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第134話 リザードマンの集落

 俺がニードルウルフを狩りとってから十時間、景色は曇り空の薄暗さから夜空へと移行していた。なぜかこの大陸だけはこの大陸への上陸を阻む嵐がウソのように過ごしやすい気候ではあるのだが、常に立ち込める雲だけはどうしようも無かったのか星が見えることは無い。


 俺たちは、キノコのような傘を持つ木々の森を抜け、平原を走り続けていた。やはり、植物は皆褐色で、草のように尖った葉を持っていなければ、下手したら荒廃した大地が続いている......そう捉えてもなんらおかしくはなかった。


「ジン、あそこでごわす。」


 ジークハルトが、右腕を上げて指をさす。その先には確かに自然ではない多くの人工物と思われる建物が立ち並んでいた。


「そういえば今は夜だが大丈夫なのか?」


 俺はそれが気になってジークハルトに尋ねる。なんせ俺がこれまで旅してきた数々の町は基本的に夜は行動しないもしくは休みの時間であるのが普通だったからだ。勿論、マキラ領のような例外はあったが。


「問題ない。なぜなら、オーガとリザードマンは三千年常に戦いの環境にさらされ続けてきたでごわす。だからこそ昔は一日というサイクルで生きてきたおいどんやリザードマンの祖先は進化していったでごわす。より大きく、より長い時間を活動できるように。」


「長い時間? それはどのくらいなんだ?」


「個体差があるでごわす。ただ、おいどんの場合は二十四時間の活動の後に4時間の睡眠が取れれば十分に活動できる。長い者だと二日寝ずにパフォーマンスを落とさぬ者もいるほどでごわす。」


「それはすごいな。なら、このままチサを連れて行っても大丈夫ということだな?」


「そういうことでごわす。」


 俺はジークハルトの後に続いて猛スピードで走ってゆく。俺の心のなかはやっとチサを助けられるとそんな思いでいっぱいだった。最悪、拒まれれば人質をとって脅してでもチサを治療させるつもりだった。だが、俺はリザードマンの集落に近づくにつれてその様子がおかしいことに気づく。


 遠くからではわからなかったが、近づいていくと分かる。土で作られた家なのだろうか? 家の壁に向けて風が吹けば砂埃が舞うのが分かった。ただ、どの家も壁の表面がぼこぼこだったり、穴が空いていた。


「なあ、ジークハルト。リザードマンの住居というのはこういう造りなのか?」


「いや、何かがおかしいでごわす。少なくともおいどんがここに来た牢に入る前はここまで廃れてはいなかったでごわす。」


 俺はリザードマンの住居を直接見たことは無かった。無かったが今俺の目の前に広がっている光景は明らかにおかしかった。ジークハルトもおかしいというのだから俺の目に狂いはないのだろう。長い間整備されていないであろう凹凸が目立つ道、修理がずさんで所々崩れている集落を囲う壁、さらには見張りに立つリザードマンすらも監獄にいたリザードマンと比べれば明らかにやせ細っており、食料が足りていないことが目に見えて分かった。


「ジークハルト、気配遮断を解除するぞ。事情を聞くにしてもチサの治療をするにしてもまずは話をしなきゃどうしようも無いからな。」


「分かったでごわす。」


 こうして俺は集落の少し前で俺、チサ、ジークハルトにかけていた気配遮断を解除する。


「何! オーガだと!!! どこから現れたんだ??? いや、俺もここまで近づかれるまで気づけないほどに力が落ちたとでも言うのか? くそ! 村長に報告に報告にいかねば。オーガが攻めてきたと!」


 俺たちが急に姿を現したことで驚いた見張りは急いで集落の中へと走っていこうとする。

 俺はとっさにチサをジークハルトに預けると、急いで追いかけ、追い付いて足止めする。


「待て! 俺たちは敵じゃない! 話を聞いてはくれないか?」


「うおお! 集落一の足を持つはずの俺がオーガの子どもに追い付かれただと??? くそっ! みんなすまない俺はここまでのようだ。哀れ俺、飢えた末に見張りもろくにできずに敵に捕まり仲間を守ることさえできずに死ぬなんて、こんなのあんまりだ!」


 こいつ、一々喋りすぎじゃないか?大丈夫か?おい。

 俺はいろんな意味で目の前のリザードマンについて思うことはあるものの、そこは後で聞くとして、今は何に変えても頼まなければならないことがあった。


「おい! 勘違いリザードマン! 俺の顔をよく見やがれ! 後ろに居るのはオーガだが、俺はオーガじゃないぞ!」


「ヒィ! お許し......え?」


 勘違いリザードマンは俺を見てあっけにとられる。そんなに珍しいか? 俺が。だが、その一瞬の静寂がウソのように再び喧騒(けんそう)へと切り替わる。


「うあああああああああああ! なんだこいつは? 新種か? 新手の敵か? 第三勢力か? この体格差で振りほどけないなんてどういうことだ? くそおおおおお!」


 俺は頭を抱える。これじゃまるで話にならない。だが、俺はこの勘違いリザードマンに援軍をよびにいかせるわけにはいかなかった。この集落のリザードマンたちを相手にして負けるとは思わなかったが、チサを治療してもらうためには誰一人殺さず鎮圧する必要があり、そのために時間を割かれるのは何としても避けなければいけなかった。


 俺は普段なら殴ってでも......いや、黒影切でみねうちをして黙らせていただろう。だが、こちらには戦う意思が無いことを示さねばならなかった。だが俺には一向に良い方法が思い浮かばず、叫び散らすリザードマンの声を気配遮断で消し、集落に向かわれないように抑えつけるしかなかった。


 俺が困っていることに気づいたのだろうか?

 チサを抱えたジークハルトがこちらへと向かって近づいてくる。


「うあああああああ! オーガ! オーガああああああ! 殺される! どうか! どうか! 俺の命と家族の命と集落のみんなの命と住みかと食料とあわよくば俺の地位だけはおゆるしくださあああああああい!」


 俺はいや!いくらなんでも望みすぎだろう!と内心でツッコミをいれる。いや、口に出そうとしていただろう。だが、おれは次の瞬間、ジークハルトの取った行動に絶句し、このツッコミは俺の体内へと飲み込まれ消えてゆくのだった――。

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