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第129話 監獄を駆け抜けて

 それから二日後――。


 俺は同じ階に収監されていたオーガのジークハルトを案内役として助け出し、ジークハルトの案内の元、無事に上階へと続く階段に誰からも見つかることなく到着していた。


「これはまた......! 上るのにかなり骨が折れそうな段差だな。」


 俺の目の前には、普段の俺が知る階段とはまるでスケールが違い、比較的背が低い俺だと、一段が股下くらいの高さがあった。


「おいどんはなんとも思わぬでごわすが、ジンの住んでいた大陸では階段というのはこういうものではなかったのか?」


「ああ、基本的に俺と同じくらいの背丈のやつに合わせた作りになってたからな。高さで言うなら、一段がこれの三分の一ってところだな。」


「それはずいぶんとひくいでごわす。おいどんがその階段を使うとすればこけそうでごわす。」


「さて、無駄話はこの辺にして、さっさとこの階段を上るか。」


 俺は階段の一段一段を飛ぶように上り、ジークハルトは普通に歩いて上る。俺はジークハルトが羨ましかった。なんせなんの苦労もなく上ってゆけるのだから。俺は体が小さいがゆえに一々障害物を飛び越えるかのように上らねばならなかった。


「ふ~! やっと上り切った。」


 段数としては、五十ほどで、体力的には同じ段差があと千段続いたとしても余裕で上りきることのできるレベルではあるのだが、自分の中にある常識と違う階段を上らされたおかげで精神的には体力の減り以上の疲れがあった。とはいえこの大陸にしばらく居るからにはじきに慣れるだろうとそう開き直る。


「ジンどうする? ここから中にはいるにはこの扉を開ける必要があるでごわす。」


 階段を上り終えた俺たちの眼前には巨大な扉が行く手を阻むかのように立ちはだかっていた。


「なるほどな。下に行けば出口があるからこそ、上階に上る場所には扉が無く、下階に降りる側にはこうして頑丈な扉がついているってことか。」


「そうでごわす。さらに丁寧なことに、万が一脱走されたとして逃げ切るまで時間が稼げるように上り階段と下り階段はフロアの最も離れた場所に作られているでごわす。」


「それはかなり面倒だな。とはいえチサはまだ上の階にいるみたいだ。」


「そんなこともわかるでごわすか!!? ジンは多芸でごわす。とはいえ、ここより、もう一つ上となると死刑罪や拷問専門のフロアとなるでごわす。となるとジンの相方は―。」


「ジークハルト。大丈夫だ今はまだ生きている。だが、死刑と拷問専用のフロアになぜチサがいるんだ? 俺の元へ事情を聞きに来た戦士長とやらはチサに手を出していない風な口ぶりだったが。」


「ジンそれは不味いでごわす。リザードマンの内部では、戦士長はおいどんの知る限り、数人の戦士をまとめるだけに存在するかなり下の役職でごわす。つまり―。」


「つまり、本当のところは知らない可能性が高いと?」


「そういうことでごわす。」


 俺は手を強く握りしめて今にも駆け出したくなる気持ちを必死で抑える。強く握りしめすぎた影響か、指の爪が手に食い込み血が流れる。


「なあ、ジークハルト、この扉どうやって突破するのがいいと思う?」


「待て、ジン。下から誰かが上ってくる。おそらく見張りの看守だろう。扉が開いたらその隙をついて入ろう。」


「......分かった。とはいえジークハルトはどうしてそんなことが分かるんだ。俺の気配遮断だって見破ったしな。」


「おいどんの技能は気配察知でごわす。使用すればかなり広い範囲の気配が、使わずともおいどんの近くに誰かが入れば、瞬時に分かるようになっているでごわす。とはいえ初めて声をかけた時、ジンは居るのかいないのかよく分からなかったでごわすが。」


「なるほどな。気配察知か。まさに俺の天敵のような技能だな。」


 俺は何とか焦る心をジークハルトと話すことで落ち着かせ扉の前で待つこと数分。本当にジークハルトの言う通り看守がやってきた。しかも驚くことに今現れたリザードマンは、俺へ事情を聞きに来たリザードマンだった。きっとこれから報告に向かうのだろう。


「ジン 抑えるでごわす。殺気がだだ漏れでごわす。あのリザードマンと何があったのかは察するに余りあるでごわすが、今は抑えるんだ。」


「すまない。お、扉が開くぞ。いくか。案内は大丈夫なのか?」


「任せて欲しい。おいどんは何度も拷問を受けた身であるからここから上のフロアに関しては知り尽くしているでごわす。」


「分かった。なら案内は任せたぞ。周りの奴には見つからないように俺が引き続き気配遮断をかけ続けるから、最短ルートで。」


 そういって軽く打ち合わせをした後、ギギギと鈍い音を立ててリザードマンがギリギリ一人通れるだけ扉が開く。俺とジークハルトはその隙間をぬってフロアへの侵入を果たすと一直線に、上階へと上る階段へと向けて駆けてゆく。俺は全くと言っていいほど動かないチサの反応に不安を覚えるも必死でその気持ちを抑え込む。いくら俺でも脱走防止のためか、広く入り組んだフロアをむやみに走り回っていてはいつまでたってもチサの元へはたどり着けないのだから。


 そして二十分ほどジークハルトの後ろをついて走ったのち、遂に上階へと続く階段の前へとたどり着くことに成功する。

 こうして俺たちは、チサを助け出すために上階へと上ってゆくのだった。


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