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第91話 親睦と密約と

「ん〜美味しいのじゃ! この白い熊のお菓子は?」


「これは、スノウベアーという、ユキグマをモチーフにしたお菓子さ。本物のユキグマもこのくらい可愛らしかったらいいんだけどねぇ。」


 チサとマキラは余程馬が合ったのだろう。マキラと楽しそうにお茶をしている。俺はその様子を見て勝手に、おばあちゃんと孫がこんな感じなんだろうなあとどこか微笑ましいものを感じていた。


 だが、そんな微笑ましい空気をぶち壊す(かしま)しい爆弾がこの執務室へと投げ込まれる。

 急に執務室の扉が勢いよく開け放たれたのだ。


「マキラ様!! ご無事ですか? この無礼な侵入者め! 面会許可を取ることすらなく勝手に侵入するなんて......!」


「リリエット? どういうつもりだい? あたしが客人とお茶をしている時にノックも無しにあたしの部屋に入って怒鳴り散らすなんて。」


 マキラの普段のダミ声でも十分に周囲に緊張感を与えるものであるにも関わらず、チサとの楽しいひと時を邪魔されたマキラの声は地獄の門を叩くかの様な重みのある声になっていた。


「は......えっ......? 嘘......!」


 リリエットは、きっと俺の気配遮断による違和感を感じ取ったのだろう。何せ、俺たちが割り当てられた宿には俺の分身とベガとエルスしかいないのだから。


 その異変を確認するために、恐らく、この館の者に聞き、そこで早とちりでもしたのだろう。

 勢いのままにここまで来たはいいが、目の前に広がる光景に驚きを隠し切れていなかった。


「リリエット、お前はもう少し冷静になって物事を判断しなと常々言っているだろう? その忠誠心は分かってるんだけどね。」


「申し訳ありません!!」


 リリエットは自身の過ちに気付いたのだろう。だが、やってしまったものは取り返せない。今回は非正規の手段でここへ来た俺たちにも非はあったのかもしれないが。


「リリエット。あたしの大事なお客様の前でやらかしたんだ。お前には明日一日罰を受けて貰うよ。」


「うう......!」


 リリエットは顔に悲壮感漂う表情を浮かべる。

 そんなに罰と言うのは嫌なものなのだろうか?


「乱光」


 マキラがリリエットに向けて、手を向けると、リリエットの頭が発光を始め、その光をお尻が反射してカラフルな光を周囲に振り撒く。


「今から24時間お前の頭の光源の光を受けてお前のお尻は光を反射して常に七色の光を放ち続ける。その恥ずかしい姿で1日過ごして頭を冷やすんだね。」


「うううう......。マキラ様、分かりました。本当に申し訳ありませんでした。」


 俺は頭から眩い光を放ち、カラフルなお尻を揺らしながら、執務室から去っていくリリエットを見送る。

 前言撤回だ。これは恥ずかしい。少なくとも俺は、あんな格好で出歩くなんて絶対に無理だ。


「カッカッカ。リリエットは明日治安部隊の仕事だったね。明日は闘技大会の観客が大量にこのマキラ・フォー・ラーゲルへ集まるから恥ずかしいだろうねぇ。」


「マキラはある意味容赦なさすぎて怖いのじゃ......。」


 チサはその罰にどん引きし、絶句していた。


 俺は想像する。リリエットが、お尻と頭を不自然に光らせながら、様々な問題解決に奔走する姿を。


(なんだか気の毒になってきたな......。)


 俺は内心複雑な思いを抱いていた。

 リリエットには良い印象は持っていなかったが、明日一日でリリエットが受ける恥辱は、想像しただけでご愁傷様ですと言わざるを得ないものだった。


 だが、いつまでもそれを考えていてもどうしようもないので、リリエット乱入を機に先程中断した話の続きを持ち出すことにする。


「さっきの話の続きに戻ってもいいか?」


「そういえば話の途中だったのじゃ。妾、お菓子が美味しすぎて忘れておったのじゃ。」


「チサ......。本題を忘れちゃ駄目だろう。」


「ごめんなのじゃ。」


 俺はそんなチサを笑って許す。

 俺はチサに甘すぎるかもしれないが、それは今更だ。チサならどんなミスをしても俺は許してしまうのだろうと思う。


「確か、お前たちにとって重要なことだったね。」


 マキラは先程までのチサとお菓子について話していた優しい雰囲気ともリリエットを叱責した時の怒りの雰囲気とも違う真剣な表情を浮かべて言う。


「いやまずは、二つの条件からだ。一つ目は何があろうとも俺とチサの関わる戦いには誰も乱入させないこと。二つ目はこれから話す俺の力について他言しないこと。この二つを守ることを誓ってくれるか?」


