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第146話 集落に別れを告げて

「あら、二人きりの時間はもういいの?」


 俺たちが外へ出た瞬間ゴライヤがそんなことを聞いてくる。

 俺は速やかにその場を離れようと気配遮断を使う。いや使おうとしたのだ。こういう類の話はいつも俺が割を食うのは今までの経験から分かりきっていた。

 だが、チサがそれを許してくれなかった。


「本当は妾、気を使ってもらったのじゃからもう少し二人きりでいたかったのじゃがのう。ジンはここまでの力があって恋愛はからっきしじゃからのう。......意気地なし。」


 チサはゴライヤと話していながら的確に俺へとダメージを与えてくる。最後つぶやいた一撃は俺にとって致命傷だった。

 俺は気配遮断を解いてチサへと反論をする。


「なっ......! おいチサ! それはどういうことだ! 何がなんでも意気地なしは無いだろう? 病室を出たのは同意の上だったはずだ! それにゴライヤはどうして俺たちの関係を......。」


 俺は焦る。どうしてゴライヤが話してもいないはずのチサとの関係を知っているのか、そして、チサに意気地なしと言われなければならないのか。


「あら? 私は覚えてるわよ? ジンが今にも死にそうになったチサを抱えて来た時の必死さを。そして見張りだったクレボヤンスから聞いたけど、土下座ーー。」


「待て待て待て待て! それ以上言うな! 頼むから言わないでくれ......。」


「あら、なら今は勘弁しておいてあげるわ。とはいえそこまでされてしかもお揃いの指輪までつけちゃって。気付かない方が無理じゃないかしら?」


 そう言われればそうかと顔を赤らめたまま俺は俯く。


「のう、ゴライヤよ。さっきの話の続きじゃが、土下座とはどういうことじゃ? ジンは妾が意識がなかった時のことを何度聞いても教えてはくれぬのじゃ。」


「待て! 待て! ゴライヤ! ここはお互い建設的な話し合いをしようじゃないか! あ、そうだ。しりとりをしよう! それがいい!」


 俺は必死だった。ゴライヤが口を開けば俺は恥ずかしさで無事死亡できる自覚があった。それにここでチサにアレを知られてしまったらこれからの旅路でからかわれることは必定と言って過言ではなかった。


「必死じゃの。」


「ええ、必死ね。」


 チサとゴライヤが俺に呆れながらも面白いおもちゃを見つけたような目で見てくる。やめてくれ!

 俺をそんな目で見ないでくれ......。


「まあ良い。ここで()()()()()()()()のはやめておくとするかの。」


 俺は安堵する。助かった。と。これで後はチサより先回りしてクレボヤンスと村長であるジスカーダを口止めすれば俺のかっこ悪い部分を聞かれずに済む。そう俺は本気で思っていたーー。


「話は終わったでごわすか?」


 俺の背後から声が聞こえてくる。


「すまないジークハルト。待たせた。」


「いや、おいどんは大丈夫でごわす。チサが完治してこんなやりとりが見られただけでおいどんは満足でごわす。それにリザードマンがまさかここまで話せるとは思っていなかったでごわす。」


 ジークハルトは建物の中で窓があるわけでもないのに遠くを見つめるように呟く。

 そのジークハルトの片腕ながらも鍛え上げられた傷だらけの体にはどこか引き寄せられる部分があった。


「ええ、そうね。私もオーガがこの集落に来たと聞いた時は報復に来たのかと思ったわ。でも、ジークハルトと、かつてのオーガのナンバーワンと言われた男と話してみて、オーガも血が通う同じ生き物なんだって思ったわ。」


 先ほどまでの俺をからかっていたゴライヤはどこへやら。先ほどまでのムードは完全にこの場から消え去っていた。


 しばらくの沈黙がこの場を支配する。やはり、この1ヶ月でジークハルトとリザードマンが普通に話せるようになったとはいえ、三千年にもわたる確執(かくしつ)がそう簡単に消えたりはしないのだ。この沈黙の重さがそれを表している気がした。


「......さて、チサが快復したってことは、ジンがこの集落に留まる理由がなくなってしまったわね。」


 その沈黙を破ってゴライヤが話し始める。とはいえ、先程の重い話に加えてこれから別れの話をせねばならないと思うとどこかやるせない気持ちにさせられる。


「そうだな。今から村長の家へと向かおうと思っていたんだ。」


「その必要はないぞ。私はここにいるからな。」


 タイミングを見計らったかのように村長であるジスカーダがこの場へとのっしのっしと歩いてやってくる。

 そうして俺の......正確には俺の肩に座るチサの前へ立つ。


「まずは、完治おめでとうと言わせてほしい。そして匿うという名目ながらも、この集落に毎日食料の供給と、そして訓練をして頂いたこと心から感謝する。」


「気にするな。体を動かすついでだったし、それに俺が居なくなったら食料が確保できませんでは話にならないだろう?」


「おいどんも感謝されるほどのことはしていないでごわす。」


 俺とジークハルトは口々にそう言う。


「そうか。とはいえ、今の言葉からはっきり分かった。貴方たちはやはりここに留まる気は無いのだな?」


「ああ、そうだな。 俺たちは元はといえばオーガの地へと向かっていたんだ。それにここにいたら追われる身としてはずっと心が休まらないし、俺たちに頼りっきりなのもどうかと思うしな。」


 そう。本当ならチサを傷付けたリザードマンという種族になんて治療を頼むつもりはなかった。だが、なんの運命だったのか、リザードマンに傷付けられ、助けられたのもまたリザードマンだった。俺はそんな今の状況に不思議な何かを感じていた。それがどこからくるものなのかはわからなかったが。


「それは......分かった。それでいつ発つのだ? これからオーガの本拠地へと向かうのだろう?」


「そうだな......ジークハルト、チサ、動けるか?」


 俺は尋ねる。本当はもうしばらくここで羽を伸ばしてから出発でも良かった。だが、チサを治す為とはいえジークハルトは随分長く待たせてしまったし迷惑もかけたことを思えば一刻も早くここを出たいという気持ちもあった。


「おいどんはいつでもよか。」


「妾ももう大丈夫じゃ。」


 俺の言葉から俺の意思が伝わったのか。二人とも今すぐにでも出られるという。


「そういうことだ。ジスカーダ。今すぐに発とうと思う。集落のリザードマンたちにはよろしく伝えておいてくれるか?」


「分かった。1ヶ月という短い間ではあったが、貴方たちが来てくれたおかげで色々助かった。それだけは皆を代表して伝えさせて欲しい。」


 俺はその言葉に頷くとジスカーダと握手をする。背丈の違いから、ジスカーダが幼い子供と握手するようにかがんだのにはなんだか複雑なものを感じたが。


 その後。ゴライヤとも別れを告げ、万が一に備えてチサにネタバレされないようこっそりクレボヤンスへと放っていた分身を回収して俺はこの1ヶ月定宿として使っていた病院を後にする。

 1ヶ月前来た時より活気と更に少しだけ整備や修理がされた道や家々を眺めながら......。







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