第59話 岩で囲まれた大陸
チサを連れて、胃の中へと戻ってきた俺はチサを地面に下ろすと胃壁にもたれかかる様にして寝かせる。
チサを下ろした俺は、今日の勝負で釣ってきた魚を適当に捌いて食べることにする。インベントリから3匹ほど魚を取り出す。
そして俺は俺の愛刀の名前を呼ぶ。
「黒影切」
俺の持つ黒影切は、呼応する刀であるため、世界の何処にこの刀があったとしても、名を呼べば即座に俺の手に握られる。ちなみに2本あるので、調理の時は一本は地面に置いている。鞘も鍔もないのでこうするのがベストなのだ。
インベントリにしまってもいいが、そうすると再度必要な時に呼び出すのが面倒なわけで―。
ここ最近俺の黒影切は、調理包丁として使うことが多くなっている気がするが気にしない。
こいつが、妖刀だということは気にしてはいけないのだ。
俺はこの刀にはとても感謝している。
これまでの旅では、刃物も何も持たない丸腰の状態だったせいで全て歯で噛み切ったり、手で剥ぎ取ったりをしなければならなかったのだから。
そして俺はその魚達の鱗を剥がしてゆく。ここは首長竜の胃の中であるから残飯や、調理によって出るゴミが地面に落ちてもなんら問題無いのだ。
俺が来る時はチサが胃酸の量を調整して、胃を快適に過ごせる空間にしてくれているのだから。
そんなわけで俺は鱗、内蔵の類を地面に落とすと魚にそのままかじりつく。
「美味いな。やっぱり。自分で釣ると味が違ってくるよなあ。ここに調味料があればいいんだけど、それはわがままだよな。」
そう言って食べ終えると、俺もチサの隣に行って眠ることにする。俺にとっては不思議なのだが、以前何度かチサと離れて眠った時、朝起きてみれば必ずチサが隣にいるんだよね。
しかもそれをすると、チサが朝起きた時は悲しそうに、
「なんで昨日は妾と離れた場所で眠っておったのじゃ?」
そんな顔で俺を見ないでくれ!ただただ俺はチサの近くで眠らなかったらどんな反応するか見たかっただけなんだ。
とそんなことが言えるはずもなく、
「すまない。昨日は疲れてて、チサの場所まで辿り着かなかったんだ......。」
何度かこんな苦しい言い訳で言い逃れたが、チサにはバレていた様で、数度目くらいでチサに言い寄られて、白状した。それ以来、どんなに疲れていようと、チサの隣で眠る様にしている。
そして、次の日からもしばらくはチサと釣りをして過ごすことになる。次の大陸がいつ見えて来るかは全くもって分からないのだが、こうして長閑に過ごす日々もいいもんだなと俺は思った。
あ、勿論初日みたいな大物釣りはするなとチサには言い含めた。釣り竿は10本しか作れなかったから、あんな無茶されたらすぐに使える竿が無くなっちゃうからね...。
チサ曰く、最初の餌に食いついた魚をこっそり水中で倒し、更にその魚に食いついた魚を倒し......。
それを繰り返して一日かけてエンペラーシュリンプを呼び寄せたんだそうだ。
そんなわけで、釣りしたり、ひなたぼっこをしたり、チサとたわいのない話をしたりして、過ごすこと1ヶ月が経過する。
俺たちは遂に視線の先に見るからにゴツゴツとした岩で出来た大陸が映る。季節は冬なのだろうか?岩の上は真っ白な雪で覆われていた。
「チサやっとだな。」
「そうじゃのう。妾はジンとの日々がもう少し続いても良かったんじゃがのう。まあそれをいうても仕方がないかの。」
俺はチサの言葉に少しこそばゆい様な感じがしたが、流すことにする。
「さて、流石に首長竜に乗ったまま大陸に入るのはまずいよなあ。でも、森の大陸に入った時みたいに1週間意識を失う様なことになるなら、それはそれで辛いしな......。」
「ジン。それなら心配ないぞ!前回は同一化を初めて使ったお陰で、色々と反動があったのじゃが、もう大丈夫じゃ。ジンの心配するようなことにはならん。」
チサは自信満々な様子で言い切る。
「だが、前回の時もそう言ったじゃないか。」
俺は前回のようにチサが意識を失って、更には攫われるようなことになるのはもうごめんだった。
「まあ確かにあれは妾が悪かった。でものう、今はこれがあるではないか。」
そう言ってチサは、小さな右手の小指についた番の指輪を俺に見せてくる。
それを見た瞬間キラークィの発した言葉が脳内再生される!
「これは番の指輪。私達ブラウンエルフにとって、結婚指輪として最高級の価値を持つものだ。」
俺の顔は真っ赤に染まり、頭の中に「結婚」の2文字が響き渡る。
「ジンよ。これがあるから今の妾なら大丈夫じゃ。妾とジンの絆は切っても切り離せぬ程には強いからのう。」
「ハァ、ハァ......。分かった!分かった!もういい。これ以上言うんじゃないぞ。もし失敗しても俺が絶対に護る。だから......、もう十分だ。」
「そうか。そうか。では始めるとするかの。」
そしてチサは技能を発動するための言葉を発する。
「同一化」
その言葉と同時に首長竜の体が光る。そして様々な色の光の粒子が舞い散り、放射状に拡がったかと思うと弧を描くようにチサへと吸い込まれてゆく。首長竜の背中の上にいた俺はゆっくりと海へと落下してゆく......。
そうして海へと落ちるのを覚悟したその時、俺の耳は、暖かい、この世界で1番心地の良い音を拾う。
「水陣」
宙に浮く感覚がした。
目の前を見るとそこには前回のように意識を失っていないチサがいた。
「ほらの!だから大丈夫だと言ったであろう。」
俺は何故かチサを抱きしめたい衝動に駆られる。次の瞬間、気付けばチサを抱きしめていた。
やはり心の底では不安だったのかもしれない。
またチサが気絶して、護りきれずにどこかへ行ってしまうのではないかと。
「やれやれ仕方ない奴じゃのう。このまま抱きしめられているのも良いのじゃが、流石の妾も同一化の後ではこの水陣も長くは持たぬのじゃ。ジンに泳いで貰う訳にはいかぬからの。急いでいくのじゃ!」
こうして俺はチサを肩に乗せて、チサが発動した水陣の上を走って岩で囲まれた新たな大陸へのそして新たな旅路への道を突き進むのだった。
というわけで、遂に新大陸への上陸となります!
第三章は漸くここからこの章の本題へと向かう訳であります。
色々未熟者ながらも物語は考えておりますので、是非とも一緒に読み進めて頂けたらなと思います!
では本日の更新はこれで最後ですので、また明日、第60話でお会いしましょう!
20/12/1




