セミのなきがら
こわい
こわいよ
月は静かすぎるし
網戸を破って
セミが中へ入って来そうだよ
早く戻って来てよ
あたしを助けに来てよ
早く
雨が降り続く日々もようやく途切れ、晴れてみるともう夏は終わりかけている。
車のエアコンも温度を一番下げると寒く感じる日が多くなり、達彦も仕事がはかどるのだろう、帰りの遅くなる日が多くなった。
今夜も1人でお酒を飲みながら、つまらないDVDで時間を潰して彼を待つのだろうか。
私は借りている駐車場から家まで歩きながら、それでもまだ夏だ。額から汗が垂れて、目に染みてからアスファルトに落ちた。
セミの死骸をあやうく踏みそうになった。パンプスのかかとで踏んでしまったら突き刺さって家までついて来てしまう。
不思議だといつも思う。あれほどうるさく鳴いていたセミが、死んでしまえば中身は空っぽだ。
耳元をかすめて飛ばれて背筋に無数の虫が這ったこともある。暴力的なまでに力強いあの飛び方が嫌いだ。
セミの死骸は胴から真っ二つになっていた。中にはどう見ても何もない。生きている時のあの重さはどこに消えるのか。
鶏ハムを作ろうと思ってスーパーで材料を買って来た。上手に出来たら達彦に見せて、一緒に笑いたいと思って。
きっとただ鶏肉を焼くだけのものに変更になるだろう。焼酎のつまみとして私の胃袋にすべて入るのだろう。
可愛がっていた猫のハルは先月死んだ。一緒に泣いてくれたあのひとは今月になってから帰りが毎日遅い。
あんなにいろんなものが詰まっていた私達の部屋は今、空っぽだ。