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第96話 思いもよらぬカウンター

 俺は遂に決勝の舞台に上がることとなる。

 俺が舞台に上がった時、会場からは大歓声が巻き起こる。これまでの戦いは一方的だっただけに、登場時には大して歓声は上がっていなかったが、どうやら決勝の会場のボルテージは今までのそれとは一線を画すらしい。


 会場に出た俺の目に一つの衝撃が走る。なんと闘技場の壁に大きなそれでいてとても目立つ傷がついていた。

 準決勝は不戦勝だった為、俺が出たのは2回戦の試合が最後だったが、その時は明らかに付いていなかった傷である。


 故に闘技場の壁の傷はやけに印象的だった。

 なんせ、人の顔がめり込んだのではつかないような、明らかな縦長の顔面の跡が残っていたのだから。


 そんな俺の視界の端に反対側にある控え室から出てくる小さな深紅のワンピースを着た少女が映る。

 その瞬間、会場全体は俺の登場した瞬間を超える怒号とも取れる大音声が会場全体に木霊(こだま)する。


「チサ凄い歓声だな。」


「うむ。先程のベガは予想以上に凄い技を出してきたからのう。それを迎撃した妾に期待が高まっておるのじゃろうな。」


「ふと思ったんだが、テイムモンスターとその主人が戦うってなんか変じゃないか? なんだか当たり前の様に進んでるけど。」


「そういえばそうじゃな。でも、妾がモンスターだと言って信じる者はおるまいて。それに妾はジンと本気で戦ってみたいと思っておったのじゃ。今日は丁度良い機会であろう?」


「そうだな。今日この場で決着をつけるのもいいだろう。」


「ふふっ。ジン、覚悟するのじゃぞ? 手加減はせぬからな。」


 チサは楽しげに笑いながらも俺から距離を取る。

 俺もまた距離を取った。


 そうして俺たちが向き直った時、恐ろしい程ほどの盛り上がりを見せていた会場は一瞬にして静寂に包まれる。

 まるで会場全体が一つの生き物であるかの様だった。

 この戦いを一瞬たりとも見逃すまいと、この緊張感を存分に味わおうと、そんな意思が伝わってくる。


「黒影切」


「水竜天女の法衣」


 俺とチサの声が静寂に包まれた会場に溶け込んでゆく。チサはじっと待っていた。俺たちは開始早々膠着状態に陥る。

 俺はこのままでは(らち)があかないとは思いながらもどうしてチサが向かって来ないのかが不思議だった。


(チサは何を考えているんだ? 何か狙っているのか?)


 俺はそう思いながらも仕掛けることにする。


「来ないならこっちから行くぞ!」


「黒・ジン」


 俺は、チサへと漆黒の斬撃を放つ。ここ1ヶ月の間にわかってきたことなのだが、


 追・ジンは敵を俺が認識している間は永遠に追い続ける斬撃。追尾する時間が長ければ長いほど威力が落ちる。


 黒・ジンは、実体がある物を斬る為の斬撃。実体の無いものは切れない。


 影・ジンは、敵の影を斬る防御無視の一撃。ただし魔力消費が大きい。


 そう。俺は、この大会に向けて、監視をしながら持て余した時間で自分の技の理解に充てていたのだ。


 そんなわけでまず様子見にチサへと放ったのは黒・ジンだった。俺が成長したということは、チサだってそうである可能性は高い。

 チサに俺が構ってやれていなかったここ1ヶ月で何を出来る様になったかをまずは知らなければならないのだから。


「ふっ。ジン! その一撃で後悔するが良いのじゃ!」


「水波・受水竜」


 そう言った瞬間俺の放った黒・ジンはチサの目の前で、まるで海の中に沈む様に、吸い込まれてしまった。


「なっ......! チサ。何をしたんだ!!?」


 俺は衝撃を受ける以上にチサが無傷で俺の攻撃を無効化したのが不思議で仕方がなかった。


「ふっ。ジンよ。今は妾は敵なのじゃぞ。それを解き明かすのも戦いの醍醐味じゃろうて。分からぬのなら分かるまで撃てば良かろう。」


 チサの言葉に俺は何か罠に嵌っている気はしたが俺はまずチサの技を解き明かさねばならない。たしかに俺は不死身があるから負ける事はないのだろうが、アルの件がある以上、無闇に能力を晒すわけにはいかないのだ。


「分かったよチサ。なら、分かるまで撃たせて貰う!! はあああああああ!」


 俺はチサへと向かって時間差や角度をつけて黒・ジンを更に追ジンで、チサに対して全方位から攻撃する。

 観客が俺の猛攻に沸き立つが俺は気にせずに撃ってゆく。


 会場には俺の視界さえも多い隠すほどの砂煙が上がっていたが、俺の手にチサにダメージを与えた手応えはなかった。


「ジン? 何か分かったかの?」


 砂煙が晴れた時、会場全体にどよめきが走る。そこには無傷のチサが頭上に黒色の何かを浮かべて笑っていたのだから。


「おいおい、チサ。それは冗談か。まさか俺の斬撃を全部その空中にあるその中に吸い込んだってのか?」


 俺は冷や汗が垂れる。俺の技が迎撃されるのならまだ分かる。だが、俺の技は全てがチサに受け止められていたのだ。


「正解じゃ。だが、気付くのが遅かったの。妾の反撃を受けるが良いのじゃ。」


「水波・解水樹!!」


「気配遮断!!」


 俺はチサの言葉に反応して気配遮断を使いチサから距離を取るが時すでに遅しだった。

 チサの言葉と同時に闘技場全体を、俺の黒・ジンの数倍の威力の刃が、覆い尽くす。


「実像分身!!」


 俺は咄嗟に実像分身を自分の周囲に配置して黒・ジンを受ける。


「ぐあああああああああああああああ!」


 俺を切り裂くは俺がチサに放った全ての攻撃をチサのカウンターで数倍にまで、威力を上げた黒・ジンだった。更に悪いことに、俺が追・ジンを撃っていたからだろう。闘技場の全方位に向かっていた黒・ジンが、俺にヒットした位置へ踵を返して殺到する。


 自分の技で俺はチサから痛すぎる先制攻撃を貰うことになったのだった。





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