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第141話 間に合った治療薬

「チサは無事か!!?」


 俺は病室に駆け込むとすぐに包帯でぐるぐる巻きになっているチサの元へと駆け寄り、容態を確認する。一応チサが生きているのであれば頭の中でどのくらい離れているかといった情報はわかるのだが、やはり心配なものは心配なのだ。

 俺はチサが呼吸しているのを確認すると安堵する。


「うわっ! 本当に集めきれちゃったの!? 冗談じゃなかったのね。」


「だからジンは帰ってくると言ったでごわす。とはいえ、後ゴライヤが言ったリミットまではあと一時間五十分ほどでごわす。二時間無いでごわすが治療薬は作れるのか?」


 ジークハルトとゴライヤがそんな俺に気付き声をかけてくる。


「何とかしてみせるわ。そもそもあのリストに書いたものを本当に七時間で集めてくるなんてね......。さあ確認に入るわよ。」


 まず俺は熱水草を渡す。


「これが熱水草で間違いないか?」


「は......はあ!? 一本まるまる!? 冗談じゃないわよね? こんなの初めて見たわ......。」


 俺が取り出した崩れていない熱水草を見てゴライヤは驚きで、声を裏返しながらも言う。しかし初めてとは大袈裟(おおげさ)な。俺はそのゴライヤの反応を見てからジークハルトへと目を移すとジークハルトもまた目を見開いて驚いていた。


「え? これが普通じゃないのか?」


「ジークハルトから聞いたわ。流石、異大陸からこの大陸へ来るほどの実力者ね。まさか崩れていない熱水草を持ってくるだなんて。ちなみにこれ、首都で売れば、一年間遊んで暮らせるくらいの収益は固いわね。なんせ普通は海岸に流れ着いた欠片を拾うのよ......。」


「嘘だろ......。」


「残念ながら本当よ。」


「あと十二本あるんだけど。」


 ............


 俺の言葉にしばし重い沈黙が流れ続ける。

 しかし沈黙を続けても仕方がないので、次の素材に移る為に俺は話を切り出すことにする。


「次の素材いくぞ。」


 俺はストレージの中から白い花弁を取り出す。そう。火山花だ。


「これを取りに行って無傷なんて一体どうなっているの?」


「ああ、最初は近寄れなくて取りに行けなかったが、運良くデカイネズミが通りかかってな。そいつを仕留めて皮を拝借したら何とかなったよ。」


 俺は続けてネズミの特徴についても話す。


「......なんだか驚くのもアホらしくなってきたわね。この火山花の花弁を集めるときは、遠距離攻撃系の技能と風系の技能を合わせて使うんだけど.....。」


「だから言ったでごわす。ジンなら大丈夫だと。」


 その後俺はストレージにしまえなかった踊るマンドラゴラを分身に運ばせる。だが、やはりこちらも驚かれることになるのは最早お決まりなのだろうか?マンドラゴラは普通は埋まっているものを、優しく掘り出して捕獲するらしい。

 踊っているマンドラゴラは初めて見たそうだ。


 その後、俺とジークハルトは手伝えることを手伝い、やることが無い時はチサを励まし、こんな状況でも呑気(のんき)に踊り続けるマンドラゴラを眺めて一時間半。遂に治療薬が完成する。


「出来たわ! 今まで作ってきた薬の中でも最高の出来よ!」


 ゴライヤの声が室内へと響く。


「できたなら早く飲ませてやってくれ。」


 チサは容態こそ今は安定しているが虫の息なのは間違いなかった。俺は平静を装ってはいるが、内心ではゴライヤの作った薬が本当に効くのか不安で仕方がなかった。

 そんな不安を見透かすようにジークハルトに背中を叩かれる。


「ジン、男なら覚悟を決める時でごわす。ジンはベストを尽くした。だからこそここはどっしりと構えておくでごわす。その不安がチサに伝わるのは良くなか。」


「そうだな。ここまで来たら信じるしかないな。」


 俺は背筋を伸ばしてチサの手を左手を握る。その薬指に付けられた番の指輪はチサが窮地なのにも関わらず綺麗な緑色を放ち続けていた。


「大丈夫よ。信じてもらって構わないわ。ジン、薬を飲ませるからこの子を少し起こしてあげてくれないかしら?」


 そういえばいつの間にか俺とジークハルトを名前でゴライヤが呼び始めていた。どうやらチサへの不味い対応は何とか挽回できたようだ。

 俺はチサの背中に手を入れるとゆっくりとチサの体を抱きおこす。

 ゴライヤが円形でありながら一部だけ突出したかのように先を尖らせた容器でチサの口の中へ調合した薬を溶かしたと思われる液体をゆっくりと流し込む。


 それを終えた後、ゴライヤが口を開く。


「あとは今夜が山ね。この子が耐えられるかどうか。私はちょっとかなり疲れたから休むけど、貴方たちはどうする?」


「俺はチサが目覚めるまでここに居る。」


「ジンが居るならおいどんも居させて貰うでごわす。」


「そう、ならここには近付かないように他のリザードマンたちには言っておくわ。食事は私が目覚めたら持ってくるけどそれで良いかしら?」


「いいのか?」


「ええ。一人の女の子の治療にしてはもらいすぎたくらいよ。食事くらい出させてもらうわ。」


 俺はゴライヤへ感謝の言葉を伝えると、ゴライヤは踊るマンドラゴラ達を一列に並ばせて、部屋を出て行く。

 いつの間に従えたのだろうか?俺はそんな疑問を抱えながらもチサの手を強く握る。

 心なしか先程よりは顔色が良くなっている気はしたが、まだ安心はできない。

 俺はチサが無事に目覚めることを祈りながら夜明けを迎えるのだった。





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