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第132話 タイムリミット

 監獄の外には、あたり一面褐色といった風景が広がっていた。というのもこの監獄となっている塔以外に建物はなく、植物はあったが、それは緑という色ではなく全てが地面と同じ褐色であった。木の大きさは一本が五メートル前後で、全てがキノコのような傘を持っていた。

 ただこのまま俺にはそれを悠長に観察している暇はなく、ジークハルトの案内のもとオーガの集落へと向けて走り続けていた。


 こうしてチサを抱え、リザードマンの監獄から無事に脱出した俺たちだったが、ここで問題が生じる。


 不死身と自動回復を持つ俺は少し加減をすれば夜通し寝ずに走り続けることだってできた。故郷を追われてゲチスの追っ手から逃げ続けた時や、岩の大陸でマキラ領からデウス領まで走り抜けて内紛を鎮圧したことに比べれば、チサを抱えて監獄内を一気に突破した程度どうということはなかった。


 そう。問題はオーガであるジークハルトの方だった。確かにジークハルトは歴戦の戦士なのだろう。三十年という長い時間を監獄で過ごしたにも関わらず見ている方も惚れ惚れとするような肉体を維持しているのには、尊敬に値するものがあった。


 だが、持久力に関しては鍛えようが無かったのだろう。監獄は何とか抜け出すことはできたが、肩を大きく上下させながら息をしており、とてもではないがこのままオーガの集落まで保つとは思えなかった。


 俺は、足を止める。


「ゼェゼェ。ジン! どうしたでごわす? ゼェ......ゼェ。」


「休憩だ。ジークハルト。」


 俺は自分の腕の中でチサが弱っていくのを感じ、いてもたってもいられない気持ちではあった。だが、この状態のジークハルトを酷使し続けてオーガの集落までたどりつけるかと言われれば答えは否だろう。


 だがジークハルトは言う。


「ゼェ......ゼェ。ジン! このままだとチサが死んでしまうだろう。おいどんはどうなってもいいでごわす。一刻も早く集落まで......。」


「待て、ジークハルト。落ち着くんだ。このまま走り続けたとして、お前の体力は保つのか?」


 俺はゆっくりとチサが弱っていくのを感じてはいた。いたのだが、自分でも恐ろしくなるほどに冷静だった。きっと俺だけだったらこうも冷静にはなれなかっただろう。もしかすれば怒り狂って暴走していたかもしれない。

 そう思えば、目の前で今にも倒れるんではないかと呼吸を乱してでもチサを助けようとしてくれるジークハルトの存在がありがたかった。


「それは......気合でなんとかするでごわす! ゼェ......ゼェ。」


 それでも頑なに急ごうとするジークハルトを俺は宥める。


「落ち着け、ジークハルト。焦ってお前が倒れた元も子もないだろう。俺はオーガの集落のことなんか知らないし顔見知りだっていない。お前がいなきゃ門前払いされて終わりなんだ。ちょっとは考えてくれよ。」


「すまないでごわす。だが、ここで止まっていてはチサは助からないだろう?」


「なら、お前の集落まであと何日かかるんだ?」


「このままいけばあと三日でごわす。」


「なるほどな。なら、最寄りのリザードマンの集落ならどうだ?」


 ジークハルトは俺がリザードマンの集落のことを聞いた瞬間、明らかな戸惑いと怒りが浮かび始める。


「どうしてリザードマンの集落が出てくるでごわすか!!? あんな目に遭わされてー。」


「いいから。」


 俺はジークハルトを威圧する。断っておくがこれは技能による威圧ではない。ただこのままジークハルトにごねられてはチサを救える可能性は刻々とゼロに近付いてゆくのだから。


 俺の圧力に堪らずジークハルトはたじろぐ。背丈こそ俺はオーガのジークハルトの半分程度しかなかったが、明らかにレベルが違った。ゆえにブランクがあるとはいえど、歴戦の戦士であるジークハルトでさえもたじろがせることに成功する。


「......くっ! おいどんの知る最寄りのリザードマンの集落までは半日でいけるでごわす。」


「そうか。なら、そこへ向かってくれ。」


「なっ......! ジン! 正気でごわすか!? 恐らくおいどんとジンが行っても取り合ってすら貰えないでごわす!」


「ジークハルト......! 俺だってお前の集落まで行ってそこで治療できるのならそれがいいと思う......。」


「ならばー。」


「だがな、ジークハルト。チサは今、三時間に1ずつのペースで体力が減っているんだ。だからこのまま体力が減れば、もうあと一日ちょっとでチサは死んでしまうんだ!」


「くっ......! 分かったでごわす。案内するでごわす。」


 俺の剣幕を見て、チサの現状を知ったジークハルトは渋々リザードマンの集落へと向かうことを承諾する。


 少し立ち止まって話す間に呼吸を整えたジークハルトはこれまで走っていた道ではなく、そこから逸れた道なき少し暗くなっている森の中を指さす。

 といっても木のてっぺんがキノコの傘のように広がっている為、地上には十分すぎるほどの移動できるスペースがあった


「ジン! 少し時間はかかるかもしれないが、いくつか獲物を狩ってからいくでごわす。無一文では流石に治療してもらえぬでごわす。」


 確かにそうだ。治療に対する対価を支払うのは当然のことだろう。それがたとえ、リザードマンにとって敵であるジークハルトと、未知の生き物である俺とチサであってもだ。


「わかった。もう行けるか? ジークハルト。」


「無論でごわす。」


 こうしてチサを抱えた俺とジークハルトは、巨大キノコが茂ったかのような暗い森の中へと入ってゆく。


 チサの死へのタイムリミットは刻一刻と近付いていたー。






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