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第84話 説得

「ちょっと待っててね。今食器を片付けるから。」


 ミリアは、これから重要な話が始まることを察したのだろう。速やかに、綺麗に完食された食器を片付けてゆく。


 その間にギュジットは口を開く。


「ハァハァ。チサ様は見た目の年齢はうちの息子と殆ど変わらないのに、とても聡いですね。ハァハァ。」


「ああ、俺もチサにはとても助けられている。」


 ギュジットの言葉に俺は一つの可能性が、頭を過ぎる。そして俺は呟く。


「もし、チサがいなければ、俺は今も深海を漂っていたんだろうな。」


「ハァハァ。今、何か言いましたか? ハァハァ。」


「いや。なんでもない。」


 俺はゆっくりと首を振る。


(可能性の話をしてもしょうがないしな。俺は今この時を精一杯過ごすしかないんだ。)


 そして、俺とギュジットの間には沈黙が流れ、ミリアが食器を片付ける音が、これから話すことの重大さを暗示するかの様に反響する。


 十数分後、俺達が食事を取ったテーブルの上にあった食器は綺麗に無くなっていた。

 そして、俺の正面にギュジットと並んでミリアが座る。


 俺はそんな2人を見て、話を始める。


「では、今日俺がここまで来ることになった経緯と、ギュジットが置かれている状況の説明から―。」


 今回は、ギュジットの妻であるミリアが居た。ギュジットだけであれば、事情の説明は必要なかったのだが、今回俺はこの家に闘技大会本戦が終わり、アルの不正を告発するまでの間、住まわせて貰いたかった。


 というのも、このまま領主のアルから借りている家に住みながら分身を介して護衛しても良かった。


 だが、俺はアルに既にネタばらししていること。更に、分身は所詮分身でしかない。気配遮断を解かれてしまえば強さは本体である俺の半分にも満たない。

 そんなわけで俺はギュジットの家に住まわせて貰った方がより確実に護衛ができるのだ。


 という理由は実は些細な事だった。

 俺の分析では、ベガレベルの実力者が数十人集まって漸く、俺の分身の守りが突破できるかどうかくらいには実力差があるのだ。

 だから、可能なら分身を使って守り続けるのでも良かったのだ。


 俺の中で最もウエイトを占めていたのは、睡眠時間の問題だった。

 技能は眠れば解除されるので、ギュジットを離れた位置から護衛する場合、アルの不正を告発するまでの間不眠不休で過ごさねばならなくなる。


 だが、ここに住めれば、チサに護衛を任せられる。その時間俺は休むことができるのだ。

 だからこそ、なんとしても俺はこの家に住ませて貰わねばならなかった。


 俺が話し終わった後もしばらくの間、ギュジットは言葉を発すことはなく、ミリアもまた言葉を発さなかった。


「貴方、そんな不正の片棒を担いでいたの?」


 ミリアの言葉にはギュジットに対する疑念と失望が混じっていた。


「ハァハァ。ミリア、私には何も言えることはない。アル様を止めるだけの力が私には無かった。それに一生妻と子を不自由させないだけの金に私は目が眩んでしまった......ッ! ハァハァ。」


「何よ! 嘘でも......! 嘘でも、不正をしてないって言いなさいよ! うう......。本当なら、この都市の人たちの為に使われる筈だったお金を、私たちだけで使っていいわけないでしょう!」


「ハァハァ。すまない。ミリア。私は絶対にしてはいけない事をしてしまった。だから......、私は、私を止めてくれたジン様の告発を手助けして、その場で皆に誠心誠意謝罪をしようと思う。ハァハァ。」


 ミリアは夫に対する怒りと不信感と失望で顔を真っ赤にして怒っているが、ギュジットの言葉に耳を傾ける。


「ハァハァ。罰があるならどんなものでも受けよう。だから、闘技大会本戦が終わってジン様が不正を告発するまでこの家に泊めてやってはくれんか?ハァハァ。」


「もう! そこまで言われて貴方を追い出したら私が悪者みたいじゃない。いいわ。闘技大会本戦まで、ジンとチサちゃんはウチに泊めてあげる。でも、ギュジット、貴方には罰を受けてもらうわ。」


 そして、ミリアは一瞬で冷めた口調になるとこう言い放った。


「ギュジット、貴方は明日から闘技大会本戦終了まで、ご飯は2日に一食のみ。しかもその一食にも制限をかけさせてもらうわ。勿論、外食をすればペナルティーをつけるわ。そのくらい耐えられるわよね?」


 俺からすれば、1日おきに食事があるという時点で罰でもなんでもないのだが、ギュジットは一気に青ざめる。俺がギュジットの不正をミリアに明かした時のそれの数倍は苦痛をその表情で体現していた。


「なっ......! せめて! せめて、1日一食は!一食は無いと死んでしまいます。お願いします。どんな拷問よりも食事抜きだけは―。」


 いつもの呼吸さえも忘れて、狼狽して、口走った言葉にギュジットはハッとしたのが俺には分かった。


「ふふっ。貴方、人生の中で何よりも食べることを大切にしているものね。私もそんな貴方に食事を作るのが毎日の楽しみだったから分かる。だからこの罰は、貴方の不正を止められなかった私への罰でもあるの。」


 ミリアのその言葉にギュジットは言葉に詰まる。


「ハァハァ。何故...? 何故、こんなどうしようもないミスをした私の罰を貴方まで? ハァハァ。」


「そんなの当たり前じゃない。貴方は、自分の犯した罪を止めてもらって、それを反省して、前に進もうとしている。人は誰だっていつかは間違うわ。でも一度犯した間違いは簡単には直せない。だから、それを手伝う人がそれを支える人が必要だとは思わない?」


 それを聞いたギュジットは泣き崩れる。きっと今ギュジットは領主の不正を断りきれなかったことを、家族を欺いてしまったことを本気で悔いているのだろう。


 そんなギュジットを見ていたミリアは俺の近くへと来る。


「ジン、主人を助けてくれてありがとうございます。貴方が助けてくれなければ、きっと私は主人が不正で得たお金で暮らすことになっていただろうし、もしかすれば領主様によって殺されていたかもしれない。こんなどうしようもない人だけど、無事に今日会わせてくれて感謝しかありません。」


「気にしないでくれ。俺は俺のエゴでやったことだ。礼を言われるようなことじゃない。」


 そう言いながらも俺は内心で頭を掻いていた。

 この後、話し合いを終えた頃には、既に日が変わりそうな時間となっていた。


 俺はチサとリルを見に行ったところ、2人は遊び疲れたのか仲良く眠っていたので、俺はもう少しの間だけ起きてギュジットの護衛を続けることとなる。


 そして次の日、朝目覚めたチサに昨日の夜の話し合いのことを伝えた後、チサにギュジットの護衛を任せると、俺は闘技大会の夜以来、約1週間ぶりの眠りへと落ちてゆくのだった。



実は、この大陸の事を書き始めた時に考えてた物語よりもかなり変わってきてるんですよね。執筆しながらも常にアイデアが浮かんできて、それを組み合わせて、既存のストーリーに付け加えたり削ったりする。そうやって新たな物語が生まれていくのってなんか楽しいですよね。

そんな風に思いながら書いてた84話でした。


丁度先ほど、1万PV突破しました!

読んで頂いている皆様には感謝しかありません。

これからもこの作品をよろしくお願いします!


ではしょた丼は第85話の執筆へ向かいます!


20/12/13

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