第69話 チサと雪遊び
こうして、領主の館での一件を終えた俺たちは、領主の館を出る。当然ではあったが、俺は着せられていた服は即座に返した。ベガも同様だった様だ。
俺たちは現在、アル・フォー・ラーゲルの外へと向かっていた。というのも、アル・フォー・ラーゲルの中で俺とチサが雪遊びをするのに十分な広さがあるスペースが見つからなかったからだ。
ちなみにベガもまた俺たちについてきている。新たに俺たちの監視役という仕事を与えられたそうだ。
「これから何処に行くんダッ?」
そういえばいつのまにかベガの俺たちに対する口調に遠慮が無くなったな......。
そんなどうでもいいようなことをふと考えながらもベガの質問に答える。
「領地の外だな。これからチサとの約束で雪遊びをするんだ。ベガもやるか?」
「いや、俺は仕事だからナッ。残念だが近くで邪魔にならないようにお前達を見ていることにすルッ。」
「そうか。」
俺はそれだけ言うと俺の肩の上に目を向ける。そこではチサが「ゆっきあそび〜! ゆっきあそび〜!」と楽しそうに歌っている。
そんなチサの様子を見て俺はとてもほほえましい気持ちにさせられる。俺たちとすれ違う人々もまたそんなチサをみて、周囲を歩く子供は父親に肩に乗せてとせがむ子供たちが続出していた。
勿論、殆どの父親が、俺のように片方の肩に乗せると言う真似は出来ないので、肩車か、上手く子供をなだめすかすようにしていた。
そんな風に周囲......、主に子連れの親子に影響を与えながら俺たちはこの都市の門の前までやってくる。都市の出入りには身分証が必要なので、仮発行して貰った身分証を俺、チサ、ベガは門兵に見せる。
「こんな日に外に出るなんて。しかもベガさん、昨日は都市外の見回りだったのに、今日は護衛って......。エリートは大変ですね。」
「あアッ。全くダッ。アル様も人使いが荒イッ。」
門兵とベガはそんな話をする。正確には護衛ではなく、監視なのだが。この都市に住む人なら夢にも思わないだろう。まさかベガよりも俺やチサが強いなどとは。
ちなみに、今日の門兵は昨日俺たちを迎えたサボり門兵とは別人物だった。
そうして、門を出た俺たちは森には入る手前の木々が整理されたエリアにやってくる。ここは門からも俺たちの様子が見え、かつ俺とチサが雪遊びをするのに十分な広さを持っていた。
(ここなら、遊んでも大丈夫か。)
そう判断すると俺は雪の上にチサを下ろす。
「さて、チサ! ちょっと日が傾いてきたが、今日はここで遊ぶぞ! 何がしたい?」
「待ってましたなのじゃ!妾、今日の朝からずっと考えていたのじゃがこういうのはどうかの?」
するとチサは森に向けて、二回水陣を放って2本の木を切り落とす。そうしてその木々を水陣で作ったちょっとした川でこちらまで運んでくると、20mほど距離を空けて雪の上に突き刺した。
「ルールを説明するのじゃ。雪の上に2本の木を立てたのじゃ。片方をジン、片方を妾の物とする。」
「それで?」
俺はチサに先を促す。
「うむ。相手の木に雪玉を当てれば勝ちじゃ。その際何をしても構わぬ。ただし、木に直接攻撃するのは無しじゃ。これでどうかの?」
「わかった。それでいい。だが、やるからには全力でいくぞ?」
「ふふっ。望むところなのじゃ。妾ジンには指一本触れさせずに勝ってやるのじゃ!」
そういうや否や俺たちの遊びと言う名の真剣勝負は幕を開ける。
「水竜天女の法衣!」
「黒影切!」
俺たちは自分の木のある位置にいくとほぼ同時に戦闘態勢に入る。
「ナッ......! 遊びでは無いのカッ! 2人から凄まじいオーラを感じるゾッ。」
少し離れた位置で見ているベガからそんな声がするものの俺は気にしない。否、チサを前に気にしている余裕など皆無なのだ。雪は結局のところ水であるが故にこの戦いチサの方が圧倒的に有利なのだから。
