第81話 逆上するアル
俺とチサは、絶望するアルを尻目に領主の館を後にする。
領主の館を出る時、領主が不正を行なっている事を知ってしまったエルスが酷く落胆しているのが印象的だった。
いつもここに来る時は面会用の服を借りていた。その時にエルスには色々よくして貰っていただけに、俺もまた沈痛な気持ちになりそうになる。
「ジン。お主が選んだ道じゃ。これしきのことで沈んではならん。人の間違いを糾すということは、相応の痛みを背負っていかねばならぬのじゃ。」
俺はチサから説教されて思い直す。
「ああ、そうだな。俺は覚悟しなきゃいけない。今回は領主の不正を明るみに出そうと言うんだ。アルはこの街を見る限りで完璧な悪徳領主というわけじゃなかった。エルスのような顔をする人も沢山出るんだろうな。」
ただ、今は闘技大会本戦の前であるが故に今ここでアルの不正を公開する訳にはいかなかった。
ここで問題になることがあった。そう、俺の睡眠時間の確保だ。
「なあ、チサ?」
「なんじゃ、ジン。」
「このままだと、俺が闘技大会の本戦が終わるまで眠れないんだが、何か良い案はないか?」
「ああ、そういえばジンは今も技能使いっぱなしじゃったのう。」
「ああ。この不正の証拠を押さえている間、ギュジットの暗殺に備えなきゃいけないからな。」
「ふむ。流石のジンでも1ヶ月の不眠は厳しいか。ならば、ギュジットの家に3週間住ませて貰うというのはどうじゃ? それなら、妾も護衛できるが故にジンが寝る時間が作れるぞ。」
「なるほど。それはいい案だ。早速分身を通じて、ギュジットに連絡を取ろう。流石な不正の証拠を握ったままアルから借りた家に住み続けるのは気まずいしな。」
とは言うものの、ギュジットも不正の片棒を担いでいたのだから似たようなものなのだが。
そんな風に思いながらジンは、ギュジットの護衛として付けていた分身に意識を寄せるのだった―。
丁度この時、ギュジットは応接間でアルの前に引き出されていた。そこにはジンとチサを見送って戻ったエルスの姿もあった。
「ギュジット、貴方のことは信頼していたのに、よくもまあ簡単に渡してくれましたね。しかもよりによってジンとチサに。」
アルは先程ジンに見せていた様子とは打って変わり怒りで威圧を周囲に撒き散らしていた。
「ハァハァ。ヒィ! アル様申し訳ありません。私とて全力であの木版を護ろうとはしていたのです。ですが―。」
「言い訳は要らないです!! 奪われてしまった以上は公開されてしまう前にジンとチサを片付けるか、ギュジット、貴方を殺すしかない!」
「アル様! お待ち下さい! 貴方はまだ間違いを犯しただけ。欲に目が眩んでしまった事実は変えられません。今ギュジット様を殺してしまっては、貴方はもう戻れなくなります。」
アルの冷静さを完全に欠いた発言に最初に反応したのはエルスだった。
「ならどうしろと言うのです? 1200億ラーゲルですよ? これはこの都市の年予算よりも多い額だ。そんなお金を不正に着服したことが分かれば、私に先はありません。」
アルは不正がバレたことの焦りからか、止めに入ったエルスにも逆ギレする。
「そうであっても!殺しだけは絶対に―。」
その瞬間エルスは宙を舞う。アルが殴り飛ばしたのだ。
「使用人の立場で領主にグチグチ言わないでください。今の痛みで頭を冷やすと良いですよ。」
そして床に倒れ込むエルスから目を離したアルはギュジットへと目を向ける。
「さて、覚悟はいいですね? ギュジット。」
「ハァハァ。いいのですか? 私を殺せば、この都市の多くの取引に問題が起こりますよ? それに私を殺したことまで露見すれば、貴方は今度は領主の地位だけではなく本当に全てを失いますよ?ハァハァ。」
ギュジットはアルに対して震えを抑えながらも自分を殺すことの不利益を説く。この辺りギュジットはこの都市における大きな契約や賭けを取り仕切るだけはあるだろう。
「そうだね。それによって間違いなくこの都市は......いや。大陸全土が混乱するだろうね。」
「ハァハァ。ならば―。」
「でもね? そんなことよりも私が領主の地位に居続けることの方が大事なんだ。」
「なっ......!!? ハァハァ。」
「というわけで君には死んでもらうよ。ギュジット。」
その瞬間アルが腰に差していた剣を引き抜き、ギュジットの首を飛ばそうと振り下ろす。
その時だった。
アルの目の前にいた筈のギュジットが突然―消えてしまったのだ。
「なっ!!? まさか! ジンンンンンンン! どこまでも私の邪魔をしてくれる!!」
アルの怒声が領主の館へと響き渡る。
その場にはアルの一撃で倒れ込むエルスと怒りで顔を歪めたアルだけが虚しく取り残されるのだった―。
「ハァハァ。ジン様、危ない所を助けて頂きありがとうございます。ハァハァ。」
分身を介して間一髪のところでアルからギュジットを助け出した俺たちは、領主の館から歩いて40分ほどの距離にあるというギュジットの家へと向かっていた。
「くそっ! なんで俺はこんなことを......。一応お前も共犯だと言うことは忘れるなよ?」
俺は俺の背中の上に居るギュジットへと言う。
何故背中に居るかというと、領主の館から助け出したギュジットは究極の運動不足と言っても過言ではなく、1分も歩けば休憩が必要な程に体力がなかった。
そんなわけで結局俺が背負ってここまで運んできたのだ。レベルの割には力の低い俺にとって拷問のような重量のギュジットを背負って普通に歩いて40分ほどある道のりを歩かされているのだ。
「ほれ! ジン! 何をへばっておる? 頑張るのじゃ! 妾、ギュジットの家で馳走して貰うのが楽しみで待ちきれんのじゃ!」
俺の周りを走りながら、楽しそうにチサは俺をからかってくる。実は俺は何時間かかってもギュジットを背負う気なんてなかった。
だがギュジットは休憩中に俺ではなく、チサにこんな事を囁いたのだ。
「今回の件のお礼に今日の夜は妻に豪華な食事を作るように頼みます。ですが、このままワタクシの速度に合わせて歩いて帰れば、夕飯の準備に間に合いません。ここは一つジン殿にワタクシを運んで頂くようお願いできませんか?」
「何? 豪華な食事じゃと? それは期待して良いのかの?」
「勿論です! 妻の手料理は大陸一といっても過言では無いですからね!」
「わかったのじゃ! 妾に全て任せておくが良い!」
こうして、チサを懐柔した......飯で釣ったギュジットは俺をその巨体の足代わりにすることに成功したのである。
こうして俺は俺の周りを駆け回るチサにからかわれたり、応援されたりしながらもなんとかギュジットの豪邸の前にたどり着いた時、俺は屍の様に動けなくなるのだった。
さて、最近『ジャンプ+』というアプリで、
『ONE OUTS』という漫画が3巻無料なのを見つけて読んでみたのですが......。
見事に嵌ってしまいました。勿論漫画なので、実際にはあり得ないことも結構あるのですが、野球というスポーツのルールの穴をついたり、読者の想像もしない展開への持ち込み方に読む手が止まらなくなってしまったしょた丼でございます。
そんな81話でした(おい! 81話と『ONE OUTS』は関係無いだろ!)。
ではでは〜82話も執筆頑張ります。




