鍋頭の旅人
怒りの感情に飲まれた瞬間、視界が赤い炎で埋め尽くされ、意識が飛んだ。
遠くの方で誰かの叫び声が聞こえる。たくさんの人間が叫んでいる。
痛い、熱い、消えない、…死にたくない。色んな声が聞こえ、次第に静かになった。
ゆっくりと戻ってきた意識と一緒に、何かの焼け焦げた臭いが漂っているのを感じる。
完全に意識の戻った俺の目に飛び込んできたのは、黒く炭化し、そこかしこに転がった元信者達だった。
今もなお燻る死体達は、プスプスと音を立てながら白煙を上げている。
「俺…しかいないよなぁ。」
完全に我を忘れてやり過ぎたようだ。いくら悪人とはいえ、物事には限度ってものがある。彼らには悪い事をした。せめて安らかに、死を司るファル様の元に召されてくれ。
そんなことを考えながら両手を合わせ、信者たちが四本腕の神の元へ旅立てるよう祈った。
「それにしても…」
周囲に散らばった死体に目を向ける。真っ黒な、ほとんど骨だけになった死体は、皆一様に大きく口を開け、絶叫しながら息絶えている。
「首無し騎士の力怖えぇぇ…、これはしばらく封印だな、危険すぎる。」
人間でなくなった自分の能力に恐怖を覚えつつ、首無し騎士カロンは助けた少女を抱きかかえ祭儀場を後にする。
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「―お父さんの馬鹿!もう知らない!」
そうだ私、お父さんと口喧嘩して、家を飛び出したんだ。
少女はまどろみの中で、自分に起こった事を少しづつ思い出していく。
少し一人になりたくて森に入って…そしたら怖い人達が現れて、どこかへ連れて行かれそうになった私は、逃げようと抵抗したら顔を斬られた。
捕まった私は目隠しをされて、気が付くと大きな丸い部屋の真ん中で、床に縛り付けられていた。助けを呼ぼうと大声を出したら顔を殴られて、確か…誰かが助けに、あれは―
「ッ!!」
夢から覚めた私が最初に目にしたのは、薄明りに照らされた夜の木々だった。
身体には濃紫色の布が掛けられ、顔の傷には包帯のような物が巻かれている。どうやら誰かに助けてもらったようだ。
「良かった、目が覚めたみたいだね。傷の具合はどう?」
声のした方へ目を向けると、焚き火の向こう側に鎧を着た人物が座っていた。
焚き火に照らし出された騎士風の男は、美しい黒の鎧を身に纏い、なぜか頭に料理用の鍋を被っていた。
「あのっ、あなたは?」
「えっ!えーっと…俺の名前はカロン。通りすがりの旅人?みたいな感じの人かな。」
なぜか小恥ずかしそうに自分の名前を答えたカロンという旅人、多分この人があの恐ろしい場所から、私を助けてくれたのだろう。
「カロンさんですか、私はリリー・エルモスと言います。助けてくれて、ありがとうございます!」
これが私とカロンとの最初の出会いだった。




