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第127話 チサの窮状②

「水波・竜水樹!」


 チサは立て続けに技を繰り出す。拘束したリザードマンの首領の頭上にチサが作り出した水竜を待機させ、チサは(おど)しをかける。


「はぁ......はぁ......! さあ、バリファントとやら。死にたく無ければ妾につけたこのダークマターとやらを外してはくれぬかの? ......もし外さぬというのなら、お主の頭上にいる水竜で体を内部からズタズタにしてやるのじゃ。」


 そう言ってチサは悪魔の様な笑みを浮かべていた。だが、チサの顔には普段なら絶対に流すことのない汗がにじんでいた。そもそも普段のチサは水陣の技能を使って自分の体を常に薄い水の膜で覆い、自分の体につく汚れや、体から出る汗などを全て流していた。だから汗をかいても普通なら見えないはずなのである。


「ふぅぅ......! ですが、良いのですか? ここで私を殺しては、ダークマターを外す事ができませんよ? それを外すには専用のバーナーが必要です。このままでは取りに行くことすらままなりませんよ?」


 バリファントは、先ほどまでは予想外の拘束で取り乱しはしたものの、落ち着きを取り戻して言う。バリファントにとっては、完全に自分が優勢だった状態から、拘束されて五分(ごぶ)に持ち込まれただけということに気付いたのだ。


「はぁ......はぁ......! そんなもの、別の部下を呼べば良いじゃろう? お主が首領なら、そのくらい容易かろう!」


「いいえ。ダークマターを外すための専用のバーナーは、悪用されないためにも、首領のみにしか入ることの出来ない部屋に厳重に保管されているのです。ですから、私が部下に命じてもそれを外すことはできないのですよ。」


 チサは完全に追い込まれていた。もしかしたら首領はウソを言っているのかもしれないが、この大陸の情報をゼロに近いレベルで持っていないチサにとってそれを証明する手立てなど無かった。


「はぁ......はぁ......! なら、お主には死んでもらうしかないかのう。残念じゃが。最後に聞くが、本当にダークマターを外すことはできぬのじゃな?」


「ええ。残念ですが。私を解放してくださらぬのなら無理でしょうね。」


 チサは何か言い知れぬ不安を感じる。

 自分を生かしておいたリザードマンに対して。

 そもそもここまで厳重に拘束する余裕があったのなら、チサが気絶している間に殺す事だってできた筈だ。他大陸に関する情報を無理に聞き出そうとしないことや、首領が迂闊(うかつ)にチサへと近付いた事にも疑問が残る。


(どういう事じゃ? 何故これから死ぬというのにこうも冷静でいられるのじゃ? それに妾をわざわざ生かしておく意味はなんじゃ? 分からぬが、このまま生かされるというのであればまだ逃げるチャンスはある筈じゃ! ここは妾も本気を見せるしかないかのう。)


 チサを生かす事。それは最低でも食事を運ばれるということ。その度に人質......リザードマンだから、違うかもしれないが。を取ってリザードマンを恐喝する、もしくは、この牢の壁や格子はダークマター製では無かった。つまり、技を打てば容易に破壊出来るということだ。それによって相手を脅す事だってできる。チサはそう考え直すと、目の前のバリファントへ、水波・竜水樹をぶつける事にする。

 殺せなければ、チサ自身が誰も殺せないやつだと舐められる可能性があったからだ。


「バリファント! お主には申し訳ないが死んでもらうのじゃ。妾がここから逃げ出す為にもの!」


「ええ。こうなった時から覚悟はできてます。」


 やけに潔すぎる相手にチサは何か違和感を感じ取るも、上空に待機した技をリザードマンに貫通させる。貫通と言っても穴が空くわけではなく体内に直接ダメージを与えるのだ。そして竜が突き抜けた瞬間だったーー!


「なんじゃーーー!!?」


 チサの感じた違和感は、現実となって襲いかかる。チサの視界を鋭い閃光(せんこう)が襲った後、その牢の中に破砕と爆破の爆音が響き渡る。


 バゴオオオオオオオオオオオン!!!


 小さな小さな少女は自身の超至近距離で巻き起こる爆破を、拘束された影響と不意打ちでガードすることも出来ずに受け、宙を舞い、近くの壁に叩きつけられる。


「けほ......!」


 チサは弱弱しく体の中の空気を吐き出す。壁にぶつかろうと取れないダークマターとともに冷たく硬い床を数回バウンドしチサはその場に倒れ伏す。


(どういうことじゃ? まさか、バリファントは体内に爆弾でも仕込んでおったのか!!? くうう焦りでそんなことも見えておらんかったとはのう。じゃが、首領は確実に死んだ筈じゃ。これでリザードマン内部が混乱して隙が出来てくれれば良いのじゃが......。)


 チサは爆発の余韻でチカチカする視界、体に受けたダメージ、全身に取り付けられたダークマターの重量......。それらが蓄積し、最早生きているのが不思議な程だった。それでも意識を落とすことなく逃げるための方法だけを考えていた。


「おい! どうやら上手く自爆してくれたようだ。奴の遺族にたんまり謝礼金を容易しておけ。ケチるなよ? こんなところで不和を起こすわけにはいかないからな。」


「はっ! 首領! かしこまりましたァ!」


 遠くから、十数人ほどの足音と、首領と呼ばれる者の声がチサの耳へと届いてくる。


「なん......じゃ......と?」


 チサは薄れそうになる意識をなんとか繋ぎ止めながら、その会話へと耳を傾けるのだった。





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