仄暗い祭儀場にて
「ったく。ファル様、そういう大事な事をギリギリで言うか普通?」
自分の転生によって生じたであろう土埃越しに、周囲の様子を窺っていると、そこには20人ほどの黒いローブに身を包んだ集団がおり、いかにもヤバそうな儀式の真っ最中だった。
俺は意を決し、挨拶をしてみることにする。
「あ、あのー、儀式の最中にすみま―」
「首無し騎士…。」
集団の一人がボソリと呟いた。
俺は辺りを見回し、その言葉が自分に向けられたものだと気づく。
「え……、俺?」
俺は急いで自分の体を確認する。
外套付きの全身鎧に身を包み、腰には長剣と鞭、背中には身の丈ほどの長槍を背負っている。そして…頭が無くなっていた。
「えっ?…ない、…えぇ!」
かつて自分の顔があったはずの場所を両手で必死にまさぐるが、わずかに温かいだけで、そこには何も存在しなしなかった。
自分の頭が無い事に慌てふためいていると、少し離れた場所から小太りの男が大きな声で叫んだ。
「見よ、兄弟たちよ!ついに我らの願いを主神様が聞き届けて下さったぞ!彼者こそ死を司る神の使者に違いない!」
周囲の信者たちから、感嘆の声が漏れる。
は?突然何言ってんだこのおっさん、こっちはそれどころじゃな…
大声で叫ぶ小太り男に視線を向けた時、その足元に両手両足を縛られ拘束された、少女が目に入ってきた。
十代前半くらいだろうか、夜空のような黒髪に、あどけなさを残す顔立ち、小さな布切れを掛けられた体には、奇妙な模様が所狭しと描かれていた。息をしている、どうやら気を失っているようだ。
これが死の神の信者達。…ウン!どこをどう見ても危ないカルト集団にしか見えないよファル様!
心の中で、軽いノリな四本腕の死を司る神を想像しながら文句を言っていると、おもむろに小太り男がナイフを片手に、少女へと近づき始めた。その顔は病的な笑顔に歪み、嫌悪感から吐き気すら覚えそうだ。
「おぉ!死を司る神シュニーファル様よ!我ら兄弟たちの望みを叶えて下さり感謝します。この贄は我らからの感謝の気持ち、どうかお受け取り下さい!」
小太り男は大仰な態度で感謝の言葉を口にすると、手に持っていたナイフを大きく振りかぶり、
…待て待て待て。あいつ何を―
雄叫びと共に勢いよく振り下ろす。
気が付くと俺は全力で少女の方へ走っていた。全身鎧を着ているにも関わらず、常人を遥かに凌駕する速さで。
たどり着くまでの一秒にも満たない時間が、酷く長く感じた。頭の中では焦りや危機感が、サイレンのように鳴り響いている。
ナイフの切っ先が少女の胸に振り下ろされる寸前、狂気の笑みが浮かぶ右頬に強烈な右アッパーを喰らわせる。
鎧越しに顎の骨が砕けるのを感じ、直後、小太り男は明後日の方向へ吹き飛んでいった。そしてその勢いのまま遺跡の壁にめり込む。
「うぉっ!すげー飛んだな。…ま、まぁ人命救助のための正当防衛って事で。」
誰に対しての言い訳か分からない言葉を呟き、カロンは助けた少女の安否を確認する。
どうやら最悪の事態は免れたようだ。
しかし少女の顔を見た瞬間、先程の危機感とは別の、煮えたぎるような憤怒が腹の底から湧いてきた。
殴られたのだろう、右目が紫色に腫れ上がり、左の頬には刃物による大きな切り傷があった。
首の上に灯った青白い炎が、沸き上がる感情に呼応し、大きく揺らめく。
「おい、これをやったのは、…お前たちか?」
何が起こったか分からず、壁にめり込んだ男を見つめていた信者たちだったが、そのうちの一人がハッとした様子で返答する。
「は、はいっ!我らから主神様への貢ぎ物です!」
ふざけてるのか?そう思いつつも、怒りのこもった静かな口調で、再び信者たちに問いかけた。
「こんな年端もいかない少女を痛めつけて、挙句殺そうとした上で、その答えが貢ぎ物だからだと?」
問いの意味がよく分からないといった様子を見せる信者たちに、俺の中の怒りは、頂点に達した。
「狂ってるな…、失せろ!!!」
俺の怒りの言葉と同時に、頭の青白いかった炎が真っ赤に燃え上がった。
そしてほぼ同時に、信者達全員の首から上も深紅の炎に包まれた。
この話で首無し騎士カロンの雰囲気が急変しますが、
それは追々出てくる彼の過去に起因しています。
彼の親父については、ちょこっとだけ前の話で出しましたが、文字通りの酒浸りクソ野郎です。
そんな親父の元でしばらく成長した彼は、暴力的な内面を秘めていますが、滅多に表に出すことはありません。でも、普段怒らない人ほど怒ったら怖いって言いますよね?えっ?ギャップでそう感じるだけ?
まあ、何が言いたいかと言いますと、普段は温厚な彼と、激情のままに力を振るう彼のギャップを楽しんでいただければと思います。以上余談でした。




