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第122話 脱獄するジン

「なあ、そろそろこれ外してくれないか? そしてお前の言う小娘に合わせてはくれないか? まさかチサを人質に取り続けて、出来る限り情報を絞り取ろうってわけじゃ無いよな?」


 一時間、一方的に話し続け、流石の俺もそろそろ(しび)れを切らし始めていた。


 どこからきたのか。

 どうやってきたのか。

 誰かの差し金か。

 征服でもしにきたのか。

 どうやってその強さを得たのか。

 この大陸で何をするつもりだ。


 等々、終わらない質問責めにさらされていた。

 このリザードマンが有能だったことも俺にストレスを与えていた。


 俺が、あえて創造神や世界法が絡むような内容の部分を別の話で置き換えたり、深く言及されないように気を使って話しているにもかかわらず、ピンポイントでそこを指摘して聞き出そうとしてくるのだ。

 元々、俺はそういうことを誤魔化すのが上手くなかったがゆえに仕方ないのかもしれないが、森の大陸や岩の大陸では通じていた話がここでは一向に通らなかったのだ。


「そうは言われてもな。ジン、お前は何か私に隠しているだろう? 分かるんだ。私にはその手の技能があるからな。そうである以上、信に値するとは言い切れないのだ。」


 くそっ。面倒だ。別に世界法については話してもいいかもしれないが、創造神に関しては話すわけにはいかない。どうせ話しても信じてもらえないだろうし、そもそも外の世界について教えてこの大陸を出ようなどと思うものを出すわけにはいかなかった。


「堂々めぐりだな。俺はこれ以上話すことは出来ない。これ以上はバルキャス達リザードマンは踏みこんではいけない領域なんだ。それでも俺から無理やり聞き出そうというのなら――俺はお前たちリザードマンと敵対するしかなくなる。」


 俺はそう言うや否や、バルキャスを睨みつける。明らかにバルキャスの顔には動揺が浮かんでいた。戦士長というからには相応の地位にはあるのだろうが、この動揺から、自分一人では判断しかねると思っているのは間違いなかった。


「すまない。私一人では判断し兼ねる。一旦失礼する。」


 そう言うとバルキャスは急いで走り去ってゆく。走る時、尻尾と翼は邪魔ではないかと思ったが、翼はきれいに折りたたみ、尻尾はお腹に巻いて走っているのがよくわかった。


 さてここからバルキャスが走り去ったということ。それは俺から監視の目を外したと言うことだ。つまり、俺がチサの安否を確認しに行けるということ。

 俺の体にビッシリとついた球体の重りは確かに普通の人間やリザードマンであればとてもじゃないが動けたものではないだろう。だが俺は不死身と自動回復と気配遮断がある。これらを駆使すればどうにでもできるのだ。


 まずは、逃げたことがバレないように実像分身を一体作り出す。この分身は俺の見た目や持っているモノがそのまま偽造品としてコピーできるのが便利だ。


 次に俺だけに気配遮断を発動し、黒影切を呼び出す。


 そして最後に、皮膚ごと球体の拘束具を剥ぎ取ってゆく。ボトン、ボトン、ビシャア......!


「痛ってぇぇぇぇ......」


 俺は歯を食いしばり痛みに耐えながら切り落としてゆく。自動回復のおかげでこの傷も数時間と経たないうちに完治はするがやはり、痛みは何度経験しても慣れないものなのだ。

 そして全ての球体を切り落とした俺は、体全身真っ赤なまま歩き出す。まずは、鉄格子を切り落とし気配遮断で隠蔽する。


「黒・ジン」

「気配遮断」


 隠蔽が終わった俺は、まだ痛む体を引きずりながら、ひとまず、バルキャスが走り去った方向へと進んでゆく。どうやらこの空間一体が牢屋らしく、多くのリザードマンが、俺ほどでは無いものの、あの黒い球体を体につけたまま鉄格子の内側で生活していた。


 途中見回りのリザードマンはいたが、当然俺に気付くことは出来ない。と思ったら、いくつか檻を通り過ぎたあたりで、間違いなく俺を認識した声が響く。


「おい! おいどんも連れて行ってくれ。 異種族の少年よ。」


 俺は一瞬監視の兵に見つかったのかと思い身構えるもすぐに違うことが分かる。


「待て待て。こっちだこっち。血塗れの少年よ。少年はまだこの地について何も知らぬのだろう? おいどんを連れ出せば必ず役に立つ。だからおいどんをここから出してはくれないか?」


「はっはっは〜異種族の少年? 遂に頭がイカれたか! 元ナンバー1戦士も長年の監禁生活で幻覚まで見えるようになってしまったか。」


「ちげぇねぇ! なんせもうここにきてから三十年以上経つだろうからな。ここの囚人以外まともに覚えちゃいねぇって。」


「馬鹿野郎! そんなわけないだろ。この大陸の老いぼれ連中は今も覚えているはずさ。出ていけば震え上がるレベルでな!」


 周囲の檻からは聞いているだけでも不愉快な嘲笑や話声がそこら中から響き渡る。見つかることはまず無いだろうが、沢山の俺を探す監視の目があれば気配遮断が解かれる可能性も上がる。

 俺は周囲の囚人たちの声全てに気配遮断を発動する。ひとまずこれで、看守の類がやってくることは無いだろう。


 さて、現にどうやったかは分からないが、旅を始めてから初めて俺の気配遮断を見破られたのだ。これを放って置くわけにはいかなかった。

 俺は俺へと声を掛けた檻へと目を向ける。そこにはリザードマンではない全身真っ青な、片腕の、しかしながら、見る方が惚れ惚れする様な監禁生活を続けているとは思えない筋肉と、顔には少ししわが入り始めているものの、()りの深い精悍(せいかん)な雰囲気を漂わせる、見ただけで只者(ただもの)ではないそんな男があぐらをかいて堂々と座っていた。


「あまりにも気配を消すのが(うま)かったからおいどん、見間違いかと思ったが、そうでは無かったようだ。声をかけて良かったよ。」


 俺はその言葉で完全に俺の気配遮断を見破られていることを確信する。そうして俺は、一刻も早くチサの元へ行きたい気持ちはあったが、目の前の男と話してみたい欲求に駆られるままに檻の中の男へと話しかけるのだった―。





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