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第138話 ジンへの信頼

 俺はクレボヤンスに案内されて建物の外に出ていた。外はまだ暗いままだ。流石にゴライヤを外に連れ出せばチサを診ている者が居なくなるのでジークハルトとともに置いてきていた。

 つまり、今は俺とクレボヤンスのみが外にいた。


「もしかしてあの時、見張りの俺に言った対価ってニードルウルフのことだったんですか?」


「ああ、今、俺は百二十七匹持っている。なんなら、千と言われたって問題なく集められるだろうな。一日で。」


 そう言うと俺はストレージから、ニードルウルフの死体をひとまず百積み上げる。


「ひっ......! これ本物なんですよね?」


「ああ、ジークハルトが勘違いしていなければ間違いなくな。」


 そう言うとクレボヤンスは慌てふためきながらも、ニードルウルフの山を1匹ずつ確認する。


「問題ないです。全てがニードルウルフでした。しかし、一気に百も出して良かったのですか?」


「問題ない。チサを完璧に治してくれたら成功報酬として千追加してもいいぞ。ニードルウルフがそれで絶滅するなんてことは無いだろう?」


「あははははは......俺たちはとんでもない人を相手していたのかもしれませんね。ではこちらが治療薬に必要なもののリストです。」


 俺はクレボヤンスから一枚の紙切れを受け取る。

 そこには3種の植物の絵とその大まかな生息地が記されていた。


「ありがとう。すぐに戻ってくる。」


「え......ちょっと待っ!?」


 俺は紙を受け取ると即座に走り出す。後ろでクレボヤンスが何かを言おうとしていた気がするが俺はそんなことを気にしている暇は無かった。チサ生存の為のタイムリミットはあと九時間、治療薬を作るのに二時間かかるため、俺が採集にかけられる時間は七時間だった。


 俺は走りながらクレボヤンスから受け取った紙切れを読み込んでいく。


 一、熱水草 この大陸付近の海の中に生えている黒色の海藻。非常に硬いが崩れやすい


 ニ、マンドラゴラの根 森の中に生える根が人面になっている生物。生きたまま連れ帰ること。


 三、火山花 ボルケーナ火山の溶岩地帯に咲く花、真っ白な花弁が特徴。



「なるほどな......。さっきクレボヤンスが言おうとしていたのは一人では無理ってことか。」


 というのも火山の名前があるのは初めて知ったが、火山は北西、森は東、最も近い海岸は南という全てが別方面に存在するものだった。

 だが俺には関係ない。発見にさえ手間取らなければ十分に時間内で集められる範囲だった。


「実像分身」

「気配遮断」


 俺は即座に分身を作り出す。岩の大陸に居た時までの俺なら恐らく射程が足りず制御できなかったが、チサによる地獄の特訓のおかげで、魔力を上手く調整出来る様になったのもあってここから動かなければ、火山、森、海がギリギリ実像分身の射程圏内に入っていた。


 俺は20ずつ実像分身を三方向に飛ばす。そして俺はリザードマンの集落から少し離れた見晴らしのいい平原にどっかりと腰を下ろすと分身を操ることに周囲警戒以外のほぼ全神経を集中させていく。


 このままいけばどのポイントも到着まで三時間というところか......。ギリギリだな。

 俺は本当に見つかるかどうか不安に駆られながらも分身が目的地へたどり着くのを待つのだった。




「行ってしまった。」


 クレボヤンスはニードルウルフの山の隣で一人取り残されていた。ジンに治療薬に必要なリストを渡して説明しようとした瞬間ジンは一気に見えなくなってしまったのだから無理もない。


「大丈夫でしょうか......? あの三つ一人ではましてや六、七時間で全て集め切れるとは思わないけど......ただ、ジンさんは出来ないなら出来ないで応援を呼びにくるはず。来ないということは大丈夫な筈だ!」


 そう考えを纏めたクレボヤンスはニードルウルフの処理のためジンとジークハルトに倒された者たちを起こしにいく。

 とてもではないが、百というニードルウルフをクレボヤンスだけで解体など不可能に近かったからだ。

 腐っても良いなら可能ではあっただろうが。


 こうしてクレボヤンスが去った時、チサの体を拭き終えたゴライヤによる治療は本格的なものになりつつあった。


「汚れていたり服で隠れていてわからなかった部分もあったけれどこれは酷いわね。特に目の傷が酷いわ。これはもうダメね。眼球だけ修復して、顔の形が崩れないようにしましょう。

 それから、全身の骨折による欠片の除去と内出血による血液も抜いておきたい。それから、所々に残る火傷も手当てしておきたいけど、この衰弱だと、少しの治療でも致命傷になりかねないわね。」


 彼女はぶつぶつと独り言を言いながら、チサをできる範囲で少しずつ治療していく。

 その間、ジークハルトはただただその様子を口を出すことなく見守っていた。


 この治療の間、他のリザードマンが入ってこなかったのはジンの気配遮断の賜物だった。

 ジンはチサを巡る一帯を気配遮断で覆っており、他のリザードマンたちはゴライヤが治療をしていることにすら気付いていないのだから。


 そして三時間後ーー。


「今やれることは終わったわ。これで体力の減りは抑えられると思うけど、回復させるにはリスベスト病を治さなきゃ無理ね。回復さえしてくれれば他の傷も治療できるんだけどね。」


「そうか。ジンに代わってひとまずお礼を言わせてもらうでごわす。」


「良いのよ。クレボヤンスが帰って来ないということはジンは相応の対価をきっちり用意していたということでしょうし。」


 ゴライヤは、周囲の棚からすり鉢や乳棒、瓶に加えて幾つかの容器や薬品を準備してゆく。


「さて、後は馬鹿異種族が三つ持って帰ってこられるかどうかの勝負ね。馬鹿オーガは行かなくて良かったの?」


 ゴライヤは、チサに対する対応の不味さから、ジンとジークハルトの呼び方にかなり侮蔑が混じったものになっていた。元より自己紹介をしていないから仕方ないのかもしれないが。


「おいどんが行っても恐らく間に合わないでごわす。ジンが助けを求めてこないということはおいどんはここでチサを見ていればそれで良か。」


 ジークハルトは淡々とした口調で話す。


「あら、彼が戻ってこないとは思わないの?」


「思わないな。おいどんとジンとの付き合いは会ってからまだ二日も経っていないでごわすが、ジンはあれ程の若さであそこまでの力を持つに至った男でごわす。必ずジンは帰ってくる。」


 ジークハルトの言葉の強さにゴライヤは一瞬気後れするも、「そう。」と一言だけ返すと、先程の薬品を並べた机へと向かって薬の調合を始める。ゴライヤはジンが間に合うとは全く思っていなかった。だが、見るだけでここの集落に居るリザードマンとは一線を画す力を持つと分かるジークハルトがここまで言うのだ。


 ゴライヤもまたジンを信じようという気になり始めていた。


(変ね。もう間に合わないって分かってるのになんだか動かずにはいられないなんて。)


 こうして、治療室には薬品を混ぜ合わせる音だけがただただ染み渡るように響き続けるのだった。


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