「なるほどねぇ。確認だが、その戦いで起こる余波で、都市に被害が出そうなら止めるが構わないかい?」


「ああ、止められるような状況であればな。」


「他に確認しておくことは?」


「ないね。二つの条件を守ることを領主マキラ・マーマレードの名に誓おう。」


「なら、話させて貰うよ。俺たちにとって重要なことについて。」


 俺は一息ついて、分身を作り出す。


「実像分身」


 執務室に、俺の分身が大量に出現してゆく。


「おお! これは凄いねぇ。ジンが数十人にもなったよ。本物よりは明らかに弱いけどねぇ。」


 俺は瞬時に分身の強さまで見抜くマキラに感心しながらも、笑みを浮かべる。


「気配遮断」


 その瞬間、俺の分身は全てが消え去る。


「分身まで姿を消せるのかい。これは凄いねぇ。索敵や諜報に最高の力じゃないか。」


「ああ。だが、ここで重要な問題が出てくるんだ。俺は、アルが不正をしてからずっとこの分身で悟られぬ様、ほぼ全ての時間監視していた。勿論分身にアルが気付くそぶりは無かった。」


「確かにこの分身で監視されたらあたしだって気付くのは無理だねぇ。ん......ちょっと待ちな。なら、どうしてアルは失踪したんだい? この分身があればそんなことは出来ない筈だろう?」


「そうなんだ。俺は不定期に、魔力回復のために、分身を消して休んでいた。いくら俺でも魔力に限界はあるからな。その隙を突かれたんだ。」


「なるほどねぇ。アルの失踪の状況については聞いているよ。その場に来ていた筈の衣服だけが残され、アルが出て行った痕跡すらない密室状態だったと。」


「ああ、それに加えて俺の分身による監視まで潜り抜けたんだ。」


「それは確かに不味いねぇ。つまり、最悪の場合、あたしでさえ気付けなかったジンの隠密能力を見切ることの出来る第三者がアルの失踪に関わっている可能性があるということかい?」


「話が早くて助かる。寧ろ俺としてはその線が強いと思っている。ただ、アルが失踪しただけなら、どうでも良かったんだがな。」


 マキラはそれについて考え込んだ後、ふと言葉を発する。


「今の話から聞くにジンとチサも同じことが出来るんじゃないかい? お前たちは犯人だったりしないのかい?」


「マキラよ。残念ながら妾達はアルをさらう必要が無いのじゃ。妾達は大陸を渡る旅をしているが故に、この大陸における富や名声自体が不要なものであるからの。」


 チサの言葉にマキラの表情は一層険しいものになる。


「いっそのことあんた達が犯人だったら楽だったんだけどね。これは気休めにしかならないが、闘技大会は全治安部隊を出動させるしかないか。」


 マキラはそう言うとどこからともなく一枚の木板を取り出す。そして文章を書きながらも口を開く。


「他に何かあるかい? 何かあれば出来る限り力になるよ。」


「これで全部だ。チサもいいか?」


「ああ良いのじゃ。お茶、美味かったと伝えて欲しいのじゃ。マキラよ、闘技大会が終わって時間があればまたお茶会をしたいのじゃ。」


「それはあたしも大歓迎だよ。是非また来ておくれ。」


 こうして、俺とマキラとの初対面は色々と騒がしかったものの無事に終わるのだった。








今回お話の構成上、少々増量してお届けしました!

第3章もようやく佳境へと差し掛かってきたかと思います。ここまで書くのに苦労していたしょた丼ですが、ここまでくればダーッッっと残りは書けると思います。

あとはモチベと集中力を分けてくれo(`ω´ )o


というわけで1万字チャレンジ2話目です。あと4300字ちょっとを今日中に頑張って書いて、投稿できる様に頑張ります!


では第92話の執筆へ参ります。


20/12/19


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