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第128話 チサの窮状③

「おいおいウソだろう? まだ生きているとでも言うのか?」


 チサが監禁されている、爆発のおかげでそこらじゅうに瓦礫(がれき)が飛び散った牢の中を見て十数人のリザードマンの先頭を歩く男が言う。


「どう......いう......ことじゃ? さっき妾を道連れにしようとしたリザードマンは首領では無かったのかの?」


 チサが切れ切れになってつむいだ質問にリザードマンの首領は、一瞬呆気に取られたような表情をしたあと盛大に笑う。

 それに合わせるかのように、周囲のリザードマンたちもチサを笑い飛ばす。


「ガハハハハハ! そうか。奴は道連れにしようとしたのか。残念だったな。異大陸からの訪問者よ。私が正真正銘の首領だ! バリファント・マッケンリー・スプライト・ドルチェ・ヴェータ・アクトラス・ソルヴェータ・ソンだ。」


「相変わらず......長ったるい名前......じゃの。」


「ふん! 減らず口を。我らは燦然(さんぜん)たる武勇のリザードマン族であるからな。この名全てに我ら三千余年の歴史が詰まっているのだ。」


 バリファントはチサを見下ろしていた。現在チサは、影武者の道連れによる爆破で吹き飛ばされた影響で、最初ベッドに寝かされていた仰向けの状態から、地べたにうつ伏せの状態に変わっていた。

 それゆえに重さの制限からは解放されたものの、床にダークマターがめり込み、チサは大の字のまま動けなくなってしまっていた。頑張って首をあげてもリザードマンの膝程度までしか見えず、地面に顔をくっつけたまま話していた。


「何故......じゃ? 何故、お主は影武者を......わざわざ......あんな危険に晒したのじゃ? 殺すのなら、妾が気絶している間でも......良かったであろう?」


 チサは一つ疑問に思っていたことを尋ねる。そうなのだ。チサを処分するだけならよっぽど、気絶している無防備な時に首を落とすなり、灼熱の海に投げ捨てるなりすればよかったのだ。

 わざわざ仲間の命を犠牲にする意味がわからなかった。


「そりゃあ決まってるだろう? 俺の名に傷をつけないためだ。いくら異大陸からの道の生物だって、それが人型で知性もあるのに問答無用で殺したなんてことが漏れるのは外聞が悪いだろう? だから、こういうシナリオを作ったわけさ。我らが同朋(どうぼう)を殺した者を裁いたとな。」


「もし......もし、妾がそやつを殺していなければどうするつもりじゃった?」


 チサは目線だけを、体を爆発させてボロボロになって死んだリザードマンへと向ける。


「そんなの決まっているだろう! 時限式だったのさ。今意識があるってことはさっきの私の話も聞いていたのだろう? 『どうやら上手く自爆したようだ』って言ったのをな。結果としては今の話を聞く限り自爆じゃ無かったが、奴はここに向かった時点で死ぬ運命は既に決まっていたのさ。」


 バリファントは高笑いする。それに合わせて周囲のリザードマンたちもバリファントに同意するかのように笑い出す。その笑い声が響き渡る中で満身創痍で血塗れの少女はつぶやいた。


「救いようの無い......クズじゃの。」


 その瞬間、バリファントを含めたリザードマンたち全員の笑い声が一瞬にして硬直する。


「おい? 今なんて言った? お前、私のことをクズと言ったか? 聞き間違いだよな? 私は心が広いから、今、地面に頭を擦り付けて謝罪すれば、苦しめずに殺してやるぞ。私は、子どもには優しい男で通っているからな。」


「すまぬのじゃ。妾が間違っていたー。」


「おお! 素直なのはいいことだ。過ちを認めることは大事なことだからー。」


「お主は、クズでバカで、どうしようもないイカれポンチなのじゃ! まだ、こき捨てられた糞の方がマシなレベルでのう! はあ......!はあ......!」


 チサは息を切らしながらなけなしの体力を振り絞って叫ぶ。目の前にいるバリファントへと向けて。

 バリファントは(ほお)を怒りでヒクヒクと震わせていた。彼は、こう見えてリザードマンとオーガとの長きにわたる戦いで一代でオーガ側に王手をかけるほどの実績を挙げた実力者であった。

 ゆえにここ数十年、ここまで面と向かって非難された経験がなかったのだ。

 チサに全力で卑下されたバリファントの怒りは既に天頂を突破したと言っても過言では無かった。


「おい。お前、このガキを仰向けにしろ。この傷ついた体にダークマターの重みを味あわせてやれ。」


「はい! 首領! 了解です!」


 そう言うと二人ほどのリザードマンが、檻の中へと入ってきて持ち上げ、チサの体をひっくり返して3mほどの高さから地面に落とす。


 ドシン! グシャ......! 少女の体からは想像できないほどの鈍い音が周囲へと響く


「......くうう!」


 チサの耳をすまさねば聞き逃してしまうかというほどかぼそく小さなうめき声が周囲に響く。当然だろう。落下に合わせてチサの小さな体は地面につく衝撃と、ダークマターの重量に挟み撃ちにされたのだから。


「言わせておけばこのガキガアアアアアアアアア! 良いだろう。ここまで私を怒らせたやつはここ数十年覚えがないが、そこまで望むのなら、むごたらしく、見るのもはばかられるほどに残酷に、更には汚物まみれにして殺してやろう!」


 チサが地面に落ちたことを確認したリザードマンの首領は怒りを声に出して怒鳴り散らす。

 そしてある程度怒鳴った後、バリファントは聞く者に畏怖をもたらすのではないかと言う程冷たい声で指示を出す。


「おい。やめだ。今すぐ殺すのはやめにする。ダークマターをあと5つ追加しろ。そして、明日の朝生きていたら、傷口を焼いてやれ。

 明後日の朝、生きていたら、糞尿を浴びせてやれ。飯はやらなくていい。俺をけなしたことを後悔しながら死んでゆけばいい。」


 そう言うとチサの体の上にダークマターが追加で置かれ、チサの体の傷口が、その圧力で傷口が開き血が溢れ出す。


「......ッ。」


 チサにはもはや、言葉を発する力も残っておらず、ただただ、無防備で小さな体に襲いかかる重みを逸らすことで精一杯だっだ。


 こうしてリザードマンが去った後の独房でチサは思う。


(ジン、なんとか命は繋いだのじゃが、早く助けにきてくれぬと妾の体が保たぬのじゃ。うう......こんな事になるとは思っておらなんだのじゃが。)


「水波・受水竜」


 チサは技を発動する。とてもではないが、受け切れる重さを超えていたからだ。とはいえ、自身に密着しているダークマターの重量を全て逃せるわけではないのだが。そうして自身の手から技を独立させたあとチサは静かに意識を手放すのだったー。




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