第153話 隔年の友情
「ジーク......、ジークハルトなのか? おいは、おいは夢でも見ているでごわすか?」
「それは、それは......おいどんのセリフでごわす。ヴァルボーゲン! また会えるとは思っていなかったでごわす。」
ジークハルトは流れ落ちる涙をぬぐうこともせず首を振りながら、少しずつ前へと歩き出す。
長いひげを蓄えたオーガもまた、ジークハルトの方へと歩み寄っていく――。
二人は熱い抱擁を交わし、声を上げて、お互いを確かめ合うように泣き続けていた。そこには、迂闊には近寄れぬ二人のオーガによって作り出された独自のバリアで囲まれたかのような空間が出来上がっていた。
俺とチサは勿論、ヴァルボーゲンと呼ばれたオーガの頭領と思われるジークハルトと抱き合う二人の護衛もまた完全に蚊帳の外だった。同じオーガであるにも関わらずだ。
結局、この二人のオーガの話が終わらないので俺は護衛の二人のオーガの女性に許可を取り、キャリーカウの上でくつろぐ許可をもらう。
チサがとても嬉しそうにしていたのが印象的だった。このまま話が終わらなければ、食事も出してもらえるんだとか。まさに至れり尽くせりである。
「それにしても、これは一晩は越す覚悟が要りそうだな。流石、三十年も経てば積もり積もった話もあるってわけだ。」
俺は遠目に三十年でできた空白を一気に埋めていくように、泣き、笑いながら語り合うジークハルトとヴァルボーゲンを見て言う。
「妾はそれでもかまわぬのじゃ。むしろ二、三日話し続けてくれたってかまわぬのじゃ。ここで食事つきで過ごせるのならの。それにここ数日は疲れたのじゃ。ジンの背中で眠れるのは悪くなかったのじゃが、片目での戦闘だとか、久々に沢山魔力を使わされたりだとか色々疲れたからのう。」
チサはそれだけ言ってふかふかの地面に寝っ転がると同時に眠ってしまう。
「疲れた、か。」
俺はチサの幸せそうな寝顔を見てつぶやく。
チサはただこのキャリーカウの上でのんびり過ごしたいだけなのかと思っていた。少なくともこの背中の上に着いたときは。だが、どうやら違ったらしい。よくよく考えてみれば、チサには俺のように不死身も自動回復もない。
そう思えば、病み上がりの少女がここ一週間、俺の背中という間違いなく寝心地は悪い場所でしか休まず、俺とジークハルトが眠るときは見張り役までやってここまで来たのだ。
勿論、元は首長竜であるが故にただの少女ではないのだが、チサは自分の体調のことを悟らせるようなことはしないし、口調や考え方だって俺とは比べ物にならないくらい年長のそれだと思う。
それ故にいつもチサに無理をさせてしまっていると俺は反省する。
ジークハルトの帰郷や俺たちが受け入れられるかということばかりで頭が一杯でチサのことなんてほとんど見えていなかったことを。
「......んにゃ。ジン、気にするでないのじゃ。妾はジンの傍で役に立てるだけで......。」
「えっ!?」
俺は反射的に足元で眠っている筈のチサを見る。
そこには気持ちよさそうに丸まって俺の足を枕にして眠るチサがいるだけだった。
「なんだ、寝言か。」
俺はホッとしてチサを起こさないように地面へと座り、チサの頭を俺の腕の上にのせて俺もまた横になる。ふわっとした心地よい感覚が俺を包み込む。
もし、オーガと仲良くなれたら、キャリーカウの毛をもらえないか聞いてみようと思う。チサの胃の中も悪くはないのだが、こんな気持ちよさを体験してしまうと思ってしまう。この毛をつかってベッドや布団を作りたいと。
しばらく横になるとこの一週間の疲れを感じて俺もまた眠気に襲われる。まだ昼下がりであるにもかかわらずだ。
そうして俺もまた眠りへと落ちてゆく。俺たちの元へ食事を持って近づいてくるオーガの女性をぼやけてゆく視界の端に置きながら――。
こうして三日が経ちようやく二人はねむりについた。その間、飲まず食わずでずっと話し続けていた二人のオーガには流石の俺も恐怖した。これが種族の差かと。三十年、きっとまだ話したりないのだろう。
話そうと思えばきっとこの二人は起きて、食事をとった後続きを話し始めるのだろう。だが、さすがにそれは不味い。何が不味いかって? 俺たちはオーガの都へ入ることと、リザードマンとの戦いをどうするのかについて話し合いに来ているのだ。これ以上二人の空間を作り出させるわけにはいかなかった。
この三日ですっかり仲良くなった護衛の女性の二人のオーガとチサと、二人が起きた瞬間に話し合いを始めようとそう打ち合わせをしてその時を待つのだった。
今日で丁度連載開始から3ヶ月となりました。ここまで書けたのは、こんな物語でも読んでくれてる方が、追ってくださる方がいるからだと思っています。
来月の六日で200話目標で......無理かなうん。まあとにかく!
四苦八苦しながら、度々止まりそうになる指を必死で動かしながら書いていく所存でございますのでこれからもよろしくお願いしますm(__)m