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第149話 チサのリハビリ

「あ、そうだチサ、チサの水陣を使って体内を調べれば、爆弾の有無が分かるんじゃないのか?」


「それが実際に手に取って分かるものであれば分かるんじゃがのう。技能や呪いの類であれば妾には分らぬのじゃ。」


 今俺たちの目の前の景色は少しずつ明るみ始めていた。とはいうものの、ここにいる俺を含む三人はもともと夜目が効くのでさして関係なかったりはするのだが。


「そうか。だが、やらないよりはマシだな。オーガの都とやらに着くまでに俺とジークハルトだけでもやっておいてくれるか?」


「分かったのじゃ。」


 俺たちは歩き続ける。ここは実は森の中なのだ。上空を見ればほとんどがキノコの傘が覆い隠しており、空は見えず、道もまた無い。というのも実はここよりも歩きやすく木を切り倒して均した歩きやすい道はあるのだ。あるのだが、そこにはリザードマン達が行き来していることもあって指名手配されているような俺たちが通るにはいささかリスクが高かった。気配遮断を使えばだれにもばれることなく進むことが出来ないわけではないのだが。

 それに、そういった整備された道はもう一つ問題があった。それは、オーガの都へ一直線に進めるわけではなく、元オーガの集落......現在のリザードマンの占領地を経由することになってしまう。歩きやすさを考慮すればそういった道を通るほかないのだが、俺やジークハルトであれば多少足場が悪かろうとなんら問題なかった。そんなわけでジークハルトの気配察知を頼りにまだ落ちていないというオーガの都へと一直線に向かっていた。


「でたぞ! 火山ヒヒでごわす!」


 突然、ジークハルトが声を上げる。実は俺は今、気配遮断を使っていない。というのも、チサのリハビリのためだったりする。気配遮断を使えば俺の気配遮断に対応できる何かをモンスターや野生動物が持っていないかぎり俺たちの存在に気付かず、出てきてすらくれないのだ。

 俺たちから近づけば出会えなくもないのだがそれだとチサのリハビリにならない。というわけで、チサが起きている間は、気配遮断を解いているのだ。


「水陣・震水」


 チサは俺の肩という特等席に座りながらもジークハルトの声を聞き、火山ヒヒの姿を捉えるや否や技を放つも外す。


「くうう! やはり一ヶ月も動いてないと思うように当たらないのじゃ。それに片目じゃと思った以上に距離感が掴みにくいのじゃ。」


「チサ! もう一回だ。感覚が掴めるまでやるぞ!」


「うむ。水陣・震水」


 それも火山ヒヒはかわす。火山ヒヒ。見た目は四足歩行の赤毛の猿と言って過言ではないのだが、大きさは二メートルを優に超え、四足歩行にも関わらず立っている俺よりも大きかった。さらに火山ヒヒと言うだけあって背中には小型の山が乗っていた。


「チサ! 火山ヒヒは見かけによらず回避が得意でごわす。動きを止めて、反撃される前に倒すのがコツでごわす。」


「分かったのじゃ! 水陣・縛水」


 先ほどまでチサが外した技で出していた水が火山ヒヒにまとわりつき途端に火山ヒヒは動けなくなる。


「ウキャ!?」


 俺はそこで初めて火山ヒヒの鳴き声を聞いた気がした。火山ヒヒはその場から動こうとするも全く体が動かない。


「ふふ、どうじゃ? 流石に死角からの攻撃を避けるのは無理であったじゃろう?」


 チサが得意げに言う。先ほどまで攻撃を外して不機嫌だったのはどこへやら。そうして気を抜いた俺たちへジークハルトが叫ぶ。


「おい! 早くとどめをさすでごわす! 火山ヒヒは窮地に陥ると最後の――。」


 そうジークハルトが言い終える前に火山ヒヒの背負っていた山が真っ赤に染まり、俺たちへ向けて噴火したのである。


「うっそだろ! チサ!」


「油断したのじゃ。じゃがそれくらいなら問題ないのじゃ。」


「水陣・受水」


 チサは俺の目の前に一瞬で水の壁を作り出すと、噴火によって飛んできた溶岩や煙などをすべてその壁の中へジュワアアという音を響かせながら消えてゆく。そしてしばらくしてそれが収まると、


「水陣・流水」


 チサは水に触れたことで完全な岩石と化した岩の塊を火山ヒヒに向かってお返しする。


「ウキャ......。」


 それが火山ヒヒの最後の声だった。チサの技によって拘束された火山ヒヒは動くこともできずチサの反射技をもろに食らってその場に横たわる。


 火山ヒヒの体は赤くきれいな毛皮は見るも無惨に裂け、背中の山は黒焦げ、なんとか原型は残していたがかなりボロボロだった。


「リハビリだから仕方ないがこれは酷いな。」


「すまぬのじゃ。久々に思い通りに技が決まったおかげで完全に油断していたのじゃ。」


「ニードルウルフが息するように狩れるジンがいるならどうということは無いでごわすが、この火山ヒヒは全身余すところなく素材として食料として使えるから高額で取引されるでごわす。背中の山を噴火させなければの話でごわすが。」


「噴火させたらなんで駄目なんだ?」


「この火山ヒヒは一度でも噴火すると、体内の栄養や背中の山の中に秘めている火種を消費してしまうでごわす。そこで倒れているヒヒをみれば分かると思うでごわすが、全身真っ黒に変色していっているだろう? こうなるともうどこも素材としても食料としても使えないから誰も買い取ってくれないのでごわす。」


「へーそんなこともあるんだな。チサ、次出てきたらきっちり仕留められるようにしような。」


「うむ。今のでかなり勘が戻ってきたのじゃ。次は任せておくのじゃ!」


 そうして俺たちはオーガの都への道すがらチサのリハビリを続ける。初日こそ片目になった影響で距離感覚を掴めずに苦戦していたチサであったが、何匹かモンスターと動物を仕留めるうちに慣れたのか一撃で仕留められるようになっていく。その後、三日間歩き続け、遂に俺たちはオーガの都の手前までたどり着くのだった。

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