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第135話 勘違いと早とちり

 俺は目の前の光景に驚き、全身がまるで石像にでもなったかのように固まっていた。ジークハルトを見て必死で助けを懇願(?)していた勘違いリザードマンさえもが、目の前にいや眼下にと言った方が正しいだろうか。とにかく、信じがたい光景に一時動けなくなるほどだった。


「頼むでごわす。チサをこの少女の治療をして欲しいでごわす。」


 そう。ジークハルトが土下座していたのだ。それも積年の恨みがあるであろうリザードマンに対して、自分のことを「誇り高きオーガ族」とまで言ったジークハルトがだ。


 俺は驚きが勝ってしばらく思考が停止していた。だが、ジークハルトがチサのために土下座しているのにも関わらず、俺が土下座しないというのはあまりにも筋の通らない話だった。

 俺もまた、足止めをやめて地面に膝をついて頼む。


「失礼した。頼む。治療に見合うだけの対価は払わせてもらう。だから、だから......!チサを治療してもらえないだろうか......!」


 俺もまた、ジークハルトに並んで、勘違いリザードマンに向けて頭を地面に擦り付けて頼む。額から血が流れるが全く問題にはならない。チサを治療してもらえる可能性が少しでも上がるのならば。


「分かった! 分かったから顔をあげてくれい! どうやらあんたたちは俺たちに危害を加えるわけじゃないってこともな。ただ、俺が決めるには事態が重すぎる! 村長を呼んでくるから少しここで待っていてくれ!」


 そういうと勘違いリザードマンはかなりの速度で走り去ってゆく。俺はそれを見届けると土下座する為に一時的に地面に寝かされたチサを抱き上げ、ジークハルトと共に村長が来るのを待つのだった。



(村長! 村長! 村長! 村長!)


 夜の闇の中を、自称集落ナンバーワンの俊足の見張りをしていたリザードマンは一直線に駆け抜ける。彼は夜の闇をものともせぬほどの動きで歩く他のリザードマンにぶつかる事もなくそれでいてスピードを落とすこともなく走っていた。

 彼は今、村長に伝えるべき大切な案件を背負っていた。


「村長! 村長! そんちょーう!!」


 彼は見張りをしていた場所から数分の距離を走りきり、一つの他の土で出来た建物とほぼ変わらない家の扉を開け放つ。


「全くその騒々しさというかそそっかしさというか......なんとかならんのか!」


「村長! それが! 大変なんです! オーガが、オーガがああああ!」


「何!? オーガが攻めてきたというのか? おい! それはいくらなんでもまずいぞ! 今この集落には戦える者など殆どいないというのに。」


「いや、違うんです! オーガだけではなく、謎の知的生物まで......!」


「なんだと!!? オーガだけではなく、新たな生物と手を組んだとでもいうのか!!? それはまずい。そやつがもしオーガ以上の戦闘力を持っていればーー。」


 村長は見張りのリザードマンの報告を受け、焦りながらもぶつぶつと独り言を繰り返しながら対策を練っていく。


「それでですね......。」


「うるさい! お前はちょっと黙ってろ! ああ、そうだ。オーガが攻めてきたと言うのなら、今眠っているやつも皆叩き起こしてこい! 我らにはもう全力で戦える力は残されていないが、少しなら抵抗できるはずだ! 急げよ!」


「いや、でも。」


「でもじゃない! 一刻を争うんだ! 早くいかんかアアアア!!」


「はひぃ!」


 こうして見張りのリザードマンは肝心な部分を伝えることができず、渋々リザードマンの集落にいる男手を集めるために集落中を走り回ることになる。


(俺も酷い方だと思うが村長だって酷いじゃないか! 最後まで話を聞いてくれよ!)


 そう見張りをしていたリザードマンは思うも、村長に逆らえば痛い目を見るのは分かりきっていた。それゆえに村長の命に従って村中のリザードマンを呼び集めるのだった。




「なあ、ジークハルト。なんか村長を呼びに行っただけにしてはかなり集落内部が騒がしくないか?」


「おいどんもそう思うでごわす。」


 勘違いリザードマンが集落の中へと走り去ってから三十分ほどが経過していた。集落は今俺たちが居る入り口から反対側の入り口ギリギリ見えるほどの広さだったので、そう大きな集落ではないはずだった。にも関わらず、村長は来ず、集落内部のどよめきが大きくなり続けるだけだった。


「これは俺たちが直接入った方がいいんじゃないか?」


 俺はジークハルトに尋ねる。明らかに内部の様子が俺たちと話すためのそれではなかったからだ。


「待つでごわす。おいどんは、今入るべきではないと思うでごわす。どうやら、内部では戦える者を集めて小さいでごわすが軍を組織しているでごわす。今入れば大混乱に陥ってしまうでごわす。」


「分かった。」


 俺はジークハルトが気配察知の技能を使って教えてくれる情報に感謝する。とはいうもののどうして敵対する意思が無い者にこうして軍を差し向ける必要があるのか、俺はそれが疑問で仕方がなかった。


 村長はそれほどまでに高貴で、外に出ることでさえ、村を挙げての護衛が必要だったりするのか?

 そんな思考が頭をよぎる。


 だが、俺は刻々とチサの息遣いが弱々しくなってゆくのをつぶさに感じ取っていた。それゆえに中々こちらへ接触に来ないリザードマンに苛立(いらだ)ちを覚えていた。


「ジークハルト、直談判にー。」


「ダメでごわす。」


「ジークハルト、これはそろそろ行かなきゃー。」


「もう少し待つでごわす。」


「ジークハルトー。」


「落ち着くでごわす。ジン。」


「まだ何も言ってないじゃないか!」


 こうして俺が我慢できずに数分置きに中へと突入の提案をしようとするのをジークハルトに止められながら更に三十分が経過する。


 我慢の限界に達した俺はジークハルトに強制的に押し入ると言おうとする。

 だが、その時......!

 遂にリザードマン達が隊列を組んでこちらへ向かってくるのが見えた。


 そこでジークハルトは地面から立ち上がり、俺もまた同様にリザードマンの軍へと歩み寄る。

 俺たちとリザードマンの間に少しずつ張りつめた緊張感が漂い始めるのだった。


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