怒涛の一日
夜の森の中、焚き火の明かりに照らしだされたカロンは、今日の出来事を振り返っていた。
思えば大変な一日だった。死神とその後輩の神、転生、首の無くなった自分の体、怪しげなカルト集団、殺されそうだった少女…、今日はもうお腹いっぱいだ。しばらくはゆっくり過ごしたいなぁ。
のっけから急展開だった異世界生活の始まりに疲れを覚えながら、焚き火の向こうに横たわる、濃紫色の外套にくるまれた少女に目を向ける。痛々しかった顔の傷には包帯が巻かれ、落ち着いた様子で眠っている。
「傷…残るだろうな。」
憐れみの言葉を呟きながら、カロンはここに至るまでの事を思い返す。
あの遺跡はカルト信者たちの根城だったようで、食料や衣類、寝具などの生活に必要なものがある程度揃えられていた。そこで俺は、少女の傷の手当てに使えそうなものを探しながら、水や食料といった物資も失敬しつつ、遺跡から少し離れたこの森の中で野宿をすることにした。
「しかし、自分の姿を鏡で見た時は驚いたなあ。頭無いのは分かってたけど、まさか…。」
そう言うとカロンは、自分の首から上で揺らめく青白い炎にそっと触れ、鏡で見た自分の姿を思い出した。
厳つい鎧に恨めしそうに灯る蒼炎、おまけに首無し…、完全に悪役の見た目だ。
あの軽ノリ四本腕の神め、今度会ったら絶対文句言ってやる。
「んッ…」
不意に少女が声を発した。どうやら目を覚ましたようだ。
待てよ?寝起きにこんな、いかにも人間じゃない奴が目の前に居たらどうなる?本当は命の恩人である俺を得体の知れない化け物だと思い、恐怖に怯えたながら、罵詈雑言を飛ばして来るだろう。…それは嫌だ。
咄嗟に俺は遺跡から持ってきた物で顔を隠そうと思い、近くに置いてあった袋を漁る。
そしてあるものを被った。
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少女が目覚めてから少し経った。
最初は俺の鍋頭姿に動揺していた様子の少女だったが、特に触れられることもなく、助けたことを感謝してくれた。
彼女の名はリリー・エルモス、この森を抜けた先にある農場で父親と二人で暮らしているそうだ。事情を聞けば、彼女は父親と喧嘩し、一人で森にいたところをあの信者たちに襲われ、気が付くと遺跡の地下で縛られていたそうだ。
俺が「もう攫われる心配はないよ」と伝えると、リリーは目尻に涙を浮かべながら、優しく「ありがとう」と言ってくれた。




