第148話 ジークハルトの過去②
ジークハルトは爆風で吹き飛び、近くに建っていた家を五軒ほど貫通して地面に叩きつけられる。
「ぐはっ............。」
ジークハルトの体には、瓦礫が突き刺さり、吹き飛ばされた衝撃によって体中の至る所の骨が折れていた。怪我の度合いはいくら三千年の時をかけて戦闘に特化した進化をしたオーガであっても普通なら立ち上がれぬほど酷いものだった。
「くそっ............! どういうことでごわす!? 伝令が爆発した? 一体だれが、どうやって?」
ジークハルトの頭の中は混乱していた。だが、彼はやはりオーガ最強と言われるほどの戦士だった。軋む体に鞭を打つと何とか立ち上がり、元いた酒宴の会場まで歩き出す。
だが、ジークハルトを待ち受けていたのは、悲惨な現実でしかなかった。待ち合わせ場所には爆発のお陰で火の手が上がり、オーガの兵達は爆発の影響で既に満身創痍もしくは死体といった有り様だった。
「おい! 大丈夫でごわすか?」
ジークハルトはその光景をみた瞬間、体に痛みがはしるのも忘れて倒れ伏す兵へと駆け寄っていた。
「ジーク......ハル、トさん............。無事だった......んですね。良かった。俺はもうーー。」
だが、その兵はジークハルトへ最後まで言葉を伝えることも出来ずに力尽きてゆく。
ジークハルトはその後も周囲にいる兵へ駆け寄り声をかけるもやはり皆がもう戦える状態では無くなっていた。
「いやあ、これは傑作だな。ジークハルト。まさかお主がこうも簡単に私の術中にハマってくれるとは。」
にこやかな笑みと共に明らかにオーガでは無いシルエットを持つ男が近づきながら声をかける。
「!? お前は......バリファント。一体どうやって。」
バリファント。そう、新たにリザードマンの首領となった男だった。ジークハルトとは戦地で、何度も顔を合わせた仲でお互いがお互いを知っていた。
「どうやって? そんなこと明かすわけがないですよ。ただ、私は貴方を奴隷なり捕まえるなりしてしまえばそれなりに利用価値がありますから。」
そういうとバリファントはもはや立つのもやっとと言ったジークハルトの左腕を一瞬にして自身の爪で切り落とす。
「ぐうう......。」
ジークハルトは呻き声をあげる。だがジークハルトにはもはや抵抗する力さえ残されていなかった。ジークハルトはついに腕を落とされたダメージと爆発によるダメージでその場に倒れ伏す。
「いや、しかし驚きですよ。まさかまだ息があるとはね。流石はリザードマン一位の戦士と言えるでしょう。本当は、殺す、つもりだったのですが。」
「......。」
ジークハルトはうつ伏せになったまま何も語らず、バリファントはただ一人で話していた。だが、語っても反応のないジークハルトが面白くなかったのだろう。バリファントは懐から黒い球体を取り出す。
「ふん。だんまりか。それならそれでいい。だが、お前の身柄は使えるからな。お前だけは殺しではなく、投獄にしてやろう。そういう地とバリファントは手に持っていた黒い球体をジークハルトに取り付けてゆく。
「!!?」
ジークハルトは虎視眈々と最後の力でバリファントに反撃するチャンスをうかがっていた。そううかがっていた筈だった。
(まずい! なんだこの球体は! 一つでとんでもない重さだ!? 一体どうやってこんなものを手に入れた。そしてこんなものをつけられては手負いの体では立つことも......!)
そう思った瞬間にジークハルトは咄嗟にバリファントの手を振り解き、3個ほど黒い球体がついた体のまま立ち上がろうとする。
だがジークハルトは再度地面に叩きつけられる。
「カハッ......。」
「驚きましたよ......。まだそんな力を残していたとは。ですが、ダークマターをつけて正解でしたね。流石の貴方でももう動きにキレはありませんから私でも十分にねじ伏せられますね。」
そう言ったバリファントは両腕を握りしめてハンマーのようにし、立ち上がろうとしていたジークハルトを再度地面へと叩きつけたのだ。
そして遂に動けなくなったジークハルトにダークマターをつけ終えるとバリファントはジークハルトを担ぎ上げるとオーガの街に攻め入るリザードマン達へいくつか指示を出して立ち去るジークハルトを担ぎながら......。
「そういうわけでジン。おいどんは街に入れないかもしれない。なんせおいどんが街に入って自爆でもしようものなら今のオーガには致命傷になりかねないでごわすから。」
そう言って語り終えたジークハルトは歩きながらも残った右腕の拳を握りしめていた。何もできなかった自分の無力が余程悔しかったのだろうと俺はジークハルトの内心を察すると同時に、爆発について考える。
「だが、ジークハルトの話が本当であればバリファントか部下かそれとも別の何かかは分からないがその爆発は厄介過ぎるな。」
「実はの、妾もその爆発でやられたのじゃ。」
「チサ、起きていたのか。」
「うむ。先程ジークハルトが話し始めた頃からの。確か影武者だの、時限式だの言っておったの。あの爆発の仕掛けが分からぬ以上はかなり厄介じゃ。」
なるほど。チサのあの全身の傷は爆発によって受けたものだったのか。
「なあ、チサ、その爆発の話について詳しく聞かせて貰えるか?」
そう俺が聞くとチサは頷き話し出す。俺はそれを一通り聞いた後、ジークハルトとチサと共に夜道を歩きながらリザードマンの使う爆発について話しあうのだった。