる娘に問いかける。
「お前をそんなにした奴に慈悲を掛けろと言いうのか?」
「彼は命の恩人なの!お願いだから落ち着いてよ!」
その言葉を聞いたリリーの父親は剣を収め、ばつが悪そうな顔で謝罪の言葉を述べてきた。
「その…悪かった。怪我…してないか?」
「あぁ、大丈夫だ。結構効い…た…」
冗談のつもりで言ったが、本当に効いたようで、俺の体はその場に倒れこんだ。
遠のいていく意識の中、父親を罵倒するリリーの声が聞こえた。
どうも赤原いもりです。
最近アマプラで実写版キングダムを見ました。
割と邦画より洋画を見ることの多い私ですが、キングダムめっちゃ面白かったです。
ですが小説を書きだしたせいか、作品を見ているとついつい、この風景は文章だったらどう表すだろう?とか、このキャラの心情を文章にしたら…、とか色々考えてしまうようになってしまいました。
以上余談でした。




