第142話 チサの目覚め
「んん......ここはどこじゃ?」
「チサ!! 良かった......本当によかった......。」
俺はチサが目覚めた瞬間に俺はチサを思わず抱きしめていた。
「ジン! 落ちつくのじゃ! 痛いのじゃ! 離して欲しいのじゃ!」
俺はその言葉にハッとしてチサを抱きしめていた腕を緩める。
「すまない。嬉しすぎて我を忘れていた。」
俺は速やかにチサから離れる。とはいうものの手は握ったままなのだが。
「良いのじゃ。心配かけたの。とはいえこうしてまた話せるのは嬉しいことじゃの。」
チサは俺へと向けて笑みを浮かべる。この笑みを見れば、俺の苦労など大したことは無いように思えてくる。だが、その安心と共にチサをこんな目に遭わせてしまった罪悪感に苛まれ始める。
「すまない。チサ。こんな目に合わせてしまって。俺がもっともっと強かったら。もっとこうなることが予想できていれば......。」
「ジン、そう病むでないぞ! 終わったことじゃ。それに隻眼ってなんだかカッコイイとは思わぬか?」
チサは気丈にもそんなことを言う。本当は身体中痛いだろうし、今の状況だって完全には掴めてなくて不安もあるだろうに。
だけどチサは起きたばかりなのに俺を気遣ってくれる。そんなチサを見て俺もメソメソしている場合では無いと心を奮い立たせる。
「おお、ジン、起きたのでごわすな。良かったでごわす。」
俺がチサのお陰で内心をガッタガタに崩されたタイミングを見計らったかのように部屋の壁にもたれかかっていたジークハルトが間に入ってくる。
普通なら二人の時間に割り込まれたら疎ましく思うのかもしれないが今はジークハルトに「ナイス!」と思わず言いたい気持ちだった。
なんせ俺の顔は目も当てられないほどにひどい顔をしているのだろうから。
「んん? お主は誰じゃ? やけにジンと親しそうじゃのう? 妾が眠っている間に何があったのじゃ?」
チサが俺とジークハルトを見比べながら先ほどまで見せていた優しげな笑みから一変し、頬を膨らませる。
え? ウソお!? もしかしてそこに嫉妬しちゃってるの?
「ああ、紹介がまだであったな。おいどんはオーガのジークハルトでごわす。縁あってジンと行動を共にさせてもらっている。」
「ああ、そうだ! ジークハルトにここへ案内してもらえなければ、チサを助けられなかったかもしれないんだ。断じてやましいことは無いからな?」
俺はほほを膨らませているチサを可愛いと思いながらも、ご機嫌ナナメなままでは不味いので俺は必死でジークハルトの説明に補足を入れる。
「ジン、何を勘違いしておるのだ! 妾が言っておるのはそういうことでは無いのじゃ。」
俺の対応にチサはより一層ほほを膨らませる。
「ジン、おいどんでも分かることが分からぬのでごわすか? もう少し乙女心について勉強した方が良いと思うでごわす。」
くうう......言わせておけば好き勝手言いやがって。だが、俺は何故チサが怒っているのかわからないあたりやはりジークハルトの言う乙女心とやらが理解出来ていないのだろう。だがどうやって学べばいいんだ? 俺はチサ以外に親しい女の子なんていないぞ!
「あら! 良かったわ......。どうやら目覚めたみたいね。」
「リザードマンじゃと!!??」
チサがゴライヤを見た瞬間に考え事に耽っていた俺は思わず度肝を抜かす。
だが、俺はチサが受けた傷の原因を思い出し、傷ついた体で臨戦態勢に入る。
「待て! 待つんだチサ。彼女はチサの治療に協力してくれたリザードマンなんだ。敵じゃないから安心してくれ。」
俺の言葉でチサは警戒を解く。
「どうしたの? その子、なんで私を見た瞬間にそんなに敵意剥き出しだったの?」
俺は言うべきかどうか迷う。ジークハルトもまた沈黙していた。
「そうか、お主が妾を治療してくれたのか。礼を言う。とりあえず名を教えてはくれぬかの?」
「みんなは私のことをゴライヤと呼ぶわね。今更本名を名乗るのは面倒だからゴライヤと読んでくれればいいわ。」
「そうか、改めて礼を言わせて欲しい。ゴライヤよ。そして先ほどの非礼を詫びさせて欲しいのじゃ。初対面ですまなかったの。」
チサが落ち込みながらすまなそうに言う。
「良いわよ。大怪我をした人はそれ相応のトラウマがある方が珍しいもの。きっと貴方をここまで傷つけたのもリザードマンだったってところでしょう?」
ゴライヤは俺たちの様子をみて話せない事であると言うことを感じ取ったのかそれ以上は聞かず、近くにある薬を調合するために使っていた椅子に座る。
「ゴライヤ、今回は助かった。もうしばらくチサは動けないだろうから世話になりたいんだが、何かできることはあるか? 治療代としてできることならなんでもするつもりだが。」
「あら、ニードルウルフだけでも今のうちの集落なら十分なのに、まだ何かしてくれるって言うの? なら引き続きニードルウルフを狩ってきてもらえると助かるのだけれど。うちの集落、ここのところずっと食糧難なのよ......。」
「食糧難? そういえばここのリザードマン達はみんな痩せていたし、家や道だってボロボロになっていたな。何か事情でもあるのか?」
「そうね。これからもうしばらくここに居るのなら話さないわけにはいかないわね。」
ゴライヤは、俯きながらもゆっくりと話し始める。今のリザードマンのか置かれた状況についてーー。