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第136話 とりつく島もなく......

「なんだ? 敵は二人か?」


「馬鹿野郎! そんなわけないだろう。実は兵を伏せてるに決まってる!」


「おい! 本当にリザードマンともオーガとも違うやつがいるぞ!」


「もしかして、あの小さいやつが技能で仲間を消してるんじゃないか?」


 おいおい、マジかよ......。

 たしかに最後のやつが言ったことはやろうと思えば出来るが......いやいや!そうじゃなくて!

 俺とジークハルトの土下座はなんだったんだ。どうしてこんなことになっている?


 俺はリザードマンの方に目を向ける。集落としては大きくなかったおかげか数にして百ほどのリザードマンが10人ずつ10列で隊列を組み俺たちと向き合っていた。


 とは言うものの、隊列として整っているとはとてもでは無いが言い難く、おそらく寄せ集めなのだろうということがよく分かる有り様だった。それに加えてさっきまでここに居た勘違いリザードマンと同様に皆が痩せているのが目に見えてわかった。酷い者は体中の骨の形が浮き上がって見えるほどに。


「待て! 俺たちは戦いに来たんじゃ無い! 治療を頼みに来たんだ! 頼む。何の勘違いがあったのかは知らないが、俺たちは戦いに来たわけじゃないんだ。」


「おいどんからも頼むでごわす! お互いに戦うなんて無益なことをする必要はなか。」


 俺たちが頭を下げるとリザードマンの中でざわめきが起こる。


「こいつら戦いに来たわけじゃないのか?」


「話が違うぞ? オーガと謎の種族が攻めてきたんじゃなかったのか?」


「治療を頼みに来たと言っているぞ? しかも頭まで下げている。これは話だけでも聞いてやるべきではないか?」


「でもオーガだぞ? 俺たちをだまそうとしている線は無いか?」


 リザードマンたちは口々にそう話し始める。

 俺はなんとか上手くいってくれと必死で頭を下げ続けていた。


 そこに、一際目立つ声で大きな怒声が響き渡る。


「皆、鎮まれええええええい!」


 俺はふと声がする方へと目を向ける。そこには1人だけ異常なほどに顔を赤らめた年を取ったリザードマンと、その隣に頭を押さえて、しゃがみ込んでいる勘違いリザードマンが居た。


「よく聞け! そしてよく考えろ! 見たことも聞いたこともない種族と、今や虫の息のオーガが手を組む。これがどういうことかわかるか?」


 顔を赤らめたリザードマンは自身の目の前にいる群勢を扇動する様に滑らかに話す。リザードマンの中に少しずつ出始めていた融和的なムードがその言葉で一気に凍りつく。


「待て! 俺たちにそんなつもりは無い! この通りだ!」


 俺は再度土下座し、ジークハルトもまたそれに(なら)う。だが、俺たちの行為は即座に斬り捨てられる。迷うそぶりすら見せることもなく。


「ええい! 白々しいわ! その口実で無傷のままに内部へ潜入し、我らの隙を突いて伏兵で制圧するつもりだろう? 皆の者! 奴らを村に入れるな! 追い出すのだああああ。」


 もはやとりつく島もなかった俺は土下座から立ちあがり、こちらへ向かってくるリザードマンを見据えながらジークハルトに尋ねる。


「半分殺さずに制圧できるか?」


「あの状態のリザードマンならいくら居ようと問題ないでごわす。こうなったら仕方ないでごわす。」


「分かった。残りの半分は俺が何とかする。」


 そう言うと俺とジークハルトは、リザードマンの群勢の中へと突っ込んでゆく。

 今回は武器は使わない。気絶させるだけなら、黒影切の反りの部分を使った斬撃でも良かったのだが、この痩せ細ったリザードマンたちだと少しの間違いで死んでしまうかもしれなかったからだ。


 結局完全に決着が着くまでに一時間の時を要した。俺が53人、ジークハルトが47人を気絶させ、残るは勘違いリザードマンと指揮官と思われるリザードマンだけとなっていた。ただ、指揮官のリザードマンは先程とは変わって顔色がかなり悪くなっていた。


 俺はこの集落に入って初めて黒影切を取り出すと、指揮官のリザードマンの首元へと添える。


「おい、これで俺たちに戦う意思が無いことは十分に伝わっただろう? 頼む、治療の対価は払うから、医者を紹介してくれないか?」


 何故、リザードマン百人の制圧に1時間もかかったのか。実は俺は戦う意思が無いことを示す為に向かってくるリザードマンを気絶させるだけではなく、気絶させたリザードマンが踏まれないように避難させながら戦っていたからだ。


 勿論、チサを抱えて戦っていたのもあったのだが。


「くっ......。」


 指揮官のリザードマンはとても渋い顔をする。だが、遂に観念したのだろう。

 ゆっくりと口を開く。


「クレボヤンス、薬屋と医者の場所へ案内してやれ。」


「村長! だから、何度も言ったじゃないですか! 彼らは治療して欲しいだけだと。それに今この集落に足りないものだってーー。」


 ゴツン............!


 周囲に鈍い音が響き渡る。


「いっってええええええええ!」


「お前は黙って言われたとおりにしろ。」


 そう言うと、勘違いリザードマン......クレボヤンスは俺たちに向きなおり言う。


「では付いてきてください! 案内しますので。改めまして、俺はクレボヤンスって呼ばれてます。本名は長くて言うのは面倒なので割愛しますね! 得意なことは槍術、趣味は織物、性格はよくそそっかしいって言われます。好きな食べ物はーー。」


「待て、喋ってる余裕があったら全速力で案内してくれ。」


「うう......。分かりました。」


 クレボヤンスは一瞬肩を落とすもそれからは話すことなく俺たちを案内するのだった。








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