(ベガ、もう少し離れてないと多分辛いぞ。)
「ジン、ではまずは妾からゆくかの。」
「水波・竜水樹」
チサの目の前に巨大な水竜が現れる。俺はこの技を知っている。チサが、水竜を放ち、敵を貫くのだが、本当の意味で貫くのでは無い。
敵の内側に衝撃波を発生させているのだ。つまり、防御無視の恐ろしい攻撃なのだ。
俺は身構える。
(あれを使うのがフェイントだとしてももろにくらえばそのあと動けなくなっちまう。回避か、影・ジンでうまく相殺せねば。)
だが、予想していた攻撃は来ない。チサを見るとその瞬間、竜が崩れ落ちる。
「は?」
俺は折角出した技を撃たずに消すチサの意図が読めずに一瞬固まってしまった。
だがそれを見たチサはニヤリと笑い、技能を発動する。
「同一化!」
その瞬間崩れ落ちた筈の竜が全て雪玉に変化する。
「なんだと!!??」
俺は再度形成された雪玉で出来た竜に言葉が出ない。
「ふふっもう遅いのじゃ。ジン、覚悟するが良いぞ。」
その瞬間俺と俺の木に向かって、竜を象った幾千もの雪玉が突撃してくる。
「まだだ!実像分身!」
俺は大量の分身を場に用意する。その数、80体!今出せる俺の限界の数だった。
「なんじゃと! 流石はジンじゃ! まだ妾にも見せたことの無い奥の手があったとはの。じゃが、妾の雪玉を捌き切れるかの!」
「いくぞ!」「いくぞ!」「いくぞ!」
俺の出した分身と俺は一斉に一つの技を発動する。
「影・ジン!!!!!!!!」
その瞬間、80の分身から放たれた黒い斬撃はチサの作り出した雪玉の竜と正面から衝突し、辺りにその余波を撒き散らす。
ドゴオオオオオオン。
そんな重低音と共に周囲へと飛ぶ衝撃波がベガを襲う。
「ぎゃおおおおスッ!これは痛っいノオオオオオオッ!」
そうして俺とチサの一撃が完全に相殺された。勿論、この戦いで飛んできた雪玉の破片は全て木に当たる前に切り落とした。
近くでベガの悲鳴が聞こえた気がしたが、俺とチサは全く気にせずに向き合う。
お互いの守る木には雪玉一つ当たっていなかった。どうやらチサも水陣で雪の破片を守り切った様だ。
俺の斬撃とチサの竜が衝突した地点ではその衝撃で雪が消え、クレーターのように凹み、地面が見えていた。
「さあ! ここからが本番だ。いくぞ! チサ!」
「望むところじゃ!ジン!妾の水陣を突破出来るのならな!」
その後、俺たちは日が暮れるまで戦ったが結局勝負はつかなかった。ただ、俺の分身は残り数体となり、チサもまた、水竜天女の法衣が解除され、水陣のみで戦う状態だった。
「くぅ〜悔しいのじゃ!最初の一撃で決めるつもりじゃったのにまさか引き分けまで持ち込まれるとはの。次は絶対に負けないのじゃ!でも今日は楽しかったのじゃ。ジン、遊んでくれてありがとうの。」
「俺も疲れたけど楽しかったよ。チサお疲れ様。」
こんな和やかな雰囲気を出してはいるが、俺たち2人が遊んだ場所は、戦地も真っ青になるかと思うほどの荒れ様だった。
その後、吹き飛んでいたベガを起こすと、そのまま俺たちは都市へと戻るのだった。
次の日、その場所を見た門兵が領主に報告し、俺たちは三日連続で領主の館に呼び出されることになったが、それはそれ。チサと楽しいひと時を過ごせた俺は不思議とその時間は苦ではなかった。
1万字チャレンジ2話目です!
今回は雪国といえば雪合戦だよね〜ということで、雪合戦を書いてみました。まあ、この2人が雪合戦すればどうなるかは......ね。ベガが気の毒ですが、仕方ない。頑張れ!ベガ!
そんな第69話でした。次回は第70話です!遂に70話...。ちょっと感慨深いものがありますね。ではでは第70話も引き続き執筆頑張りますね!
20/12/5




